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番外編:鮫とリゾートとバカンスと
四人と一人で、カップルで
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「だ、だいたいその『永久恋薬』って何ですか!? 絶対怪しいでしょう!?」
「あらあら、これはれっきとした市販品よ? まあ、売ってるのが貴族しか参加できないオークションってだけで、素材もそんなにおかしなものじゃないわ。『どどめカズラ』の花粉に『八足蜂』の針の粉末、『深紅蠍』の体液その他諸々をブレンドした強壮剤よ」
「今言ったもの、全部毒草か有毒素材なんですけど!?」
レインボゥがわざわざ説明してくれた成分のすべてが危険だと、クリスは知っていた。
どどめカズラの花粉は少量の飲用で心臓が凄まじい勢いで高鳴り、他のふたつは舌の上に乗せただけで体温が急激に上昇して昏倒する。ダンジョン探索黎明期には、三つとも要人暗殺に使われた実績もあるくらいだ。
こんな素材をフル活用した薬が、安全であるはずがない。
クリスがツッコむのも当然だが、レインボゥは手を振って大笑いしている。
「そんなプロブレムはノーよ! 効果は確かだから! 五年前にこれを手に入れたカップルは、その年の間に結婚して、今じゃ子供が十一人もいる大家族なのよ!」
確かに強壮剤としての効果は強大だろう。その過程で、どちらかが枯死していなければの話だが。
「五年前って……毎年与えられるわけじゃないの?」
カムナの問いに、レインボゥが頷いた。
「ただ優勝するだけじゃあ、あげられないわね。優勝はもちろん、あーしを含めた審査員全員が最高得点の『十点』を出した時、初めて贈呈されるのよ」
「だったら、今年はあたしがもらっちゃうわ!」
我こそはクリスの最大の理解者だと言わんばかりに、カムナはぐっと拳を握り締めた。
「レインボゥは知らないでしょうけど、あたしとクリスはサイコーの出会いを果たしたコンビなのよ! 一度は離れても、また深い愛情で結ばれて戻ってきたあたしとクリス以上に、ベストカップルに向いてる二人組なんていないって確信してるわ!」
彼女の言う通り、クリス・オーダーの中で一番クリスと付き合いが長いのはカムナだ。彼女との出会いがなければ、クリスはイザベラによって殺されていただろうし、彼女に救われたのを運命というのは何もおかしくない。
すると妄言だと言わんばかりに、鼻を鳴らすカムナをリゼットが押しのけた。
「はいはい、オバカムナは黙ってなさいな。レインボゥ様、わたくしは長い間ダンジョンで孤独に封印されていたのですが、クリス様に救い出されたのですわ。最高の愛が運命の導きというなら、これ以上の運命がどこにありますでしょうか?」
リゼットもまた、彼に助け出された人のうちの一人だ。しかも彼女の場合は、今まで誰も見つけられなかった孤独の中から救い出してくれたのだから、これも運命に近い。
「私はこの手のアピールがどうにも苦手でな、多くを語るつもりはないっ! ただ、この武器が何よりも固い繋がりだとは言っておこう!」
二人を押しのけない大人の態度を見せるフレイヤにとって、クリスは恩人以上の存在だ。宿命に縛られた哀れな騎士を鳥籠から解き放ってくれた彼こそが、運命そのものだ。
「マガツは、ずっと、ずーっとクリスと一緒だったの。スサノヲとマガツヒノカミだった頃から、目覚める前からずっと一緒。だから、一番ぴったりなの」
カムナとリゼットの間からひょっこりと顔を覗かせるマガツには、スサノヲことクリスと永く傍に居続けた記憶がある。他の三人よりもずっと、永久と呼べる時間を過ごした自分達こそが、ベストなカップルに相応しいのは自明の理である。
とまあ、彼女達はぎゅうぎゅうと顔を圧し合いながらレインボゥの前でアピールした。
