上 下
105 / 133
番外編:鮫とリゾートとバカンスと

襲撃計画

しおりを挟む
「ぐ……っ!」

 ただの学者と、視線を幾度となく潜り抜けた探索者では、威圧の差は歴然だ。
 明らかにシャーキーは気圧されていたが、彼女のプライドがその事実の周知を拒んだのか、努めて顔を見せないようにくるりと踵を返した。

「い、行くわよ、皆さん! 野蛮な手段に頼る衆愚と同レベルだと思われたらたまらないわ! レインボゥさん、海を汚せば鮫の怒りを買うと覚えておきなさい!」

 そうして、どたどたと明後日の方向に駆け出して行ってしまった。
 慌てて彼女について行く取巻き達がいなくなるさまを、一同はただ見つめていた。

「リゾートの警備を増やすよう、相談しておかないといけないわね……それにしてもあんた、咄嗟にあーし達を守ってくれたの? あんな危険な連中から?」
「危険って言っても、魔獣メタリオに比べればずっと安全ですよ」

 ため息をつくレインボゥに、クリスが言った。

「それにあの人達は、武器アームズをためらいなく使おうとしていましたから。レインボゥさんがいかに強くても、俺が守らない理由にはなりません」

 小さく笑って見せたクリスを、レインボゥはきょとんと見つめた。そうしてすぐに、どぎついリップが塗られた口を横に広げて、にっこりと笑った。

「いいわねぇ~っ、すごくいいわ! カムナちゃん達、素敵な男を見つけたわね!」
「そうでしょう! 伊達にこのカムナオイノカミ様の主じゃないわ!」
「貴女が威張るところではないでしょうに」

 力強く頷くカムナと突っ込むリゼットの傍で、フレイヤだけは神妙な顔を見せた。

「だが、明日のコンテストが心配だなっ! あの手の連中が妨害工作を仕掛けてこないとも限らないだろう!」

 確かにあのシャーキー博士の異常な攻撃性を鑑みれば、こうして脅しに来るだけで終わるとは思えない。ホープ・タウンのならず者に匹敵するほど強引な面々なら、きっとさっきの武器を抱えてコンテストに突撃しかねないだろう。
 ただ、フレイヤの懸念とは裏腹に、レインボゥは余裕たっぷりの表情をしていた。

「これまでも何度かあったけど、相当地味なものばかりよ。シャーキーの奴も口ばかりで、檻にぶち込まれるほど危険な手段は使わなかったわ。強いて言うなら、ステージに細工をされるとまずいわねぇ」
「そういうことなら、俺がステージを補強します。というか、本業はそっちですし」

 唯一の懸念材料も、クリスがいれば無問題だ。

「ありがたい申し出だけど、大丈夫ぅ? 明日の朝にはコンテストが始まるのよぉ?」
「今から一時間もあれば問題ないですよ」

 いつになくやる気を見せるクリスは、どこか嬉しそうな顔をしていた。というのも、実は彼は近頃、武器以外のアイテムを造ることに飢えていたのだ。
 技術士エンジニアである以上、武器のメンテナンスやカムナの調整、他の探索者の補助に回るのは当然だ。彼の生来の趣味である、何かを造ることが最近疎かになっていて、隠れたストレスと化していた。
 そんなところに、巨大なステージの舗装の話が入ってきたのだ。クリスが快諾しないわけがないし、彼の目はもう輝いている。

「クリス、すごいの。壊れちゃったおうち、マガツがもぐもぐしてる間に直しちゃうの」
「だったら、ぜひお願いしちゃうわ! よろしくね、クリスちゃん!」
「はい、分かりました!」

 マガツに後押しされてお手伝いを頼み込んだレインボゥに、クリスは大きく頷いた。
 一方、カムナ達も別のところに気合を入れていた。

「よーし! その間に、あたし達は明日の作戦を考えちゃうわよーっ!」
「「「おーっ!」」」

 明日のコンテストで、誰がクリスのハートを射止めるか、についてだ。

「ライバル同士なのに、それを言っちゃっていいものかしらねぇ……?」

 首を傾げるレインボゥだったが、これもまたチームの繋がりだと思い、それ以上は言及しなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 さて、ところ変わってこちらは、バスティコリゾートから少し離れた浜辺の洞窟。
 『立ち入り禁止』の看板のおかげで人が立ち寄らないここに、本来あるはずのない人影がちらほらと見える。テーブルをいくつも並べて、実験器具をそろえた彼らは間違いなくあのシャーキーと仲間達である。
 薬品が詰まった瓶や、物騒な武器を置いているあたり、ただの実験に勤しんでいるわけではないようだ。まるでテロリストが襲撃の準備をしているようである。

「シャーキー教授! 例のものが届きました!」

 そんな中、学者の一人が洞窟に戻ってきた。
 彼の一声で、全員の視線が入り口に集まり、シャーキーがにやりと笑った。

「おお、これは……これなら、あのレインボゥどころかリゾートの人間を皆殺しにできます! これまで些細な抵抗しかできませんでしたが、今度は違うと証明できますね!」

 仲間が運んできた巨大な檻を見て、シャーキーの顔が醜い笑顔に染まってゆく。中には何か、背びれのついた青白い生物が暴れている。

「見ていなさい、レインボゥにリア充共……明日があなた達の命日です!」

 彼女が思い浮かべるのは、これまで自分に盾突いてきた連中の死にゆくさまだ。
 ぎょろりと目を見開いくシャーキーの異様さに、仲間も少し引いている様子である。

「で、ですが……我々が守るべき生物をこんな形で利用するのはまずいのでは……」
「利用? 何を言っているのですか!」

 勢いよく振り返った彼女の血走った目を見て、彼らは思わず飛び退いた。
 テーブルの上に置いてあった武器の領収書を掴み、彼女は右手で握り潰す。そこにはもう、理知的な教授のイメージ像などどこにもない。

「彼らにも戦いに協力してもらうだけです――愚かな地上の人間を制裁する、聖戦に!」

 ぐしゃぐしゃに丸めた紙を海に捨てて、シャーキーがほくそ笑んだ。
 彼女の本当の目的は、どこか別のところにあるようだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

聖剣を錬成した宮廷錬金術師。国王にコストカットで追放されてしまう~お前の作ったアイテムが必要だから戻ってこいと言われても、もう遅い!

つくも
ファンタジー
錬金術士学院を首席で卒業し、念願であった宮廷錬金術師になったエルクはコストカットで王国を追放されてしまう。 しかし国王は知らなかった。王国に代々伝わる聖剣が偽物で、エルクがこっそりと本物の聖剣を錬成してすり替えていたという事に。 宮廷から追放され、途方に暮れていたエルクに声を掛けてきたのは、冒険者学校で講師をしていた時のかつての教え子達であった。 「————先生。私達と一緒に冒険者になりませんか?」  悩んでいたエルクは教え子である彼女等の手を取り、冒険者になった。 ————これは、不当な評価を受けていた世界最強錬金術師の冒険譚。錬金術師として規格外の力を持つ彼の実力は次第に世界中に轟く事になる————。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。