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6章 見習いの青年

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 はっきりとした口調で言うと、中年男が目を見張った。
 蓮也も息を呑む。

「僕は彼のことが好きです。一緒にいられるだけで幸せなんです。彼は優しくて、まじめで……お金なんかなくても最高に素敵なんです! だから、他の人なんて考えられない!」

 想いが口から溢れ出た。
 抑えようとした気持ち、気づかれてはいけない気持ちが全て。
 ハアハアと息が上がる十羽の手を、蓮也が強く握ってくれた。
 そして中年男を見据える。

「わかったでしょう?」
 中年男が悔しげに声を荒げた。
「かわいそうに! 君はこんな男に惚れてるんだね。こんな男に!」
 ムッとした蓮也が額に青筋を立てた。
「おい、あんた、さっきから失礼だな」

 ケンカ腰の蓮也の迫力は、先ほどまでとは段違いだ。
 中年男がジリジリと後退った。

「や、やれやれ、若造とやり合うなんて、私の趣味じゃない」
 強がるようにそう言い、肩をすくめて背を向けた。そそくさとテラスを去って行く。どうやら諦めたらしい。

(良かった……!)

 蓮也のおかげで退けられ、十羽は安堵の息をついた。
 蓮也も体から力を抜く。

「大丈夫か?」
「うん。助けてくれてありがとう」
「とにかく、部屋に戻ろう」
 手を繋いだまま宿泊棟へ向かう。


 客室に戻ると蓮也がドアを開け、十羽を室内に入れてくれた。広いリビングには暖かな色合いの間接照明が灯っている。テラスと同様にロマンチックな雰囲気だ。
 蓮也が息をつき、おもむろに口を開いた。

「十羽さん……昼間も男にナンパされてなかったか?」
「え……」
「さっきも男に……」

 隠しても仕方がない。十羽は静かに頷いた。
「僕は……女性より男性に好かれるんだ」
「それは、女に間違えられて?」

 首を横に振る。
「子どもの頃は女の子によく間違えられたけど、今は男とわかった上で声をかけてくる人が多いよ」
「てことは、未来で十羽さんを困らせてるのも男なのか?」

 ゆっくりと頷いた。
「ごめん……。僕、前に女性だと嘘をついたよね」
「いや、俺が勝手に女だと思い込んでたから。でもそうか、やっぱりそうだったんだな。なんとなく、そうじゃないかと思ってた」

 蓮也は口元を手で押さえてしばらく沈黙した。
 流れる空気が重くなったように感じて、息苦しい。

(男にしかモテない男なんて、気持ち悪いって思うかな……)

 同じベッドで寝るのは嫌だと言われたら切ない。
 すると蓮也が十羽の前に歩み寄った。

「男に好かれるのは……迷惑か? 俺の……俺の気持ちも迷惑かな」
「へ……?」

 十羽は彼を見上げた。
 蓮也が緊張した面持ちで、まっすぐに真剣な眼差しを向ける。

「俺は、十羽さんが好きだ。つき合ってほしいと思ってる」
「……?」

 自分は何を言われたのだろう。わけがわからず、口がポカンと開いた。
 慌てた蓮也が「いや、だからその、好きなんだ!」と言った。冗談の素振りは一切ない。
 十羽の目が大きく、これ以上ないほど大きく見開いた。
「へっ!?」

(今、好きって言った?! それって恋愛感情で!?)

 驚きのあまり、息ができない。
 蓮也が少し頬を染め、照れくさそうに目を逸らす。

「そんなに意外かな。俺、結構ぐいぐい迫ってたつもりだったんだけど」
「えっ、えっ、そう、だった?」
「伝わってなかったのか……」
 ガクリと項垂れた。

「だ、だって、僕、蓮也君みたいな素敵な人に好意を持ってもらったこと、ない!」
 言い切ると、蓮也の端正な顔が明るく華やいだ。

「素敵って思ってくれてるのか! なあ、さっきテラスで俺のことが好きだって言ったよな。あれは本心? 俺は本心だと勝手に思った。違うならはっきり否定してくれ。変な同情はしなくていいから」
「あ……」

 完全に本心だ。だけど肯定していいのだろうか。十羽は未来人である。ある日突然、この世界から消えてしまう。それに……。
「蓮也君は、女性が好きなんじゃないの?」
 困惑して問うと、蓮也が「ああ、明梨あかりのことか」と言った。

「あいつとつき合ったのは、脅されたからなんだ。つき合わないと学校で大泣きするって言われて……。周りのやつらも、明梨がかわいそうだからつき合ってやれって責めるし……。だからその場しのぎのために、仕方なくつき合った。で、あいつが落ちついてるときにちゃんと話をして別れたんだ。好きな人がいるからつき合えないって」

「そ、そう……」
「俺はずっと前から、正確には初めて会ったときから、十羽さんが好きだ」
 またしても十羽の口がポカンと開く。

「初めて、会ったときって……?」
「俺は小学生のくそガキだった」
「ええっ!?」

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