63 / 72
8章 2021年 十羽が見た現実
8-9
しおりを挟む
十羽の大きな瞳から涙が零れた。やっぱり彼が好きだ、心から愛している。
「蓮也君とキス、したい」
「うん」
彼の首に腕を回し、桃色の唇を薄い唇に重ねた。
「ん……」
唇を食んで甘いキスを交す。彼と交す、多分、最後のキス。
そう思うと寂しさで胸が震え、また涙が零れ落ちた。柔らかな唇の感触を忘れたくない。力強く抱いてくれる温もりも、匂いも、何もかも。
「泣かないで、十羽さん。また会えるよ」
鼻先を触れ合わせて、蓮也が眉尻を下げる。
十羽は至近距離で彼を見つめた。少し釣り目の大好きな面立ちを心に焼きつける。決して忘れないように。
「蓮也君、今までほんとにありがとう。すごく、幸せだった。二人の作品をもっと作りたかったけど……」
「また作れるよ。再会したときには俺、今より上手くなってるからな」
「うん」
どうにか笑みを作り、彼から体を離した。
22年間、絶対に待っていて、と言って蓮也を縛りつけることが彼の幸せに繋がるのか、十羽にはわからない。ただ、蓮也には幸せな人生を歩んでほしい。だから彼の未来は、彼自身の意志に委ねるしかないと思った。
ぬるくなったタオルを蓮也に手渡す。
「これも……ありがと」
「ああ。首、もっと冷やしたほうがいいな。タオルをまた湿らせてくるよ」
蓮也がキッチンに向かったのを見計らい、十羽は立ち上がってリビングのドアのほうへ向かった。途中、テーブルの上に十羽のスマホが置いてあるのを見つけたので、パーカーのポケットに入れた。体が透けたら物に触れなくなる。透けていないうちに未来へ帰らなければ。
強く、ドアノブを掴んだ。
「蓮也君、幸せになってね」
振り返らず、思いきりドアを開けた。
「十羽さん? ……十羽さん!? もう帰るのか!?」
ドアの向こうから眩しい光が差した。真っ直ぐ白い光りの中へダイブする。
「十羽さん! 俺は十羽さんを絶対に諦めない! 諦めないからな……!」
頭上から声が聞こえた。
固い決意を感じさせる声が──。
「蓮也君とキス、したい」
「うん」
彼の首に腕を回し、桃色の唇を薄い唇に重ねた。
「ん……」
唇を食んで甘いキスを交す。彼と交す、多分、最後のキス。
そう思うと寂しさで胸が震え、また涙が零れ落ちた。柔らかな唇の感触を忘れたくない。力強く抱いてくれる温もりも、匂いも、何もかも。
「泣かないで、十羽さん。また会えるよ」
鼻先を触れ合わせて、蓮也が眉尻を下げる。
十羽は至近距離で彼を見つめた。少し釣り目の大好きな面立ちを心に焼きつける。決して忘れないように。
「蓮也君、今までほんとにありがとう。すごく、幸せだった。二人の作品をもっと作りたかったけど……」
「また作れるよ。再会したときには俺、今より上手くなってるからな」
「うん」
どうにか笑みを作り、彼から体を離した。
22年間、絶対に待っていて、と言って蓮也を縛りつけることが彼の幸せに繋がるのか、十羽にはわからない。ただ、蓮也には幸せな人生を歩んでほしい。だから彼の未来は、彼自身の意志に委ねるしかないと思った。
ぬるくなったタオルを蓮也に手渡す。
「これも……ありがと」
「ああ。首、もっと冷やしたほうがいいな。タオルをまた湿らせてくるよ」
蓮也がキッチンに向かったのを見計らい、十羽は立ち上がってリビングのドアのほうへ向かった。途中、テーブルの上に十羽のスマホが置いてあるのを見つけたので、パーカーのポケットに入れた。体が透けたら物に触れなくなる。透けていないうちに未来へ帰らなければ。
強く、ドアノブを掴んだ。
「蓮也君、幸せになってね」
振り返らず、思いきりドアを開けた。
「十羽さん? ……十羽さん!? もう帰るのか!?」
ドアの向こうから眩しい光が差した。真っ直ぐ白い光りの中へダイブする。
「十羽さん! 俺は十羽さんを絶対に諦めない! 諦めないからな……!」
頭上から声が聞こえた。
固い決意を感じさせる声が──。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説



【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる