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探索者ライフ①フレイヤの酒騒動!
地獄の日々、始まる
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「な、ななな、なんだってぇ!? それじゃあ酒断ちと同じじゃないかっ!」
フレイヤが素っ頓狂な声を上げるのも、無理はなかった。
「もちろんですわ。それくらいしませんと、また同じ過ちを繰り返すでしょう?」
「だとしても段階を踏むべきではないのかっ!? 普通の禁酒というのは、少しずつ量を減らして様子を見ていくものだぞっ!」
彼女の言い分ももっともではあるが、今のクリス達には通じない。
「うん、そうだね。前に同じやり方をしてるのを見たから、よく覚えてるよ」
というのも、実は彼女は一度、クリス達に協力してもらって同じ手段で酒から離れようとした。少しずつ量を減らして、最後はきれいさっぱり忘れるというものだ。
数日間にわたるチャレンジの末、フレイヤは確かに忘れた。
――決意をすっぱり忘れ、部屋でこっそりと酒を飲んでいたのである。
「フレイヤはあの時どんな結果になったのか――覚えてないのかな?」
「ひゅい……!」
クリスの声は随分と優しかったが、カムナ達から見えない顔はきっと凄まじい。
フレイヤの、喉を絞めつけられたような声がその証拠だ。
(クリス、かなり怒ってるわね)
(当然ですわ。何度フレイヤのせいで頭を下げたか、もう分かりませんもの)
実際、クリスはフレイヤがトラブルを起こすたびに率先して頭を下げていた。彼女が酒瓶を抱えて爆睡していても、記憶がなくても、クリスが先に謝った。
すべてはひとえに仲間を守るためでもあったが、彼もいい加減気づいたようである。
自分達の行いは彼女にとっても良くない。これはただ、甘やかしているだけだと。
「ひとまず君が持っているお酒を全部没収するところから始めようか。この部屋の中に持っている分を、すべてここに出してくれないかな?」
クリスにそう言われて、フレイヤはちらちらと部屋中に視線を向けた。
彼女が借りている部屋には、きっといくつも酒が隠れているのだろう。
「う、うむ! まずは棚の中に三本……」
そんなフレイヤが持ってくると言ったところで、信用されるはずがない。
「いや、やっぱりやり方を変えよう。一つでも隠し持っていると意味がないからね――マガツ!」
「分かった。マガツ、やるね」
彼がマガツの名前を呼ぶと、彼女のワンピースの中から鋼の触手が伸びてきた。
そして、たちまち部屋中を漁り出したのだ。
マガツの奇怪な色の瞳がせわしなく動くのに応じて、触手が四方八方を飛び回って部屋の隅から隅までいじくりまわす。
何をしているのかは明白である。フレイヤが隠していた酒を、取り出しているのだ。
「あ、ああ、あああーっ!」
フレイヤは「まず棚に三本」と言っていたが、それどころではない。
棚からは六本、床の隙間から五本、過敏と見せかけた酒瓶が二本。様々な種類の酒を合わせて十三本も隠し持っている人物が、お酒に依存していないと言えるわけがない。
「こんなにお酒を隠し持ってるなんて、思ってもみなかったよ。マガツの嗅覚がないと、多分俺達が部屋中を探し回っても見つけられなかっただろうね」
うろたえるフレイヤを見るクリスは、いよいよ怒りを呆れが上回っているようだった。
「まさかとは思うけど……隠し持っていたお酒を、飲むつもりじゃなかったかい?」
「う、嘘をつき、人を誤魔化すなど聖騎士の恥だ!」
しどろもどろになるフレイヤの隣で、カムナがため息をついた。
「その恥よりよっぽど恥ずかしいことを、あんたはずっとやってきたって自覚がないの? 厳しく言わせてもらうけど、このままじゃダメ人間一直線よ」
「酒で落ちぶれる者は、貴族にもいましたわ。フレイヤ、わたくし達は貴女にそうなってほしくありませんのよ」
「マガツ、お酒臭いのやだよ?」
こうとまで言われれば、流石のフレイヤも事の重大さを理解したようだ。
もう少し早く理解するべきだと言われれば、そこまでだが。
「む、むむむ……」
うんうんと唸るフレイヤの肩を、クリスが叩いた。
「大丈夫だよ、フレイヤ! お酒の代わりになるストレス解消法を、俺達と一緒に見つけよう!」
彼は何も、意地悪でフレイヤから酒を取り上げたいのではない。
このままでは彼女が破滅してしまうと確信しているからこそ、愛すべき仲間に不幸になってほしくないからこそ、あえて心を鬼にしているのだ。
そしてとうとう、クリス達の真摯な気持ちはフレイヤを動かした。
「……し、仕方ない! いつまでもこのままでは、レヴィンズ家末代の恥だ!」
未だ手に抱えていた酒瓶をよそに置き、フレイヤはしっかと仲間を見つめた。
「クリス・オーダーのフレイヤ・レヴィンズとして、この大鋸『グレイヴ』に誓うっ! 酒に呑まれず、誘惑を振り切り、真人間に戻ってみせるとっ!」
今までの酒を辞めろと言われて渋々瓶を手放したフレイヤとは違う、本気の目つき。
それを見たクリスは仲間と顔を見合わせ、強く頷き返した。
