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6章 見習いの青年

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 ということは、ここは22年前の世界。前回訪れたときから5年が経過している。

 蓮也の勧めで彼の家に泊めてもらうことになり、十羽は楽しかった思い出が残る伊桜いざくら家のリビングに足を踏み入れた。
 部屋の様子はほとんど変わりがなく、ブラウン管テレビがあり、蓮也が作ったローテーブルがあり、固定電話がある。

 違っているのは進一が脱サラして家を出たこと。蓮也が成人したため、思いきって家具職人に戻ったそうだ。蓮也が木工を習っていた山奥の工房へ移住したと言う。
 リビングのソファに座るよう促され、十羽は彼と一緒に腰かけた。

「進一さん、いないんだね。会いたかったな」
「5年前に十羽さんが消えた後、父さんすごく寂しがってた。また来てくれたよって連絡したら会いたがると思う。あ、でも年を取ってないことに気づかれたら説明が厄介だな」
「ほんとだ」
 顔を見合わせて笑い合った。

 5年前に十羽が消えた後、蓮也は進一に嘘の説明をした。十羽さんは別の街で急に仕事が決まった。すぐに来てくれと言われたから、父さんに別れの挨拶ができないまま家を出た、くれぐれもよろしくと言っていたと。
 十羽のためにしっかりフォローしてくれていたのだ。

 蓮也はサッカーを趣味にとどめて中学を卒業。その後は工芸学科のある高校に進学した。高校を卒業した後は山奥の工房に就職しようとした。しかし他の職人の技術も身につけたいと思い、天樹町内にある家具工房に就職。
 小さな工房だが手作業にこだわる本格派で、今はそこで見習いの家具職人として働いていると言う。

「木工の道に進んだんだね」
「ああ。それにしても、俺は5年ごとにしか十羽さんに会えないんだな」
 蓮也が肩を落として残念そうに言うので「僕は数日で会ってるけどね」と苦笑した。

「十羽さんが消えた後はいつも、大丈夫かなって心配になる。この5年間、ずっと気になってた」
「心配してくれて、ありがと」
「べ、別に、当たり前だろ」
 すっかり大人の容貌になったけれど、照れ顔は15歳の頃と変わらない。
「そうだ蓮也君、木工の自慢話、聞かせてくれる?」

 世話になる代わりに木工の自慢話を聞く。15歳の蓮也が提示した交換条件だ。でも条件など関係なく、彼の作った家具の話が聞きたい。家具だけでなく、5年間をどんな風に過ごしたのか、もっと詳しく知りたい。彼女の存在は……あまり知りたくないけれど。

「ああ、でもその前に……」
 蓮也が心配そうに十羽をじっと見つめた。

「十羽さん、未来で何かあったんだよな? 逃げ出したくなるほど嫌なことがあったときにタイムスリップするんだろ。何があったのか、良ければ教えてほしい」

 十羽の顔から笑顔が消えた。
 牛丸の存在、藤本に知られたセクシャリティ。全てを話せばゲイだと知られる。この世界ではまだ同性愛について不寛容なはず。気持ち悪いと思われたらどうしよう。嫌われたくない。一瞬でそんな考えが脳内を巡り、十羽は口をつぐんだ。

「前に言ってたよな。好きじゃない女性に好かれて困ってるって。その人は諦めてくれたのか? その人、まともな人なのか?」
「え……」
「その人からしつこく言い寄られるせいで、十羽さんはかなり困ってる。逃げ出したくなるほど嫌な思いをしてる。そこまで十羽さんを困らせる人がまともとは思えない。だからその人はまともじゃない。違うか? 単なる俺の推測だけど」

 やはり蓮也は頭がいい。ほぼ言い当てられ、十羽は目を伏せた。
「……諦めてほしくて、はっきりとした言葉は伝えたんだけどね」
 つき合いたいと思っていない、好きなのは牛丸じゃない。
 悲痛な叫び声は届かず、逆に動揺して大騒ぎするゲイという扱いを受けてしまった。思い出しただけで泣きたくなる。でも暗い顔をしていると蓮也に余計な心配をかけるので、なんとか笑顔を作った。

「だ、大丈夫。この世界でしばらく癒やされたら、元気になって未来へ帰るよ」
 しかし蓮也に安堵あんどする様子はない。
「無理してるだろ。一人で背負い込んでるよな?」
「僕が、うまく立ち回れないだけなんだ」
「ほんとに? できれば話してくれないかな。話せば少しは気が楽になるかもしれない。未来のことで俺が力になれるかはわからないけど、助けられるなら助けたい」
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