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探索者ライフ①フレイヤの酒騒動!

聖騎士、パワーアップ!

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「ふれ、いや……どうして……!?」

 酒まみれで倒れるクリスが顔を上げると、フレイヤは歯を見せて笑った。

「実は君達がここに向かったあと、すぐに出所の許可が下りたんだっ! それでローズマリー本部長に、君が酒に関わる魔獣メタリオの討伐に向かったと聞いてな! いてもたってもいられず、ついてきたわけだっ!」

 リゼットが地上に赴いた今、援軍は非常にありがたい。
 しかし、人間であるのはまずい。敵の酒の力は、人間では耐えられないだろう。

「で、でも……だめだ……お酒の力が……強すぎる……!」
「ふむ、確かにそのようだな。カムナ達の体が錆びるほどの酒気、人間が吸うには危険すぎる。クリス君の想定を超えるのも致し方なし……だがっ!」

 もっとも、大鋸を構えるフレイヤにとっては何の心配もないようだ。

「酒を克服したこのフレイヤ・レヴィンズの敵ではないっ!」

 鋸のスターターロープを引いて唸らせたフレイヤは、魔獣の群れに飛びかかった。
 酒の影響をちっとも受けないらしい彼女の動きに魔獣が追いつけるはずもなく、たちまち紫色の体液を飛び散らせて、魔獣の群れが躯へと変わってゆく。
 特に猿太鼓は腕を斬り落とされたダメージが大きいのか、まだのたうち回っている。

『ギャホギイィィ!』
「流れる血まで酒とは! まったく、少し前の自分を見てるようで……これはなんとも、笑えないなっ!」

 どうやらフレイヤは、長期間の厳しい禁酒トレーニングの間に、酒への誘惑を断ち切っただけでなく酒への凄まじい耐性を獲得したらしい。
 そんな彼女を酒で倒すのは諦めたのか、魔獣達は暴力に頼ることにした。

『ギャウウ! ゴアアァッ!』
「猿に従う犬と鳥か! おとぎ話の世界にしては随分と気味が悪いぞっ!」

 わらわらと湧いて出てくる小型の魔獣に加え、猿太鼓も加勢して襲いかかってくる。
 彼女の大鋸は鋼で固められた魔獣の鎧をパンのように容易く粉々にしていくが、数の多さと倒れた人間を守る意識で、うまく攻め込めていないようだ。

(フレイヤが圧してるけど、相手は酒で恐怖心を失った魔獣だ! 数も多いし、このままじゃ劣勢に追い込まれる!)

 床に這いつくばるクリスの目から見ても明らかに、劣勢になる姿は予想できる。
 だからといって、今の彼に立ち上がるほどの力はない。

(猿太鼓は警戒心が強いから、これ以上迂闊には近寄らせないし、どうすれば……)

 自分も力になれればともがくクリスは、ふと気づいた。

「……ん」

 錆びているマガツだが、まだ触手が動かせるようだ。
 細い一本しか動かせないが、クリスのアイデアを形にするには十分だった。
 ずるずると手足を引きずるクリスや、もう動かない彼らを守るフレイヤを囲む魔獣の動きは、一方で活性化するばかりだ。
 酒に引き寄せられているだけでなく、酒で恐怖をかき消しているようで、どれだけの怪我を負っても恐れずに突っ込んでくるのは脅威以外の何物でもない。

「階層中の魔獣が集まってくるとは、なかなかに厄介だな……むっ!」

 だが、フレイヤも一人で戦っているのではない。
 大鋸を乱暴に振るう彼女の視界の端から、鈍色の触手が駆け抜けた。

「あれは、マガツの触手!? いや、違う!」
 半分は正解だが、半分は不正解だ。

 マガツの触手が巻き付き、クリスを運んでいるのだ。

「そのまま突進してくれ、マガツ!」

 魔獣の間をすり抜け、猿太鼓のパンチをかわしたマガツの触手だったが、そこまで運ぶのが彼女の限界だった。
 もとより動けないほど衰弱していたマガツにしては、十分動いたと言える。
 ここからは、『焔』を連結してロッドモード『火炎錫』へと変えたクリスの仕事だ。

「……これが、限界、だよ」
「ううん、十分だ! あとは――解体術弐式『丙型・螺旋孔らせんこう』ッ!」

 クリスが渾身の力で投げたツールは、後部から放たれた炎の勢いと共に螺旋を描きながら加速し、猿太鼓の太った腹に大穴をあけた。

『ギョオオウアアアアア!?』
「ぐっ!」

 床に体を打ち付けたクリスのそばで、猿太鼓がのたうち回る。
 酒が引火しただけでなく、体液が漏れ出すぎてひどいダメージを受けているのだ。

『オホッ! オホ、オホオオォォ!?』
「酒が抜けて……力が弱くなった! フレイヤ、今だ!」
「感謝するぞ、クリス君!」

 元聖騎士パラディンが、この機を逃すはずがない。
 ロープを三度引くと、大鋸から轟音と共にちりちりと火花が飛び散った。

「我流聖騎士剣術――『爆炎発破斬り』ッ!」

 そしてフレイヤが思い切り大鋸を振るうと、たちまち魔獣が斬り払われた。
 しかもクリス達に当たらない範囲を計算しているのか、引火する酒が辺り一面に飛び散っているのに、爆炎に包まれているのは敵だけなのだ。

(すごい……摩擦熱で火を起こして、魔獣をまとめて薙ぎ払った……!)

 驚愕するクリスの前で、フレイヤは大鋸の動きを止めた。
 もう刃を突きつける必要もない。猿太鼓は骨まで焼かれるのだから。

「酒に溺れた魔獣達よ、もう少し節度を保っていれば助かったかもしれないなっ! だが、もはや手遅れだ! 炎の中で逝くがいいっ!」

 業火が消えゆく中で、フレイヤは炎を背にしてクリスに微笑みかけた。

「そして皆、死人が出なくて何よりだっ! 全員無事で、帰るとしようっ!」

 そこはもう、酒に溺れたどうしようもない女はいない。
 いるのは、勇猛果敢なる女騎士だ。

(……やっぱり、フレイヤは頼れる騎士だよ)

 力ない笑顔を返して、クリスはどう、と突っ伏した。



 リゼットが呼び寄せた第三の救助班やフレイヤが他のメンバーを担いで入り口と内部を往復してくれたおかげで、怪我人はいても死者はゼロ人で済んだ。
 こうして、ショットガンズの命は無事に守られたのだった。
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