こんな風に四人が必死にアピールしているのを、クリスはただぼんやりと眺めていた。
(あの薬をこんなに欲しがるなんて……絶対危険な代物だと思うんだけどなあ。というか、無理して俺とカップルにならなくても……)
しかも、自分がその対象だととまるで気づいていないまま、である。
「いいわねぇ、これだけ情熱的な子の中から一人に絞るなんて、あーしには無理よぉ」
これだけ積極的に参加意欲を見せてくれる女の子は、レインボゥにとってもありがたいようで、彼女はぱん、と手を叩いて言った。
「そこで、こういうのはどう? あなた達全員が、そこのハンサム・ボーイと組んで一組ずつアピールするってのは?」
「「「「良しっ!」」」」」
彼女の提案に、四人が全員ぐっと気合を入れて返事をした。
もちろん、クリスの意見など一切聞き入れないまま、である。
(な、流されて話が固まっちゃった……)
とはいえ、今のクリスに四人へ意見する権利などあるはずがない。仮にあったとしても、背中に炎が幻視できるほどの熱意を迸らせる彼女達を止められるわけがないのだ。
「それじゃあ決定ね! いやぁ、四組も一気に増えるなんてありがたいわぁ!」
げんなりするクリスの肩を、レインボゥが叩いた。
「ああ、そういえばローズマリーから聞いたのだけれど、あなたは技術士だってね? ちょうどよかったわ、舞台設営の補助もお願いしていいかしら?」
唐突な相談だったが、技術士としての仕事を持ち掛けられて、クリスはやっと落ち着いた面持ちを見せた。
何かとストレスを溜めがちなのか、クリスは仕事の話となると少し気を楽にしたような顔になる。いわゆるワーカホリック気味になっていると気づくのは、果たしていつの日か。
「は、はい……随分と急ですけど……まあ、それくらいなら手伝いますよ」
「ありがたみ~っ! それじゃあ今日の夕方、リゾートの管理棟に――」
くねくねとうねりながらレインボゥが感謝を告げようとした時だった。
「――レインボゥさん、少しお話があるのですが」
耳に刺さるような、どこか棘のある女性の声がした。
「あらあら、これはれっきとした市販品よ? まあ、売ってるのが貴族しか参加できないオークションってだけで、素材もそんなにおかしなものじゃないわ。『どどめカズラ』の花粉に『八足蜂』の針の粉末、『深紅蠍』の体液その他諸々をブレンドした強壮剤よ」
「今言ったもの、全部毒草か有毒素材なんですけど!?」
レインボゥがわざわざ説明してくれた成分のすべてが危険だと、クリスは知っていた。
どどめカズラの花粉は少量の飲用で心臓が凄まじい勢いで高鳴り、他のふたつは舌の上に乗せただけで体温が急激に上昇して昏倒する。ダンジョン探索黎明期には、三つとも要人暗殺に使われた実績もあるくらいだ。
こんな素材をフル活用した薬が、安全であるはずがない。
クリスがツッコむのも当然だが、レインボゥは手を振って大笑いしている。
「そんなプロブレムはノーよ! 効果は確かだから! 五年前にこれを手に入れたカップルは、その年の間に結婚して、今じゃ子供が十一人もいる大家族なのよ!」
確かに強壮剤としての効果は強大だろう。その過程で、どちらかが枯死していなければの話だが。
「五年前って……毎年与えられるわけじゃないの?」
カムナの問いに、レインボゥが頷いた。
「ただ優勝するだけじゃあ、あげられないわね。優勝はもちろん、あーしを含めた審査員全員が最高得点の『十点』を出した時、初めて贈呈されるのよ」
「だったら、今年はあたしがもらっちゃうわ!」
我こそはクリスの最大の理解者だと言わんばかりに、カムナはぐっと拳を握り締めた。
「レインボゥは知らないでしょうけど、あたしとクリスはサイコーの出会いを果たしたコンビなのよ! 一度は離れても、また深い愛情で結ばれて戻ってきたあたしとクリス以上に、ベストカップルに向いてる二人組なんていないって確信してるわ!」
