追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~

いちまる

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探索者ライフ①フレイヤの酒騒動!

ホープ・タウン西部禁酒センター

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「……本当にいいのかい、フレイヤ?」
「ああ、私が決めたことだ!」

 悪夢を見た翌日、フレイヤは朝早くからとある施設の前へやって来た。
 探索者や商人で賑わうホープ・タウンの中央部から西へ馬車を走らせた先にあるのは、ちょっぴり寂れた地域だ。
 人が住むような家の立ち並びも、商店も、生活に必要な施設も何もない場所。
 あるのはただ、クリス達の前に鎮座する巨大な廃屋のような建物だけだ。

「貴女はここがどこか知っていますの? いえ、もちろん知っているからこそ入所を希望したのでしょうけれど、生半可な施設じゃありませんのよ?」

 リゼットが心配そうに頬に手を当てるのを見ながら、フレイヤは胸を張って応えた。

「もちろんだともっ! 『ホープ・タウン西部禁酒センター』で、私は自分自身を今一度戒めて、真の聖騎士パラディンになって帰ってくると約束しようっ!」

 自身の悩みを解決するにはここしかないと、フレイヤは確信していた。
 しかし、カムナやマガツは理解していないが、クリスとリゼットの重い表情から察するに、ここは明らかにまともな施設ではない。

「ねえ、クリス? ここってそんなにヤバいの?」
「ここに来るのは、お酒が原因で犯罪を繰り返すようになったり、手に負えないほどの依存症になったりする人ばかりだ。だから……」

 クリスが説明をしていると、いきなり施設の扉が破られ、屈強な男が飛び出してきた。

「うわああぁぁっ!」

 白い服と手足に枷をはめられた男は、体つきは筋肉質なのに、顔は驚くほど痩せこけて見えた。目つきもまともではなく、地面に倒れ込んでも這いずるように近寄ってくる。

「きゃっ!?」
「さ、酒だ! 酒をくれ、なんでもするから、奴隷にもなるから酒をくれええっ!」

 思わず後ずさったカムナに、男は目玉が飛び出るほどの形相で叫んだ。
 手足の自由もないのに地面を芋虫のようにのたうちまわり、酒を求める異常な男に一同が息を呑んでいると、施設の中から今度は二人の男が出てきた。

「黙れ、人間のクズが!」
「もう一度折檻してやる、来いっ!」

 彼らは酒を欲しがる男を羽交い絞めにすると、貼り付けたような笑顔をクリス達に見せて軽く一礼して、脱走者を引きずりながら建物の中へ戻っていった。

「ぎゃああああああああッ!」

 そうしてすぐに、あの男と思しき悲鳴が聞こえてきた。
 絶句していたクリス達はようやく気付いたが、施設の中からはうめき声だとか、悲鳴だとかが細々と聞こえてくる。
 きっと建物そのものを防音処理しているので、中では凄まじい声が聞こえるはずだ。

 これが『ホープ・タウン西部禁酒センター』。
 フレイヤが選んだ、暴力的なまでに禁酒を支援する施設だ。

「……マガツ、びっくり」

 あのマガツですら目を丸くする状況で、クリスが静かに口を開いた。

「あんな風に、かなり乱暴な形で矯正するんだ。禁酒センターを出て行く時には、酒を見るだけで悲鳴を上げるほど、お酒そのものへの恐怖感を植え付けられるらしいよ」
「そんなところに、フレイヤを連れて行けないわよ!」

 カムナがフレイヤを引き留めようとしたが、彼女が首を横に振った。

「いや、いいんだ。こうしなければ、私はきっと君達を失望させてしまう」

 彼女の目には、今もなお悪夢の光景が焼き付いていた。
 一瞬でもああなってしまう可能性があるのなら、フレイヤはそれらすべてを潰したいと思っていた。そうでなければ、恐ろしい末路が大きな口を開いて待ち構えているのだから。

「もう何度も『クリス・オーダー』に迷惑をかけ続けてきたっ! 私は私自身を変えなければ、自分を許すことができない! 君達の気持ちはありがたい、信じる心に報いるべく、真人間に戻ると約束しよう!」

 どん、とフレイヤが笑顔で胸を叩くと、施設から女性職員がやって来た。

「レヴィンズさーん! 収容のお時間でーす!」

 少し離れたところで呼ぶ声を聞いて、彼女は仲間に背を向けた。
 もしかすると、自分達はやりすぎたのかもしれない。クリスだけでなく、カムナ達ですら罪悪感を覚えつつあった。
 だが、フレイヤはそんな気持ちを払拭させるように振り返り、にっと笑った。
 そうして彼女がセンターの中に入っていくまで、四人はずっと見守っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ところ変わって、こちらはエクスペディション・ギルド本部。

「ローズ、ちょっといいかな?」

 車いすの男、ケビンが声をかけたのは男と女の強いところを兼ね備えた剛体のギルド本部長、ローズマリーだ。
 ギルドに飾る花の手入れをしていた彼女は、ケビンに声をかけられて振り向いた。

「どうしたの、ケヴ? 昨日話した“ギルド本部薔薇園大作戦”なら、私は一切折れてやるつもりはないわよぉ?」
「それも問題だけど、そうじゃない。実はあるダンジョンで、問題が起きているんだ」

 ダンジョンの問題と聞いて、ローズマリーは手入れする手を止めた。

「……問題?」

 ケビンが頷く。

「うん、とても大きな問題だ――しかも、探索者の落とし物が原因なんだよ」

 ローズマリーの顔が、たちまち険しくなった。
 ダンジョンという未知に、人間のアイテムという既知が持ち込まれたならば、いったい何が起きるというのだろうか?

 だからこそ、二人は冷静に対処することを決めた。
 しかし――恐ろしい事態は、既に迫っていた。
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