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探索者ライフ①フレイヤの酒騒動!
ショットガンズの方々
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「――フレイヤが施設に入って、もう一週間が経つわね」
禁酒センターに入っていくフレイヤの後ろ姿を見届けてから、そんな日数が建っているとは思わず、大通りを歩くクリスは驚いた。
四人は今日も、ダンジョン探索へと赴くべくギルド本部へと足を運んでいる。
聖騎士が抜けた戦力低下は否めないものがあったが、元の戦闘スペックが高い面々ばかりなので、そう問題は起きなかった。
それよりも一同にとって不安だったのは、屈強な男ですら奴隷になってもいいと哀願するほどの地獄を体験しているであろう、フレイヤの行く末だ。
「彼女、うまくやっていっているのでしょうか……心配ですわ」
「本当に危険な事態に陥った時には、センター側が入居者を出してくれるよ。返事がないのが元気な証さ、きっとね」
ただ、そうなった時にはフレイヤは廃人寸前まで追いつめられているだろう。
「フレイヤ、帰ってくる?」
無表情で見つめてくるマガツの頭を撫でながら、クリスは努めて話題を逸らした。
「必ず帰ってくるよ。その間、俺達はしっかりダンジョン探索をこなして、パーティーハウスを作れるくらいには稼いでおいてあげないとね!」
「パーティーハウス! とうとう、わたくし達も建てていいと認められますのね!」
カムナとマガツには聞き慣れない言葉だが、リゼットの顔はぱっと明るくなった。
「何よ、それ?」
「一部の探索者にだけ許可された、パーティーが住まう為の家屋だよ。ある程度こっちの要望を聞いて、ギルド所属の技術士と職人が建設してくれるんだ。ギルドと帝国への貢献の証、ってところかな!」
クリスの説明通り、パーティーハウスとは一種のステータスのようなものだ。
普通の探索者は宿の部屋を借りて生活するが、パーティーハウスを所有する探索者はギルドの補助も与えられたうえで暮らせる。貢献へのお礼、とでも言うべきか。
そのありがたみはカムナには分からなかったが、新しい家と聞けば心躍るものだ。
「なるほど、つまりあたしとクリスの愛の巣ね!」
カムナの超飛躍的な理解を聞いて、リゼットは呆れた。
「脳みそお花畑のバカムナの言い分はともかく、本当ならもっと前からお話を頂いてもよかったはずですわ。クリス様、どうして今になって?」
「いいや、実は本部長は前々から考えていてくれたみたいだよ。けど、イザベラの一件の処理とか協会の事件とか……帝国鉄道の弁償もまだ完全じゃないし、ハウス自体も……あれは?」
ハウス建築に至らなかった理由を話しながらギルド本部に入ったクリスだったが、すぐに受付カウンターで起きている騒ぎに気付いた。
男女合わせて四人のパーティーが、受付嬢やローズマリーに詰め寄っているのだ。
「どうしてだよ! 俺達の仲間なんだぞ!」
「『神聖武器倉庫』に行かせてください! お願いです、Eランクの頃からずっと付き添ってきたパーティーメンバーが、このままじゃ……」
半ば涙声での嘆願に対して、ローズマリーはすっかり困った調子だ。
「わ、分かってるわよぉ! こっちだって救助班を出したし、ダンジョンは一時的に封鎖してるわ! でも、貴方達が行って帰ってこなかったら、それこそ無駄になっちゃうじゃないのよぉ!」
「俺達なら大丈夫です! お願いします、本部長!」
どうやらローズマリーにも何かしらの事情があるようで、いつものように軽く受け流せないようだ。
ただ、このまま頼み込んでいるだけでも話は進展しないだろう。
「あの方たち、同じCランク探索者の『ショットガンズ』……どうなさったのかしら?」
クリス達はカウンターまですたすたと歩いてゆき、一同に声をかけた。
「ローズマリー本部長、それに探索者の皆も、何があったんです?」
「おお、オロックリン! ちょうどいい、本部長を説得してくれ!」
彼らに気付いた『ショットガンズ』の面々は、今度はクリスにしがみついてきた。その顔は真剣そのもので、ローズマリーが断れないのも頷ける。
「助けてくれよ、俺達の仲間がダンジョンに取り残されちまったんだ! おかしな魔獣に襲われて、動きが鈍くなって……そいつは一人だけダンジョンに残っちまったんだよ!」
その理由を聞いて、クリスは彼らの迫真の理由に納得した。
先ほどの話も加味すれば、きっと長年付き添ってきた探索者のうち一人がダンジョンに取り残されたのだ。
もしもクリスが同じ立場なら、きっと探索者の資格を返上してでも助けに行くだろう。カムナや彼の仲間達でも、同じ選択肢を取るに違いない。
「だから、救助班の連絡を待っててほしいって言ってるじゃなぁい!」
ローズマリーが声を張り上げると、ショットガンズのリーダーが怒鳴り返した。
「その救助班からの連絡が途絶えたって、さっき話してただろ! だいたいなんだよ――お酒を飲む魔獣ってよぉ!」
