上 下
119 / 133
探索者ライフ①フレイヤの酒騒動!

神聖武器倉庫

しおりを挟む
 そうして二日後、クリス達は最速でとあるダンジョンに来ていた。
 いつものクリスと仲間達だけでなく、ショットガンズの面々に加え、ギルド本部から派遣された救助班の大所帯で入っていくのは、今は立ち入り禁止の区域。
 階段をずっと降りた先の重厚な扉をがちゃり、とカムナが開いた先には、凄まじい光景が広がっていた。

「武器倉庫、っていうだけあるわね……これ全部、武器なわけ?」

 延々と続く無機質な壁と、鋼のみで構築された床。
 その壁に異様なほど並べられた、尖っていたり、刃のように見えたりする何か。
 これこそがCランクダンジョン――『神聖武器倉庫』である。

「正確に言うと、武器に見えるオブジェってところかな。天然にできたものにしてはあまりにも整然と並んでるから、誰かが作ったんじゃないかって言われてるよ」

 壁に立ち並ぶこれらは、ダンジョンの外に運んで調査したところで、今のところ何の成果も得られていない。
 それでも見た目から、人々はこれが武器ではないか、と推測しているのだ。

「誰かって、だぁれ?」
「それは研究中だね。少なくとも、俺達よりずっと知能の高い何かじゃないかな」
「随分詳しいのね、クリス」

 カムナがからかうように言うと、クリスは笑顔で返した。

「ここに来たのは初めてじゃないよ。前に来たのは……『高貴なる剣』と一緒にさ」

 ただ、彼の何気ない返事は、カムナの表情をさっと変えてしまった。

「あっ……」
「ちょっと、おバカムナ!」

 クリスにとって、イザベラとの日々など思い出したくもないだろう。
 気遣いができないらしいカムナの頭をリゼットが叩くと、クリスが首を横に振った。

「気にしなくていいよ、もう昔の話だ。俺こそ、急に名前を出してごめんね」

 どうやら彼は、軽く話題にできる程度には過去を割り切ったようだ。
 ついでに言うなら、今の彼の関心は過去ではなく、ダンジョンの方にあった。

「それにしても、なんだか妙な雰囲気だな。俺が前に来た時とはずっと違う、空気そのものが重苦しくて、頭に響くみたいだ」

 かつて一度だけ来たことのある記憶のダンジョンと、今は違う。
 頭の奥にずしん、と響く感覚に加えて、おかしな匂いが常に漂っている。それはクリスだけでなく、他の探索者や救助班のしかめっ面からも察せた。

魔獣メタリオも見かけませんわ……マガツ、何か感じまして?」
「魔獣はいるよ。奥から声が聞こえてくるの、うきうきしてる声」
「うきうき? 魔獣がはしゃいでるの?」

 魔獣がうきうきしているなど、どちらにせよろくな理由ではない。

「『ショットガンズ』のメンバーがいるかもしれない、撤退してからもう数日は経ってるし、早めに向かうとしよう!」

 ひたすらまっすぐな道を一同が駆け出し、次の階層へと続く階段を下りていく。
 神聖武器倉庫は、ダンジョンとしては非常に狭い。代わりに魔獣の質が高く、戦闘における難度でCランクに認定されているのだ。

「魔獣に遭遇したら、俺達が押し返します。救助班の皆さんは、その間に捜索を!」
「分かりました! よろしくお願いします、『クリス・オーダー』!」

 頷き合いながらどかどかと階段を降り、次の階層に続く扉を、今度はクリスが開けた。
 その途端、クリスは脳みそを何かに殴られたのかと錯覚した。

「……!? この階層だけ、すごく空気が重い……!?」

 物理的な攻撃を受けたのではない。脳を揺らすほどの空気に混じった何かが、彼の精神の均衡を失わせたのだ。
 ショットガンズのメンバーや救助班が同じように倒れ込みそうになったものの、カムナやマガツ、リゼットはなんのダメージもない。

「あたし達は大丈夫だけど、人間はヤバいわよ! クリスと救助班の連中は、さっさとマスクをつけてちょうだい!」

 カムナに指示されるのとほぼ同時に、クリス達人間は一斉に、腰に提げていたマスクを装着した。
 クリス特製の顔をすべて覆う形のマスクは、魔獣の素材をふんだんに使った特注品だ。
 毒を使う魔獣の素材を用いたので、毒気などをシャットダウンできる。もちろん、空気に混じっているもの――酒気も同様にガードできるのだ。

「クリス様の予想通りでしたわね。前に赴いた救助班が動けなくなったのは、酒気を帯びた空気を吸い込んでしまったからですわ」

 マスクをつけたおかげで自由に動けるのを、ショットガンズ達は喜んだ。

「魔獣の素材を使って、空気を浄化するマスクを作るなんて……すごいな!」
「だけど、思った以上に酒気が濃い……マスクの耐久値を越えてしまわないうちに、探索者と救助班を見つけて早めに撤退しよう!」

 製作者の言う通り、マスクには耐久度に上限がある。あまりにも濃い酒気や瘴気が蔓延した階層では、少しずつろ過しきれなくなり体を蝕んでしまうだろう。
 そうなる前に、一同は仲間と置いて行かれた救助班の面々を救出するべきだ。

「カムナとマガツは救助班の援護を! 俺とリゼットで東側を探索するよ!」
「「了解(オッケー)!」」

 こうして連合パーティーは、二手に分かれて階層の調査を始めた。
 目指すは全員無事、無傷での帰還だ。





 一方その頃、エクスペディション・ギルドにとある来客があった。

「……あら、貴女は……!」

 彼女の顔を見るなり、ローズマリーはまたも山ほどの薔薇の手入れを止めた。
 今度は困惑からではなく、彼女の帰還を心待ちにしていた喜びからだ。

「その顔を見るに、だいぶひどい目に遭ったみたいねぇ。けど、すっかり苦難の道を乗り越えてきたと思っていいのかしらぁ?」

 ローズマリーの問いに、彼女は頷く。
 もう、彼女を苦しめていた悩みはすっかり消え去ったようだ。
 あるいは、彼女に強い耐性すらつけさせたのかもしれない。

「クリスちゃん達なら、さっき『神聖武器倉庫』に向かったわ。行ってあげて」

 彼女は頷いてギルド本部を後にした。
 その背に、身の丈ほどの巨大な十字架を携えて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。