上 下
69 / 72
9章 2021年 最愛の人

9-6

しおりを挟む
「進一さんの息子さん!? だから、そっくり……! そうだったんだ!」
「亮也のやつ、俺をよくパパって呼んでからかうんだよ。見た目が兄よりパパだからな」

 十羽はヘナヘナとテーブルに突っ伏しそうになった。しかしまだ疑問がある。
「で、でも、アトリエに展示してある家具は、店長さんが『夫が手がけたもの』だって、言ってたような。デザインも蓮也君らしさがあったし」

「ああ、あそこで展示してる家具は父さんが作ったものだから」

 アトリエを立ち上げたばかりの頃に展示していた家具は、蓮也が作ったものだった。ところが国際的な賞を受賞して以来、海外からオーダーメイドの注文が殺到し、蓮也はそちらの仕事にかかりきりに。そこで展示販売する家具は進一が作るようになった。というわけで今の『アトリエ・イザクラ』は、オーダーメイドは蓮也が、展示販売用の家具は進一が担当している。

「進一さんの家具……!」
「父さん、俺の作風をちょっと真似て作ってるんだよ。オリジナルのデザインを考えるのは苦手だとか言って。だから俺が作った家具だと思ったんだな。納得した?」
 十羽はコクコクと頷き「はあぁ……!」と脱力した。ショックを受けていた分、力の抜け具合が激しい。

「十羽が3度目のタイムスリップから帰ってきたとき、会いに行けなくてごめんな」
「ううん」
 会えば歴史が変わる。あのときは辛かったけれど、結果的にこれで良かったのだ。

 惚けていると、蓮也が立ち上がり、十羽の横に来て片膝をついた。そして十羽の手を取って真剣な眼差しを向ける。

「俺は、42歳のおっさんだ。それでも良ければ、ここで一緒に暮らしてくれないか」
「蓮也君……」

 胸が詰まり、十羽の大きな瞳から真珠のような涙が一粒、零れ落ちた。
「僕はもう、好かれてないと思ってた。恋のときめきは、時間が経つと消えるって言うし」
「年々綺麗になっていく十羽を見守りながら、ずっとときめいてたよ。今は十羽を、重すぎるくらい愛してる」

 胸が苦しいほどギュッとなった。
「ありがとう……」
「一緒に、暮らしてくれる?」

 もう一度問われ、十羽は涙を零して微笑み「はい。喜んで」と答えた。
 その言葉を噛みしめるように目を閉じた蓮也が、深く息をつく。

 手を引かれ、ゆっくりと二人で立ち上がった。ふわりと抱きしめられた十羽は、彼の硬い胸板に顔を埋めた。もうタイムスリップで離ればなれにはならない。これからはずっと一緒にいられる。二人で同じ時間を生きられる。

 彼の胸から22年間待ち続けた万感の思いが伝わってくるようで、十羽は精一杯の感謝の気持ちと愛情を込めて抱き返した。

「今までずっと、守ってくれてありがとう。長い間、待たせてごめんね」
「十羽が謝ることじゃないよ。なんかさ、まだ実感が湧かないんだ。あまりにも長い間、遠くから見守ってたせいかな。十羽がそばにいるのが信じられなくて、夢を見てるんじゃないかって気がしてる」
「夢じゃないよ」

 十羽は顔を上げ、彼の頬に手を添えた。至近距離で見つめると、蓮也が少し困ったように眉尻を下げた。

「俺、老けただろ」
「そんなことない。前よりかっこいい」
「嘘だな」
「ほんとだって。前も好きだったけど、今の蓮也君も好きだよ。大好き。ずっと好きでいてくれて、ほんとに嬉しい」

 目を閉じ、キスをねだる。

「十羽……」

 はにかむ彼が唇に淡いキスをくれた。

「足りないよ。もっと」
「参ったな。俺、止まらなくなるかも」
「止めなくて、いいと思う」

 頬を染めてそう言うと「ったく……どうなっても知らないからな」と言われて深く口づけられた。

「んんっ」

 息が詰まりそうなほどのキス。唇を食まれ、差し入れられた舌を受け入れ、絡め合う。

「ふ……あっ」

 堰が切れて濁流が溢れ出したような激しいキスは、狂おしいほど甘い。体の芯が一気に溶けそうになり、十羽の膝がガクンと折れた。蓮也が体を支えてくれたので倒れずに済んだけれど、下半身の疼きが強くてクラクラする。瞳が惚け、性欲の高まりを示す色が宿った。

「蓮也、君……」

 熱い吐息を漏らすと、体をかき抱かれた。切羽詰まったような囁きが耳元で響く。

「我慢できない……! 抱きたい」

 十羽の体中に甘いさざ波が走った。蓮也はずっと、好きな人を見守るだけで手を出せずにいた。どれほど長く苦しい道のりだっただろう。求められるまま抱かれたい。彼の気が済むまで抱かれたい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

【完結】紅く染まる夜の静寂に ~吸血鬼はハンターに溺愛される~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
 吸血鬼を倒すハンターである青年は、美しい吸血鬼に魅せられ囚われる。  若きハンターは、己のルーツを求めて『吸血鬼の純血種』を探していた。たどり着いた古城で、美しい黒髪の青年と出会う。彼は自らを純血の吸血鬼王だと名乗るが……。  対峙するはずの吸血鬼に魅せられたハンターは、吸血鬼王に血と愛を捧げた。  ハンター×吸血鬼、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血描写・吸血表現あり  ※印は性的表現あり 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 全89話+外伝3話、2019/11/29完

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

好きな男が他の女と結婚する

和泉奏
BL
俺達は、ずっと友達で、同級生で、…男同士で、 だから…「好き」だなんて感情、言葉にできるはずもなかった。 社会人×社会人

とある画家と少年の譚

Kokonuca.
BL
 ある夏、訪れた後援者の屋敷で一人の少年に出会う  新山卯太朗はいたずら心を抑えられないままに翠也の汗に手を伸ばす……

あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣
BL
こちらはどこまでも玩具のパラレルワールドです 登場人物としましては NO.1 類沢雅 NO.2 紅乃木哲 チーフ 篠田春哉 … といった形です なんでもありな彼らをお見守りください 「知ってる?」 ―何が 「あの歌舞伎町NO.1ホストの話!」 ―歌舞伎町NO.1? 「そう! もう、超絶恰好良かったんだよ……」 ―行ったの? 「ごめんなさい」 ―俺も、そこに案内してくんない? 「え……瑞希を?」 ―どんな男か見てみたいから あの店に 彼がいるそうです

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...