思わず、クリスは「え」と声を漏らしてしまった。
なんせ酒を飲む魔獣どころか、酒がダンジョンにあるなどありえないからだ。
禁酒センターに入っていくフレイヤの後ろ姿を見届けてから、そんな日数が建っているとは思わず、大通りを歩くクリスは驚いた。
四人は今日も、ダンジョン探索へと赴くべくギルド本部へと足を運んでいる。
聖騎士が抜けた戦力低下は否めないものがあったが、元の戦闘スペックが高い面々ばかりなので、そう問題は起きなかった。
それよりも一同にとって不安だったのは、屈強な男ですら奴隷になってもいいと哀願するほどの地獄を体験しているであろう、フレイヤの行く末だ。
「彼女、うまくやっていっているのでしょうか……心配ですわ」
「本当に危険な事態に陥った時には、センター側が入居者を出してくれるよ。返事がないのが元気な証さ、きっとね」
ただ、そうなった時にはフレイヤは廃人寸前まで追いつめられているだろう。
「フレイヤ、帰ってくる?」
無表情で見つめてくるマガツの頭を撫でながら、クリスは努めて話題を逸らした。
「必ず帰ってくるよ。その間、俺達はしっかりダンジョン探索をこなして、パーティーハウスを作れるくらいには稼いでおいてあげないとね!」
「パーティーハウス! とうとう、わたくし達も建てていいと認められますのね!」
カムナとマガツには聞き慣れない言葉だが、リゼットの顔はぱっと明るくなった。
「何よ、それ?」
「一部の探索者にだけ許可された、パーティーが住まう為の家屋だよ。ある程度こっちの要望を聞いて、ギルド所属の技術士と職人が建設してくれるんだ。ギルドと帝国への貢献の証、ってところかな!」
クリスの説明通り、パーティーハウスとは一種のステータスのようなものだ。
普通の探索者は宿の部屋を借りて生活するが、パーティーハウスを所有する探索者はギルドの補助も与えられたうえで暮らせる。貢献へのお礼、とでも言うべきか。
そのありがたみはカムナには分からなかったが、新しい家と聞けば心躍るものだ。
「なるほど、つまりあたしとクリスの愛の巣ね!」
カムナの超飛躍的な理解を聞いて、リゼットは呆れた。
「脳みそお花畑のバカムナの言い分はともかく、本当ならもっと前からお話を頂いてもよかったはずですわ。クリス様、どうして今になって?」
「いいや、実は本部長は前々から考えていてくれたみたいだよ。けど、イザベラの一件の処理とか協会の事件とか……帝国鉄道の弁償もまだ完全じゃないし、ハウス自体も……あれは?」
ハウス建築に至らなかった理由を話しながらギルド本部に入ったクリスだったが、すぐに受付カウンターで起きている騒ぎに気付いた。
男女合わせて四人のパーティーが、受付嬢やローズマリーに詰め寄っているのだ。
「どうしてだよ! 俺達の仲間なんだぞ!」
「『神聖武器倉庫』に行かせてください! お願いです、Eランクの頃からずっと付き添ってきたパーティーメンバーが、このままじゃ……」
半ば涙声での嘆願に対して、ローズマリーはすっかり困った調子だ。
「わ、分かってるわよぉ! こっちだって救助班を出したし、ダンジョンは一時的に封鎖してるわ! でも、貴方達が行って帰ってこなかったら、それこそ無駄になっちゃうじゃないのよぉ!」
「俺達なら大丈夫です! お願いします、本部長!」
どうやらローズマリーにも何かしらの事情があるようで、いつものように軽く受け流せないようだ。
ただ、このまま頼み込んでいるだけでも話は進展しないだろう。
「あの方たち、同じCランク探索者の『ショットガンズ』……どうなさったのかしら?」
クリス達はカウンターまですたすたと歩いてゆき、一同に声をかけた。
「ローズマリー本部長、それに探索者の皆も、何があったんです?」
「おお、オロックリン! ちょうどいい、本部長を説得してくれ!」
彼らに気付いた『ショットガンズ』の面々は、今度はクリスにしがみついてきた。その顔は真剣そのもので、ローズマリーが断れないのも頷ける。
「助けてくれよ、俺達の仲間がダンジョンに取り残されちまったんだ! おかしな魔獣に襲われて、動きが鈍くなって……そいつは一人だけダンジョンに残っちまったんだよ!」
その理由を聞いて、クリスは彼らの迫真の理由に納得した。
先ほどの話も加味すれば、きっと長年付き添ってきた探索者のうち一人がダンジョンに取り残されたのだ。
もしもクリスが同じ立場なら、きっと探索者の資格を返上してでも助けに行くだろう。カムナや彼の仲間達でも、同じ選択肢を取るに違いない。
「だから、救助班の連絡を待っててほしいって言ってるじゃなぁい!」
ローズマリーが声を張り上げると、ショットガンズのリーダーが怒鳴り返した。
「その救助班からの連絡が途絶えたって、さっき話してただろ! だいたいなんだよ――お酒を飲む魔獣ってよぉ!」
思わず、クリスは「え」と声を漏らしてしまった。
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