追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~

いちまる

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帝国鉄道と魔獣少女

ケビン、再来

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「ケビン・ジェンキンス……本部長!?」

 驚愕するフレイヤの前で、ケビンは車いすを止めた。

「よしてくれ、今は彼女が本部長だろう? 僕は見ての通り、権力に怯えて逃げ出した臆病者さ。こうして元気でいられるのも、ローズマリーのお情けだよ」

 からからと笑ってはいるが、ここにいる誰もが驚いている。なんせ、ケビンは既にホープ・タウンを出たか、どこかで死んでいるとすら噂されていたのだから。

「お情けとはお言葉ねぇ。パーティーメンバーを放っておくほど、私の血は冷たくないわよぉ」
 ローズマリーがケビンの肩を叩くと、彼の体が大きく揺れた。
 今は引退したが、ケビンは元探索者だ。彼女とのつながりがあってもおかしくない。

「ジェンキンス様とローズマリー様は、同じパーティーに所属していましたのね」
「もうずっと昔の話よぉ。いわゆる腐れ縁ってやつね」

 オホホと笑うローズマリーを見て、ケビンはため息をついた。きっと、彼女とパーティーを組んでいた時も、こんな調子だったのだろう。
 一方、カムナ達はまだ、彼がここにいることそのものの疑問を拭えないでいた。

「で、こいつがローズマリーの言ってた情報通ってわけ?」
「彼は、イザベラの実家に目をつけられていたはずだが? 街を離れたとも聞いていたが、そのあたりも含めて理由を聞かせてほしいっ!」

 ふむ、と小さく頷いてから、ケビンが口を開いた。

「疑問に答えよう。僕は君達の言う通り、アルヴァトーレ家に脅されていた。イザベラが起こした事件が解決されてから、偶然ホープ・タウンに来ていたローズマリーに匿われたんだ。暗殺者がいつ来るか、しばらくは油断できなかったからね」

 彼はイザベラとその家族に脅され、探索者として好き放題暴れさせていた、幇助者であった。それをクリスに咎められ、最後は彼に協力して、アルヴァトーレ家を没落させた。
 だが、彼の行いは、妻子を危機に陥れるのと同義だった。彼は家族を守るべく、本部長の座を降りて街を発とうとした。そこを同僚のローズマリーに助けられたというわけだ。
 確かに、ローズマリーの庇護ほど安心できるものはないだろう。

「彼女をエクスペディション・ギルド本部長に指名したのも僕だ。暗殺の心配がなくなった僕はもう一度街を出ようとしたんだが、彼女にスカウトされたのさ」
「こいつほどパイプが太くて広い奴、そうそういないわよぉ。貴族とも交渉できる人材を、私が逃がすわけないじゃなぁい♪」
「やれやれ、僕は平穏な生活ができると思ったんだけどね……」

 姿を消してから、いったいどれほど陰で酷使されてきたのだろうか。
 げんなりとした表情のケビンの様子を見ると、誰もが同情したくなった。だが、カムナだけは彼の肩を強く掴み、顔を覗き込んで睨んだ。

「……あんたらの話はもういいわよ。クリスの話を、とっとと聞かせなさい」

 フレイヤやリゼットはともかく、カムナは明らかに、彼に心を許していなかった。彼女が二人と比べて子供っぽいというのも態度の要素だが、最大の理由は、彼のせいでクリスが死にかけたのを、まだ根に持っていることだ。
 今の彼女はいつもよりずっと苛立っているのだから、敵意を向けるのも仕方ない。

「警戒されてるわね、ケビンちゃん」
「僕は彼女に酷いことをしたからね、罪償いはさせてもらうよ。皆、こっちに来てくれ」

 カムナの手を軽く払ったケビンは、車いすを動かして、一番近くのテーブルへと移動した。カムナもそれ以上は何もせず、ローズマリーや仲間と一緒に、彼について行った。
 ちなみに探索者と受付嬢達はというと、既にいつもの業務に戻っていた。きっと、話を聞いているとややこしい事案に巻き込まれると思ったに違いない。
 周りで聞き耳を立てている者がいないのを確かめてから、ケビンはペンを取り出した。

「まず、僕はクリス君を探していない。彼一人をこの巨大なロンド帝国で探すのは、ダンジョンで豆粒を探すよりも至難の業だ……だから、別のものの情報を集めたよ」
「別のもの?」

 羽ペンをくるくると回して、彼は言った。

「クリス君を攫った――人型の魔獣メタリオだ」

 ケビンの着眼点は、四人にとってはまさしく目からうろこ、だった。
 クリス一人を探すのは、いかに彼に身体的特徴があったとしても難しい。しかも、失踪してからまだ日数が経っていないのも、探しにくさに拍車をかけている。
 反面、人型の魔獣はこれまで何度も目撃されていたし、世間的に情報が集められていたから、目撃証言も非常に多い。それがクリスを攫ったのなら、彼も一緒にいると考えるのが普通だろう。

「なるほどっ! あの怪物の情報なら、確かに山ほどあるだろう!」

 フレイヤが手を叩くと、ケビンが笑った。

「君達から伝書を受け取って二日間の間、徹底的に情報収集をしたんだ。その結果、あの魔獣には行動パターンがあることが分かった。地図を見てくれ」

 車いすのポケットからロンド帝国の地図を取り出したケビンは、それをテーブルの上に広げて、ペンでいくつか円を描いていった。

「ここに、ここ……この街と、川の傍……合わせて八か所が、あれの活動範囲だ」

 円は一部の個所に集中していたが、点在している円にも共通点があった。
 ホープ・タウンの南の方から、横に広がるように、円がある。少しだけ四人は地図を覗いて顎に指をあてがっていたが、やがてリゼットが気付いた。

「……一直線、ですわね?」

 リゼットがそう言うと、ケビンが頷いた。
 ペンで記された円形の中心点は、驚くほど一直線に繋がっていた。

「まさか、この円が示す地域に、魔獣の活動拠点が?」
「そこまでは分からない。けど、確信して言えることもあるね」

 ケビンのペンが、八個の円のいずれもが触れている、地図を横断する赤い線に当たった。ホープ・タウンにも重なるその直線を、彼は知っている。
 正確に言えば、街に住む多くの住人が知っている。

「魔獣は『インペリアル・ロコモーティブ』の路線辺りに出現する。探すなら、そこだ」

 帝国インペリアル・鉄道ロコモーティブ
 ロンド帝国の技術進歩の結晶が、クリス捜索の鍵になるのだ。
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