上 下
124 / 133
探索者ライフ②パーティーハウスを建てよう!

夢のパーティーハウス

しおりを挟む
 その日、『クリス・オーダー』はやけに緊張した面持ちで、エクスペディション・ギルドのカウンター前に並んでいた。
 彼らの前で書類をペラペラとめくっているのは、ギルドのご意見番、ケビンだ。

「……お待たせ。結果を報告するね」

 静かな声に、思わず一同が息を呑む。
 特に張り詰めた顔を見せるクリスに視線を移して、ケビンは小さく笑った。

「帝都は『クリス・オーダー』のパーティーハウス建築を――許可してくれたよ」
「「やったーっ!」」

 ケビンがそう告げた瞬間、ギルドがわっと湧いた。
 まるでクリス達の喜びが、自分達の喜びでもあるようだ。
 周りの探索者やギルドスタッフ達でもこの喜びようなのだから、ケビンに握手するクリスだけでなく、抱き合うカムナ達パーティーメンバ―の喜びようは尋常ではない。
 なんせ、パーティーハウスとは一種のステータス。
 ランクを飛び越えて、一流探索者として認められた証なのだから。

「ありがとうございます、ケビンさん! 一時はどうなるかと……」
「いや、僕も正直、急に帝都側から待ったが入るとは思ってなかったよ。これまで起こしてきたトラブルに噛みついてきたのは、もしかしたら元帝都技術士協会の嫌がらせかもしれないね」

 本来ならばもう少し早く建築に入る予定だったのだが、帝都から物言いが入ったせいで、クリス達はもやもやした数日間を送らされていた。
 誰が横やりを入れたのかと疑問に思っていたが、まさか、かつて技術士協会としてホープ・タウンで横柄な態度をとり、カムナを攫おうとした連中だったとは。

「ラッツ達が?」
「あくまで予測だよ。彼らにもう権力はないけど、帝都で今、君達に恨みを持っているのはラッツ達くらいしかいないからね」

 肩をすくめ、ケビンは笑った。

「まあ、僕の独り言だと思って聞き流してくれ。とにかく、これでいつでもパーティーハウスは建てられるよ。おめでとう、クリス君」

 もちろん、彼らの功績を祝うのはケビンだけではない。

「それじゃあ、肝心の建築ルールを説明するわねぇ」

 のっしのっしと歩いてきた巨大な乙女心、ローズマリーもそうだ。
 分厚い唇に指をあてる彼女も、どこか楽しそうに見える。

「ルールはってのが、ルールよぉ」
「え? だったら、バカでかいパーティーハウスを建ててもいいってわけ?」

 カムナの問いに、ローズマリーが頷いた。

「もちろん敷地面積は決まってるから、そこをはみ出すのはNGだけどねぇ。範囲内に収まってなおかつ人様に迷惑をかけないなら、何をしてもいいわよぉ~!」
「思っていたよりも自由ですのね」
「ぶっちゃけ、パーティーハウスで街に被害を及ぼすなんて想像がつかないわよぉ。騒音を鳴らしまくるとか、いつでも喧嘩してて気分が悪くなるとかでもない限りは問題ないし、そもそもそんな連中はハウス建築許可が下りないわよぉ」

 実際のところ、成果だけは一丁前な探索者というのは存外いるものだ。
 腕は立つが人望がない、金や女にだらしないのはしょっちゅう。
 権力にものを言わせてランクを無理矢理奪い取り、威張り散らしていたイザベラもその中の一つだ。もっとも、彼女の場合は無差別殺人も含め、規模が違うのだが。

「成果だけ出してるような連中には、声がかからないというわけだなっ!」
「そういう点じゃ、俺達はありがたいことに評価されてるってわけだね」

 もう一度頷いたローズマリーだが、ちょっぴり苦笑いも混じっていた。

「確かにトラブルがないとは言い切れないけど、それを超える街への功績が認められたってわけよぉ。ところで、建築業者についてだけど……」

 彼女が切り出した話題は、パーティーハウスの建築業者についてだ。
 パーティーハウスは、ホープ・タウンでも指折りの建築業者が建ててくれる。クリス達もいくつかハウスを見てきたが、どれも立派なものだった。

「ローズマリー本部長。その件なんですが、俺がやってもいいですか?」

 だが、クリスは少し申し訳なさそうな顔で言った。

「……やるって、建築を?」
「地元にいた頃に、何度か修理はしています。建築業者さんほどの技量はないかもしれませんけど……せっかくのパーティーハウスだから……」

 クリスは仲間を見回して、カムナ達に聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。

「俺の手で皆に、恩返しができればと思ったんです」
「……ふぅん?」

 ローズマリーには、彼が何を考えているかが手に取るように分かった。
 彼が一人で、何かを背負っているのも知っていたが、あえて何も言わなかった。男であり、女である彼女は、気配りの達人なのだ。
 だから、白い歯を見せて笑うだけに留まり、理由などちっとも聞かなかった。

「分かったわ、クリスちゃんの手で素敵なパーティーハウスを作ってちょうだぁい!」

 彼女がそう言うと、ギルドが一層大きく沸いた。

「がんばってくださいね、クリスさん!」
「オロックリン、楽しみにしてるぞ!」

 他のパーティーにも祝福されて、クリスははにかんだ。

「……ありがとう! 俺、頑張ります!」

 こうして、クリスのパーティーハウス建築が始まったのであった。
 ――同時に、ホープ・タウンを巻き込む厄介ごとへのカウントダウンも始まったのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。