追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~

いちまる

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新本部長と帝都技術士協会

来訪者

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「人型の魔獣メタリオ……?」
「あらぁ、珍しくないんじゃないかって顔してるわねぇ。けど、今まで一度だって、人の形を模した魔獣は討伐記録も目撃記録もないのよぉ」

 ローズマリーが見抜いた通り、クリスは正直なところ、人型の魔獣と聞いてもさほど脅威性を感じなかった。これまで戦ってきた強敵はどれも大きく、それこそダンジョンを破壊しかねないほどの凶暴性を有していたからだ。
 だが、ローズマリーは彼と違う視点を持っていた。目撃証言がない、というところに着目した彼女は、対策手段が存在しえない可能性を考慮していたともいえる。

「探索者を見間違えた、って可能性はないんでしょうか」
「目撃されたのは、北部のダンジョンの周りにある洞穴の近くよ。最初は発見した行商人もあなたと同じことを考えたらしいけど、そいつの背中には、銀色の四本の腕、それも蛇のように長い腕が生えていたらしいわぁ」
「蛇のような、腕……」
「どちらにしても、ダンジョンの外に出ている魔獣を放っておくなんてこと、私達も帝都もできないわねぇ。違うのは、魔獣だけを狙っているか、それとも魔獣のことを少しでも知ってそうな人を手当たり次第に捕まえるかの違いよぉ?」

 ここにきてようやく、クリスはギルド本部長のいいたいことが分かった。
 通常、ダンジョンから魔獣が外に出るケースはほとんどない。魔獣は自分達が住まうスペースを理解していると思われているし、階層の移動すらしない。それなのにどうして一定の生息数が保たれているかは、現状調査中だが、大事なのはそこではない。
 問題なのは、堅牢なダンジョンの外壁や扉を破壊して外に繰り出す好奇心と破壊力を持っているところで、放っておけばあたりの町村を壊滅に追い込みかねないのだ。
 だからこそ、帝都は聖騎士団ロイヤル・ナイツを派遣したり、探索者の一団を引き連れたりして討伐しなければならない。事実、その判断一つが遅れたせいで滅んだ年も存在するのだから、決して軽んじられる事柄ではないのだ。
 そんな地域に、聖騎士団や帝都の調査団が派遣されていないはずがない。そこまで察したクリスは、小さく頷いてからローズマリーを見た。

「……帝都では、その調査をもう始めていると?」

 彼の察しの良さに、彼女は真っ赤な唇を開いて笑った。

「勘がいいわねぇ。調査班の連中と鉢合わせたら、きっと質問攻めよぉ? 来る途中に魔獣を見なかったか、手がかりを見なかったかって、それだけで半日は拘束されるわねぇ」

 要するに、ローズマリーはクリス達が帝都から来た連中に拘束されないかと気遣ってくれていたのだ。彼女なりの優しさで、クリスを引き留めてくれていたのだ。

「……ありがとうございます。探索者の皆を、気遣ってくれてるんですね」
「あなたのように、素直に忠告を聞いてくれる子にだけ、よ。話を聞かないバカには、痛い目を見てもらってるわ。向こうでげんなりしてるパーティーなんかは、話を無視して帝都の調査団に二日も邪魔されてたわよぉ」

 彼女が指さした先には、確かにぐったりと椅子に座り込む探索者達がいた。
 確かにああなってしまうと、当分は北部地方の探索に行きたいとは思えないだろう。少しばかり同情の視線を向けるクリスの肩を、ローズマリーが叩いた。

「そうそう、ちょうどCランクダンジョンの探索依頼で、少し厄介な話が来てるのよぉ。あなた達さえよければ、私の紹介ってことで探索を――」

 そうして彼女が、クリスにダンジョン探索の話を持ち掛けようとした時だった。

「――ローズマリーさん! 大変です、大変ですーっ!」

 集会所の扉が乱暴に開き、受付嬢の一人が慌てて入ってきた。
 汗だくでローズマリーのもとに来た彼女を見て、本部長は首を傾げた。

「あらぁ、どうしたの? そんなに慌てて?」
「はぁ、はぁ……彼らが来ています、『帝都技術士協会エンパイア・クラン』が!」
「……んだとォ?」

 そして、その名前を聞いた途端、すさまじい形相を見せた。
 ローズマリーがおそらく本来の顔つきを見せるのと、あたりが一斉にざわつくのはほぼ同時だった。探索者達の顔に、一斉に不安がよぎり、他のスタッフや受付嬢が露骨に不快感を見せたのは、決してクリスの気のせいなどではなかった。
 それほどまでに彼らに嫌われている『帝都技術士協会』とは、いったい何なのか。クリスが問いかける前に、ローズマリーが元の柔和な顔つきに戻った。

「あら、じゃなかった、なんですってぇ? あいつらが視察に来る予定は、確か当分入ってなかったはずよねぇ?」
「そのはずなんですけど、あの制服は間違いなく協会のものです! まずいです、このままだと街の技術士エンジニアがまた連れていかれちゃいます!」

 技術士が連れていかれる。その役職に就いているクリスとしては、ここまでくればとうとう、割って入ってでも彼らがなんなのかを聞かずにはいられなかった。

「ローズマリー本部長、協会というのは?」

 彼に振り向いたローズマリーの表情は、さっきまでよりずっと真剣だった。

「クリスちゃんは知らないでしょうね、ケビンちゃんが連中を引き留めてたから。けど、今はそんな質問をするよりも先に、ダッシュで宿に帰りなさい。仲間達には、わたしから事情を話しておくわ」
「それは、どういう……?」

 クリスの頭からは疑問が消えなかったが、受付嬢が追及を許さなかった。
 というより、もう誰も無駄口をたたいてはいなかった。
 探索者のパーティーは、その多くが裏口を使っていそいそと外に出て行ってしまっていた。まるで、これから犯罪者集団が本部に襲撃を仕掛けに来ると知っているかのようだ。

「クリスさん、裏口を使ってください! 他の技術士さんも、急いで……!」

 受付嬢に背中を押され、クリスも外に出ようとしたが、少しばかり遅かった。

「――それはいけませんね。有能な技術士を、ホープ・タウンで独占されては困りますよ」

 やけにねちっこい声が、本部の入口から聞こえてきた。
 ぞろぞろと複数人の足音が近づいてきて、それはたちまちクリス達の前にやってきた。裏口から逃げようとしていた探索者も、ギルドの従業員も、クリスですらその一団にくぎ付けになってしまっていた。
 ただ一人、ローズマリーの目線だけは意味合いが違っていた。

「……来やがったわね、ラッツ……この人攫いどもが」

 彼女だけは、殺意にも似た感情をこめて、彼らを睨みつけていた。
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