彼女の言う通り、クリス・オーダーの中で一番クリスと付き合いが長いのはカムナだ。彼女との出会いがなければ、クリスはイザベラによって殺されていただろうし、彼女に救われたのを運命というのは何もおかしくない。
すると妄言だと言わんばかりに、鼻を鳴らすカムナをリゼットが押しのけた。
「はいはい、オバカムナは黙ってなさいな。レインボゥ様、わたくしは長い間ダンジョンで孤独に封印されていたのですが、クリス様に救い出されたのですわ。最高の愛が運命の導きというなら、これ以上の運命がどこにありますでしょうか?」
リゼットもまた、彼に助け出された人のうちの一人だ。しかも彼女の場合は、今まで誰も見つけられなかった孤独の中から救い出してくれたのだから、これも運命に近い。
「私はこの手のアピールがどうにも苦手でな、多くを語るつもりはないっ! ただ、この武器が何よりも固い繋がりだとは言っておこう!」
二人を押しのけない大人の態度を見せるフレイヤにとって、クリスは恩人以上の存在だ。宿命に縛られた哀れな騎士を鳥籠から解き放ってくれた彼こそが、運命そのものだ。
「マガツは、ずっと、ずーっとクリスと一緒だったの。スサノヲとマガツヒノカミだった頃から、目覚める前からずっと一緒。だから、一番ぴったりなの」
カムナとリゼットの間からひょっこりと顔を覗かせるマガツには、スサノヲことクリスと永く傍に居続けた記憶がある。他の三人よりもずっと、永久と呼べる時間を過ごした自分達こそが、ベストなカップルに相応しいのは自明の理である。
とまあ、彼女達はぎゅうぎゅうと顔を圧し合いながらレインボゥの前でアピールした。
こんな風に四人が必死にアピールしているのを、クリスはただぼんやりと眺めていた。
(あの薬をこんなに欲しがるなんて……絶対危険な代物だと思うんだけどなあ。というか、無理して俺とカップルにならなくても……)
しかも、自分がその対象だととまるで気づいていないまま、である。
「いいわねぇ、これだけ情熱的な子の中から一人に絞るなんて、あーしには無理よぉ」
これだけ積極的に参加意欲を見せてくれる女の子は、レインボゥにとってもありがたいようで、彼女はぱん、と手を叩いて言った。
「そこで、こういうのはどう? あなた達全員が、そこのハンサム・ボーイと組んで一組ずつアピールするってのは?」
「「「「良しっ!」」」」」
彼女の提案に、四人が全員ぐっと気合を入れて返事をした。
もちろん、クリスの意見など一切聞き入れないまま、である。
(な、流されて話が固まっちゃった……)
とはいえ、今のクリスに四人へ意見する権利などあるはずがない。仮にあったとしても、背中に炎が幻視できるほどの熱意を迸らせる彼女達を止められるわけがないのだ。
「それじゃあ決定ね! いやぁ、四組も一気に増えるなんてありがたいわぁ!」
げんなりするクリスの肩を、レインボゥが叩いた。
「ああ、そういえばローズマリーから聞いたのだけれど、あなたは技術士だってね? ちょうどよかったわ、舞台設営の補助もお願いしていいかしら?」
唐突な相談だったが、技術士としての仕事を持ち掛けられて、クリスはやっと落ち着いた面持ちを見せた。
何かとストレスを溜めがちなのか、クリスは仕事の話となると少し気を楽にしたような顔になる。いわゆるワーカホリック気味になっていると気づくのは、果たしていつの日か。
「は、はい……随分と急ですけど……まあ、それくらいなら手伝いますよ」
「ありがたみ~っ! それじゃあ今日の夕方、リゾートの管理棟に――」
くねくねとうねりながらレインボゥが感謝を告げようとした時だった。
「――レインボゥさん、少しお話があるのですが」
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