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9章 2021年 最愛の人
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「進一さんの息子さん!? だから、そっくり……! そうだったんだ!」
「亮也のやつ、俺をよくパパって呼んでからかうんだよ。見た目が兄よりパパだからな」
十羽はヘナヘナとテーブルに突っ伏しそうになった。しかしまだ疑問がある。
「で、でも、アトリエに展示してある家具は、店長さんが『夫が手がけたもの』だって、言ってたような。デザインも蓮也君らしさがあったし」
「ああ、あそこで展示してる家具は父さんが作ったものだから」
アトリエを立ち上げたばかりの頃に展示していた家具は、蓮也が作ったものだった。ところが国際的な賞を受賞して以来、海外からオーダーメイドの注文が殺到し、蓮也はそちらの仕事にかかりきりに。そこで展示販売する家具は進一が作るようになった。というわけで今の『アトリエ・イザクラ』は、オーダーメイドは蓮也が、展示販売用の家具は進一が担当している。
「進一さんの家具……!」
「父さん、俺の作風をちょっと真似て作ってるんだよ。オリジナルのデザインを考えるのは苦手だとか言って。だから俺が作った家具だと思ったんだな。納得した?」
十羽はコクコクと頷き「はあぁ……!」と脱力した。ショックを受けていた分、力の抜け具合が激しい。
「十羽が3度目のタイムスリップから帰ってきたとき、会いに行けなくてごめんな」
「ううん」
会えば歴史が変わる。あのときは辛かったけれど、結果的にこれで良かったのだ。
惚けていると、蓮也が立ち上がり、十羽の横に来て片膝をついた。そして十羽の手を取って真剣な眼差しを向ける。
「俺は、42歳のおっさんだ。それでも良ければ、ここで一緒に暮らしてくれないか」
「蓮也君……」
胸が詰まり、十羽の大きな瞳から真珠のような涙が一粒、零れ落ちた。
「僕はもう、好かれてないと思ってた。恋のときめきは、時間が経つと消えるって言うし」
「年々綺麗になっていく十羽を見守りながら、ずっとときめいてたよ。今は十羽を、重すぎるくらい愛してる」
胸が苦しいほどギュッとなった。
「ありがとう……」
「一緒に、暮らしてくれる?」
もう一度問われ、十羽は涙を零して微笑み「はい。喜んで」と答えた。
その言葉を噛みしめるように目を閉じた蓮也が、深く息をつく。
手を引かれ、ゆっくりと二人で立ち上がった。ふわりと抱きしめられた十羽は、彼の硬い胸板に顔を埋めた。もうタイムスリップで離ればなれにはならない。これからはずっと一緒にいられる。二人で同じ時間を生きられる。
彼の胸から22年間待ち続けた万感の思いが伝わってくるようで、十羽は精一杯の感謝の気持ちと愛情を込めて抱き返した。
「今までずっと、守ってくれてありがとう。長い間、待たせてごめんね」
「十羽が謝ることじゃないよ。なんかさ、まだ実感が湧かないんだ。あまりにも長い間、遠くから見守ってたせいかな。十羽がそばにいるのが信じられなくて、夢を見てるんじゃないかって気がしてる」
「夢じゃないよ」
十羽は顔を上げ、彼の頬に手を添えた。至近距離で見つめると、蓮也が少し困ったように眉尻を下げた。
「俺、老けただろ」
「そんなことない。前よりかっこいい」
「嘘だな」
「ほんとだって。前も好きだったけど、今の蓮也君も好きだよ。大好き。ずっと好きでいてくれて、ほんとに嬉しい」
目を閉じ、キスをねだる。
「十羽……」
はにかむ彼が唇に淡いキスをくれた。
「足りないよ。もっと」
「参ったな。俺、止まらなくなるかも」
「止めなくて、いいと思う」
頬を染めてそう言うと「ったく……どうなっても知らないからな」と言われて深く口づけられた。
「んんっ」
息が詰まりそうなほどのキス。唇を食まれ、差し入れられた舌を受け入れ、絡め合う。
「ふ……あっ」
堰が切れて濁流が溢れ出したような激しいキスは、狂おしいほど甘い。体の芯が一気に溶けそうになり、十羽の膝がガクンと折れた。蓮也が体を支えてくれたので倒れずに済んだけれど、下半身の疼きが強くてクラクラする。瞳が惚け、性欲の高まりを示す色が宿った。
「蓮也、君……」
熱い吐息を漏らすと、体をかき抱かれた。切羽詰まったような囁きが耳元で響く。
「我慢できない……! 抱きたい」