「ありがとう! 俺達もしっかり、君をバックアップしていくよ!」
こうして――フレイヤにとっても、仲間にとっても長い数日間が始まるのだった。
フレイヤが素っ頓狂な声を上げるのも、無理はなかった。
「もちろんですわ。それくらいしませんと、また同じ過ちを繰り返すでしょう?」
「だとしても段階を踏むべきではないのかっ!? 普通の禁酒というのは、少しずつ量を減らして様子を見ていくものだぞっ!」
彼女の言い分ももっともではあるが、今のクリス達には通じない。
「うん、そうだね。前に同じやり方をしてるのを見たから、よく覚えてるよ」
というのも、実は彼女は一度、クリス達に協力してもらって同じ手段で酒から離れようとした。少しずつ量を減らして、最後はきれいさっぱり忘れるというものだ。
数日間にわたるチャレンジの末、フレイヤは確かに忘れた。
――決意をすっぱり忘れ、部屋でこっそりと酒を飲んでいたのである。
「フレイヤはあの時どんな結果になったのか――覚えてないのかな?」
「ひゅい……!」
クリスの声は随分と優しかったが、カムナ達から見えない顔はきっと凄まじい。
フレイヤの、喉を絞めつけられたような声がその証拠だ。
(クリス、かなり怒ってるわね)
(当然ですわ。何度フレイヤのせいで頭を下げたか、もう分かりませんもの)
実際、クリスはフレイヤがトラブルを起こすたびに率先して頭を下げていた。彼女が酒瓶を抱えて爆睡していても、記憶がなくても、クリスが先に謝った。
すべてはひとえに仲間を守るためでもあったが、彼もいい加減気づいたようである。
自分達の行いは彼女にとっても良くない。これはただ、甘やかしているだけだと。
「ひとまず君が持っているお酒を全部没収するところから始めようか。この部屋の中に持っている分を、すべてここに出してくれないかな?」
クリスにそう言われて、フレイヤはちらちらと部屋中に視線を向けた。
彼女が借りている部屋には、きっといくつも酒が隠れているのだろう。
「う、うむ! まずは棚の中に三本……」
そんなフレイヤが持ってくると言ったところで、信用されるはずがない。
「いや、やっぱりやり方を変えよう。一つでも隠し持っていると意味がないからね――マガツ!」
「分かった。マガツ、やるね」
彼がマガツの名前を呼ぶと、彼女のワンピースの中から鋼の触手が伸びてきた。
そして、たちまち部屋中を漁り出したのだ。
マガツの奇怪な色の瞳がせわしなく動くのに応じて、触手が四方八方を飛び回って部屋の隅から隅までいじくりまわす。
何をしているのかは明白である。フレイヤが隠していた酒を、取り出しているのだ。
「あ、ああ、あああーっ!」
フレイヤは「まず棚に三本」と言っていたが、それどころではない。
棚からは六本、床の隙間から五本、過敏と見せかけた酒瓶が二本。様々な種類の酒を合わせて十三本も隠し持っている人物が、お酒に依存していないと言えるわけがない。
「こんなにお酒を隠し持ってるなんて、思ってもみなかったよ。マガツの嗅覚がないと、多分俺達が部屋中を探し回っても見つけられなかっただろうね」
うろたえるフレイヤを見るクリスは、いよいよ怒りを呆れが上回っているようだった。
「まさかとは思うけど……隠し持っていたお酒を、飲むつもりじゃなかったかい?」
「う、嘘をつき、人を誤魔化すなど聖騎士の恥だ!」
しどろもどろになるフレイヤの隣で、カムナがため息をついた。
「その恥よりよっぽど恥ずかしいことを、あんたはずっとやってきたって自覚がないの? 厳しく言わせてもらうけど、このままじゃダメ人間一直線よ」
「酒で落ちぶれる者は、貴族にもいましたわ。フレイヤ、わたくし達は貴女にそうなってほしくありませんのよ」
「マガツ、お酒臭いのやだよ?」
こうとまで言われれば、流石のフレイヤも事の重大さを理解したようだ。
もう少し早く理解するべきだと言われれば、そこまでだが。
「む、むむむ……」
うんうんと唸るフレイヤの肩を、クリスが叩いた。
「大丈夫だよ、フレイヤ! お酒の代わりになるストレス解消法を、俺達と一緒に見つけよう!」
彼は何も、意地悪でフレイヤから酒を取り上げたいのではない。
このままでは彼女が破滅してしまうと確信しているからこそ、愛すべき仲間に不幸になってほしくないからこそ、あえて心を鬼にしているのだ。
そしてとうとう、クリス達の真摯な気持ちはフレイヤを動かした。
「……し、仕方ない! いつまでもこのままでは、レヴィンズ家末代の恥だ!」
未だ手に抱えていた酒瓶をよそに置き、フレイヤはしっかと仲間を見つめた。
「クリス・オーダーのフレイヤ・レヴィンズとして、この大鋸『グレイヴ』に誓うっ! 酒に呑まれず、誘惑を振り切り、真人間に戻ってみせるとっ!」
今までの酒を辞めろと言われて渋々瓶を手放したフレイヤとは違う、本気の目つき。
それを見たクリスは仲間と顔を見合わせ、強く頷き返した。
「ありがとう! 俺達もしっかり、君をバックアップしていくよ!」
こうして――フレイヤにとっても、仲間にとっても長い数日間が始まるのだった。
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