上 下
128 / 133
探索者ライフ②パーティーハウスを建てよう!

一回目の建築

しおりを挟む
 パーティーハウスの打ち合わせが終わって、はや二日が過ぎた。

「ふっ……よっと……」

 建設予定地では、クリスが一人で黙々と建築作業を続けていた。
 仲間に約束した通り、彼は誰の手も借りずに資材を運び、解体し、組み合わせている。一流の職人ですら目を見張る動きに、野次馬達は感心するばかりだ。

「すげえな、オロックリンのやつ。昨日の夜から敷地に来たかと思ったら、寝ずにあの調子でずっと作業してんだぜ」
「俺達が手伝うって言っても、自分でやりたいの一点張りだしな」
「そっとしておいてやりなよ。あの子はきっと、自分の手で恩返しをしたいんだよ」

 既にホープ・タウンに住む住人には知れ渡っているが、クリス・オロックリンという人間は、意外にも頑固者なのだ。
 自分がやると言ったら自分がやるし、手助け無用と言えば手助け無用。
 助力すると申し出ても、気持ちだけをしっかりと受け取るのみに留まるのだ。
 そんな彼の作業工程は、おおむね順調に進んでいる。何もなかった敷地に、家の基盤がしっかりと完成しつつある。

「一階はおおむね完成かな、あとは……」

 頭に巻いたタオルを外し、首元の汗を拭うクリスは、ふと視線を前に向けた。

「おーい、オロックリン!」

 両手に籠を持った夫婦が、どたどたと駆けてきたのを見たからだ。

「あれは確か、素材屋の……どうかしましたかーっ?」

 パーティーハウスに素材を分けてくれた素材屋だと知っているクリスが手を振ると、相手も手を振り返しながら、彼のもとへとやってくる。

「うちの家内が昼飯を作ったんだ、一緒に食べないかーっ!」
「ありがとうございます、いただきますーっ!」

 大声に大声で返して少しすると、二人はクリスのそばにやって来た。
 素材屋の夫婦は空いたところにどっかりと座り、籠の中身を広げた。
 ほんのりと香るパンにソーセージ、ゆで卵の昼食は、シンプルながらこれ以上にありがたいものはないだろう。
 クリスも近くの資材に腰かけ、パンを手に取った。

「ちょうどお腹が空いてたので、助かります。けど、どうして急に?」

 パンをかじる彼に、素材屋の男が言った。

「お前が作業に手を出されたくないってのは分かってたがな、どうしてもああして頑張ってるのを見ると助けてやりたくなってよ。ほら、お前はしょっちゅう暖炉やかまどの整備をしてくれたろ?」
「整備ってほどじゃないです。いつもきれいに使ってるから、手助けくらいですよ」

 クリスがこんな風に返事したのを、街の住民は何度聞いただろうか。
 無私の心で修理し、その後のメンテナンスまでしてくれるだけでなく、性能を上げてくれる。こんな技術士エンジニアが、世に何人いるというのか。
 相変わらず謙虚すぎるな、と夫婦は顔を見合わせて笑った。

「それでも、お前のおかげで長持ちしてるのは事実さ」
「隣の奥さんもそうよ。壁を補強してくれてから、ひび一つ入らないのよ!」
「うちの兄貴だって同じだ、同じ技術士エンジニアなのに、いつもツールをメンテナンスしてくれるんだってな。普通は技術士どうし、手の内を隠すのにな」

 素材屋の兄を、当然クリスは知っている。
 ツールが壊れて途方に暮れていたところを、彼が助けたのだから。
 ただ、クリスは増長など少しもしなかった。

「……それ以上に、俺が助けられてるんです」

 彼はいつも感謝していた。
 自分がホープ・タウンに来て、探索者として活動し続けられているのは、街の人々が助けてくれているからだと、彼は常々感謝していた。
 素材を分け与えてくれる。
 探索者の活動を支えてくれている。
 ここまでしてくれている相手に、どれだけ恩返しをしても足りないとクリスは思っていた。

「こうしてお昼ご飯をもらって、素材をもらって、色んな所で支えられてる。俺はどんな時もありがたいって思ってますし、修理や整備はそれしかできない、俺の恩返しです」

 彼の言葉は謙虚さでも何でもない、本心だ。

「仲間にも……カムナやフレイヤ、リゼットにマガツ、皆に恩を返したいんです。守ってくれて、助けてもらって、おかげで俺は前に進めてるから」

 前に進み続けられるお礼をするのは今しかないと、彼は確信しているのだ。
 ソーセージにかぶりつきながら、クリスは立ち上がった。

「お昼、ありがとうございました。それじゃ、作業に戻ってきます」

 そして軽く頭を下げると、再びパーティーハウスの予定地に戻っていった。

「不器用だなあ、オロックリンは」
「でも、カムナちゃん達があの子を好きになる理由が分かるわね。ちょっと危ういけど本当に優しくて、人を想う気持ちが誰よりも強いもの」
「ははっ、そういう気持ちが暴走しなきゃいいんだがな!」

 ピクニックのように籠を広げて作業を眺める素材屋夫婦の声を聞いていると、なぜか心の底から元気が沸き上がってくるような気がして、クリスの口元は笑っていた。

 ツールを動かす手が軽くなる。
 運ぶ資材も、心なし重く感じない。
 そのうちクリスは、時間の感覚すら忘れるようになっていた。
 ただただ無我夢中に、仲間達の笑顔を見たいとだけ考えていると、疲労なんて吹き飛んだし、ひたすら自分の活動に集中できた。

 陽が上った。
 陽が沈んだ。
 何度か空の色が変わるのを肌で感じているうち、とうとうクリスの手は止まった。

「……できた……!」

 それはつまり、パーティーハウスの完成を意味していた。

「これが、俺と皆の……パーティーハウス……!」

 皆の要望を詰め込んだ理想の家は、上り行く日の光を浴びて輝いてすら見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

璃音
ファンタジー
 主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。 果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?  これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。  

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。