十羽の体中に甘いさざ波が走った。蓮也はずっと、好きな人を見守るだけで手を出せずにいた。どれほど長く苦しい道のりだっただろう。求められるまま抱かれたい。彼の気が済むまで抱かれたい。
「亮也のやつ、俺をよくパパって呼んでからかうんだよ。見た目が兄よりパパだからな」
十羽はヘナヘナとテーブルに突っ伏しそうになった。しかしまだ疑問がある。
「で、でも、アトリエに展示してある家具は、店長さんが『夫が手がけたもの』だって、言ってたような。デザインも蓮也君らしさがあったし」
「ああ、あそこで展示してる家具は父さんが作ったものだから」
アトリエを立ち上げたばかりの頃に展示していた家具は、蓮也が作ったものだった。ところが国際的な賞を受賞して以来、海外からオーダーメイドの注文が殺到し、蓮也はそちらの仕事にかかりきりに。そこで展示販売する家具は進一が作るようになった。というわけで今の『アトリエ・イザクラ』は、オーダーメイドは蓮也が、展示販売用の家具は進一が担当している。
「進一さんの家具……!」
「父さん、俺の作風をちょっと真似て作ってるんだよ。オリジナルのデザインを考えるのは苦手だとか言って。だから俺が作った家具だと思ったんだな。納得した?」
十羽はコクコクと頷き「はあぁ……!」と脱力した。ショックを受けていた分、力の抜け具合が激しい。
「十羽が3度目のタイムスリップから帰ってきたとき、会いに行けなくてごめんな」
「ううん」
会えば歴史が変わる。あのときは辛かったけれど、結果的にこれで良かったのだ。
惚けていると、蓮也が立ち上がり、十羽の横に来て片膝をついた。そして十羽の手を取って真剣な眼差しを向ける。
「俺は、42歳のおっさんだ。それでも良ければ、ここで一緒に暮らしてくれないか」
「蓮也君……」
胸が詰まり、十羽の大きな瞳から真珠のような涙が一粒、零れ落ちた。
「僕はもう、好かれてないと思ってた。恋のときめきは、時間が経つと消えるって言うし」
「年々綺麗になっていく十羽を見守りながら、ずっとときめいてたよ。今は十羽を、重すぎるくらい愛してる」
胸が苦しいほどギュッとなった。
「ありがとう……」
「一緒に、暮らしてくれる?」
もう一度問われ、十羽は涙を零して微笑み「はい。喜んで」と答えた。
その言葉を噛みしめるように目を閉じた蓮也が、深く息をつく。
手を引かれ、ゆっくりと二人で立ち上がった。ふわりと抱きしめられた十羽は、彼の硬い胸板に顔を埋めた。もうタイムスリップで離ればなれにはならない。これからはずっと一緒にいられる。二人で同じ時間を生きられる。
彼の胸から22年間待ち続けた万感の思いが伝わってくるようで、十羽は精一杯の感謝の気持ちと愛情を込めて抱き返した。
「今までずっと、守ってくれてありがとう。長い間、待たせてごめんね」
「十羽が謝ることじゃないよ。なんかさ、まだ実感が湧かないんだ。あまりにも長い間、遠くから見守ってたせいかな。十羽がそばにいるのが信じられなくて、夢を見てるんじゃないかって気がしてる」
「夢じゃないよ」
十羽は顔を上げ、彼の頬に手を添えた。至近距離で見つめると、蓮也が少し困ったように眉尻を下げた。
「俺、老けただろ」
「そんなことない。前よりかっこいい」
「嘘だな」
「ほんとだって。前も好きだったけど、今の蓮也君も好きだよ。大好き。ずっと好きでいてくれて、ほんとに嬉しい」
目を閉じ、キスをねだる。
「十羽……」
はにかむ彼が唇に淡いキスをくれた。
「足りないよ。もっと」
「参ったな。俺、止まらなくなるかも」
「止めなくて、いいと思う」
頬を染めてそう言うと「ったく……どうなっても知らないからな」と言われて深く口づけられた。
「んんっ」
息が詰まりそうなほどのキス。唇を食まれ、差し入れられた舌を受け入れ、絡め合う。
「ふ……あっ」
堰が切れて濁流が溢れ出したような激しいキスは、狂おしいほど甘い。体の芯が一気に溶けそうになり、十羽の膝がガクンと折れた。蓮也が体を支えてくれたので倒れずに済んだけれど、下半身の疼きが強くてクラクラする。瞳が惚け、性欲の高まりを示す色が宿った。
「蓮也、君……」
熱い吐息を漏らすと、体をかき抱かれた。切羽詰まったような囁きが耳元で響く。
「我慢できない……! 抱きたい」
十羽の体中に甘いさざ波が走った。蓮也はずっと、好きな人を見守るだけで手を出せずにいた。どれほど長く苦しい道のりだっただろう。求められるまま抱かれたい。彼の気が済むまで抱かれたい。
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