追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~

いちまる

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新本部長と帝都技術士協会

新本部長、ローズマリー

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 いつもの大通りを歩いてすぐのところに、エクスペディション・ギルドの本部がある。
 探索者にダンジョンを斡旋し、必要な装備や施設を案内する建物は、ホープ・タウンの中でも最も大きい。ついでに言うなら、国内の東西南北に点在する支部よりも当然大きい。
 だから、クリスがここに来るまでに迷ったことはなかった。彼が本部や街に慣れるのと同じく、受付嬢も彼の顔をすっかり見慣れていた。

「あ、クリスさん! おはようございます!」
「おはよう。早速だけど、Cランクで探索可能なダンジョンを教えてくれるかな?」
「かしこまりました! 一覧表を持ってきますので、少し待っていてください!」

 こんな調子で、クリスはもう、顔パスを持っているようなものだ。これもすべて、今まで探索を一度も失敗していない、有望な実績のおかげだ。
 しかも、彼に信頼を寄せているのは、ギルド側の人間だけではない。

「よう、クリス! パーティーメンバーはどうしたんだ?」
「ちょっと別件があってね。後で来る、と思うよ」

 クリスのもとには、ランクの高低を問わず、探索者が多く集まってくる。
 普通の探索者同士であれば少し揉め事の空気もにおわせてしまうが、彼の場合は違う。技術士エンジニアとしての実力を知っているから、そしてクリスの朗らかさを知っているからこそ、誰もが声をかけに来るのだ。

「オロックリン、実は最近、仲間が使っている武器アームズに不具合があって……」
「町の調整屋に見てもらったんだけど、どうにも原因が掴めないのよ」
「分かった、受付が終わったら調整してみるよ。後でもう一度声をかけてくれるかな?」
「頼む。技術士エンジニアとして、君以上に頼れる相手はそうそういないからな」

 自分達よりランクの高いパーティーのリーダーに褒められ、クリスははにかむ。

「買いかぶりすぎだよ。俺はただの技術士さ」
「そんなことは……おっと、失礼」

 リーダーの男は、まだクリスと話していたそうだったが、少し視線をずらしたかと思うと、さっと立ち去ってしまった。
 クリスはわずかに首をかしげたが、すぐに理由を察した。

「――あらあら、クリスちゃあん! 今日は一人なのぉ?」

 やけに甲高い声が聞こえて、振り向いた先にいる巨躯が、その理由だ。
 彼の視界を遮ったのは、クリスよりも頭二つ、三つ分くらい巨大な人だった。
 人、と形容したのは、それが男なのか、女なのかがどうにも怪しいからだ。筋骨隆々の体躯と強面は間違いなく男性だが、一部の油断もない化粧と先端を三つ編みにしたふわふわのロングヘアー、お姫様のようなドレスは間違いなく女性のそれだ。
 要するに――この人物は、男性でもあり、女性でもあるのだ。

「ど、どうも、ローズマリー本部長……」
「やだぁ、もう就任して一週間になるんだし、そんなによそよそしくしなくていいじゃなぁい! はいこれ、今探索できるダンジョンのリストよぉ」
「ありがとうございます……」

 クリスがやや縮こまって挨拶をすると、ローズマリーと呼ばれた彼女(女性とした方がいいのだとクリスは思った)は大声で笑いながら、クリスに書類を渡した。

(ローズマリー本部長……ケビン・ジェンキンスさんの後釜として南部のギルド支部から来てくれたんだよね。人はいいんだけど、ちょっと威圧感が……)

 彼女はクリスが言った通り、引退したケビンの後継者として本部にやってきた。
 もともと他のギルド支部で支部長を務めていた実績もある上に、聞くところによると、探索者になる前は非常に腕の立つ喧嘩屋だったらしい。乱暴者が多く集まるギルド本部には、うってつけの人材だろう。
 クリスも彼女の手腕には一目置いていたが、何分見つめられるのには慣れなかった。

「どうしたのぉ? さっきから私のこと、じろじろ見ちゃってぇ?」
「あ、いえ、なんでもないです!」
「もしかしてぇ、私に見とれちゃったのかしらぁ?」

 くねくねとポーズをとるローズマリーを見て、受付嬢達が割って入ってきた。

「だめですよ、ローズマリーさん! クリスさんにはほかの女の子がいるんですから!」
「あらやだ、そうだったわねぇ! でも、あんたってどうにも異性に興味がないっぽいのに、なんでかモテ男なのよねぇ」
「どうも……」

 このやり取りからもわかる通り、クリスは生来、人付き合いがそこまで得意ではない。昔から機械や道具と向き合っていることが多かったし、店で客と話していたとしても、あくまで軽い雑談に留めていた。
 だから、ローズマリーのような、説明しづらい威圧感は、正直苦手だった。

(なぜか受付嬢さんとはすごく仲がいいんだ……カムナ達とも話が合うみたいだし……)

 いまいち女性の交友関係というものが分からないが、クリスにとって大事ではない。

(いけない、いけない。カムナ達が戻ってくる前に、探索するダンジョンを決めておかないと! えっと、なるべく階層が少なくて、短期間で攻略できるところがいいな)

 今、大事なのはローズマリーについて考えることではない。カムナ達が戻ってくるまでに、次のダンジョンを決めておいて、すぐに準備ができるようにしておかないと。
 いそいそと彼が渡された資料を読み込んでいると、ローズマリーが顔を覗き込ませた。

「ああ、そういえば、クリスちゃん。探索に行くなら、北部はやめておいた方がいいわよぉ」

 そう言われたクリスは、思わず顔を上げて、ローズマリーを見つめた。

「どうしてです?」
「最近ねぇ、山岳地帯で妙な魔獣メタリオが見つかったのよぉ」

 妙な魔獣と聞いて、クリスの脳裏を嫌な予感がよぎった。
 クリス・オーダーはこれまで何度か、危険な魔獣と遭遇してきた。一つはダンジョンの階層を貫いて移動するほど巨大な猿。もう一つは、イザベラの体を支配して、能力で武器を身に纏う巨人と化したトツカノツルギだ。
 どちらも、放っておいて外界に出せば、とんでもない被害をもたらすほど恐ろしい怪物だった。クリス達の力でどうにか撃退したが、正直なところ、二度と戦いたくないと思えるほど強力な敵だったのは間違いない。

「まさか、トツカノツルギのような巨大な魔獣ですか?」

 クリスが問うと、ローズマリーは首を横に振った。

「その逆よぉ。見つかった魔獣は、人くらいの大きさしかない……いいえ、人型の魔獣って噂なのよ」

 人型の魔獣。
 彼女が静かにそう話すと、受付嬢達もどこか複雑な面持ちになった。
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