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2章 好奇心溢れる少年
2-8
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「俺なら、言ってもわからない人には態度で示す」
「態度?」
「うん。言葉が通じないならジェスチャーだよ。オッケーとか、グッドとか」
蓮也が親指を立てる。なるほど、ハンドサインでも気持ちは伝わる。
「十羽さんは、何をわかってほしいの?」
「えっと……僕を好きにならないでって、ことかな。そんなことを伝えるハンドサイン、さすがにないよね」
「うーん、わかんない。何かあるかなぁ」
少し考え込んだ蓮也は「そうだ!」と閃いたように声を発した。
「自分の鼻くそをほじって食べればいいよ!」
「は、鼻くそ!?」
突拍子もない発想に驚いて目を瞬かせると、蓮也がいたずらっ子のように笑った。
「鼻くそをほじって食べるやつを好きにはならないだろ。なかなか」
ハッと、目が覚める思いがした。要するに、相手に嫌われる行動を取ればいいのだ。
「そうか、そうだね! ありがとう! やってみるよ」
蓮也に抱きつくと、彼が「マジで鼻くそ食べるのか!?」と狼狽えた。
「ううん。だけど上手くいくような気がする!」
「よくわかんないけど、良かった」
「蓮也君にはほんと、助けられてばっかりだな」
「俺は特別なことをしてるつもりはないぞ。明日も未来へ帰れなかったら、うちに泊まっていいからな」
蓮也がはにかむように身動いだ。
「明日はお父さんが帰ってくるんだよね? さすがに悪いよ。僕が未来人だと言っても、信じてもらえないと思うし」
ありがたいけれど、普通の親なら十羽を怪しんで泊めはしないだろう。
「そこは上手く誤魔化すよ。大丈夫、十羽さんのことは、俺が守る」
蓮也は黒い瞳に強い意志を滲ませ、十羽の頭をポンポンと撫でた。
少し照れた十羽は「蓮也君はかっこいいね。ありがと」と言って彼を強く抱きしめた。
「か、かっこよくなんか、ないぞ」
腕の中で赤くなる蓮也もかわいい。
だけど……気持ちは本当にありがたいが、父親を騙すのは気が引ける。明日も帰れなければ野宿ができる場所をさがそう。野宿は怖いけれど仕方がない。
十羽は密かにそう覚悟して眠りについた。
翌朝、十羽と蓮也は一緒に朝食を作った。
十羽が野菜スープを作り、蓮也がトーストとカフェオレを用意。好奇心旺盛な蓮也はスープの作り方を教えてとせがみ、明日は俺が作るとはりきっている。
楽しい朝食の時間はあっという間に過ぎ、蓮也の登校時間になった。「俺が帰るまでこの家で待ってて」と言われたが、家の人間が不在なのに居座るのは落ちつかない。
蓮也が学校へ行くときに一緒に家を出て図書館へ行き、未来へ帰る手がかりを探す。十羽は今日のスケジュールをそう決め、彼に説明した。
今日こそ未来へ帰らなければと、強く決意する。蓮也と別れるのは寂しいけれど、この世界に十羽の居場所はないのだ。だて眼鏡とマスクをつけ、ニット帽を被る。
玄関に向かう途中、蓮也が「やばい、リコーダー忘れた!」と言って二階に駆け上がっていったので、十羽は靴を履き「先に出るよー!」と声をかけた。
「待って待って!」
二階から声が聞こえ、蓮也がバタバタと階段を降りてきた。今日もTシャツとハーフパンツという元気な格好で、ランドセルを背負っている。やんちゃな小学生という感じが微笑ましい。
十羽も子どもの頃は登校前に忘れ物をして慌てたものだ。懐かしいな、と思いながらドアノブを握り、ドアを押した瞬間──。
カッと、朝日にしては眩しすぎる光りが十羽を直撃した。思わず目を伏せると、身に覚えのある強風が一気に吹き込んできた。強風が背後に回って十羽の背中を強く押す。
「わっ!」
踏ん張りきれない。体がドアの向こう側へと落っこちそうだ。
「十羽さん!?」
「蓮也君!」
振り返ろうとしたが、十羽の体は何もない真っ白な空間にダイブした。
「十羽さーん!」
蓮也の声が遠くなる。
「蓮也君! 蓮也くーん!」
「態度?」
「うん。言葉が通じないならジェスチャーだよ。オッケーとか、グッドとか」
蓮也が親指を立てる。なるほど、ハンドサインでも気持ちは伝わる。
「十羽さんは、何をわかってほしいの?」
「えっと……僕を好きにならないでって、ことかな。そんなことを伝えるハンドサイン、さすがにないよね」
「うーん、わかんない。何かあるかなぁ」
少し考え込んだ蓮也は「そうだ!」と閃いたように声を発した。
「自分の鼻くそをほじって食べればいいよ!」
「は、鼻くそ!?」
突拍子もない発想に驚いて目を瞬かせると、蓮也がいたずらっ子のように笑った。
「鼻くそをほじって食べるやつを好きにはならないだろ。なかなか」
ハッと、目が覚める思いがした。要するに、相手に嫌われる行動を取ればいいのだ。
「そうか、そうだね! ありがとう! やってみるよ」
蓮也に抱きつくと、彼が「マジで鼻くそ食べるのか!?」と狼狽えた。
「ううん。だけど上手くいくような気がする!」
「よくわかんないけど、良かった」
「蓮也君にはほんと、助けられてばっかりだな」
「俺は特別なことをしてるつもりはないぞ。明日も未来へ帰れなかったら、うちに泊まっていいからな」
蓮也がはにかむように身動いだ。
「明日はお父さんが帰ってくるんだよね? さすがに悪いよ。僕が未来人だと言っても、信じてもらえないと思うし」
ありがたいけれど、普通の親なら十羽を怪しんで泊めはしないだろう。
「そこは上手く誤魔化すよ。大丈夫、十羽さんのことは、俺が守る」
蓮也は黒い瞳に強い意志を滲ませ、十羽の頭をポンポンと撫でた。
少し照れた十羽は「蓮也君はかっこいいね。ありがと」と言って彼を強く抱きしめた。
「か、かっこよくなんか、ないぞ」
腕の中で赤くなる蓮也もかわいい。
だけど……気持ちは本当にありがたいが、父親を騙すのは気が引ける。明日も帰れなければ野宿ができる場所をさがそう。野宿は怖いけれど仕方がない。
十羽は密かにそう覚悟して眠りについた。
翌朝、十羽と蓮也は一緒に朝食を作った。
十羽が野菜スープを作り、蓮也がトーストとカフェオレを用意。好奇心旺盛な蓮也はスープの作り方を教えてとせがみ、明日は俺が作るとはりきっている。
楽しい朝食の時間はあっという間に過ぎ、蓮也の登校時間になった。「俺が帰るまでこの家で待ってて」と言われたが、家の人間が不在なのに居座るのは落ちつかない。
蓮也が学校へ行くときに一緒に家を出て図書館へ行き、未来へ帰る手がかりを探す。十羽は今日のスケジュールをそう決め、彼に説明した。
今日こそ未来へ帰らなければと、強く決意する。蓮也と別れるのは寂しいけれど、この世界に十羽の居場所はないのだ。だて眼鏡とマスクをつけ、ニット帽を被る。
玄関に向かう途中、蓮也が「やばい、リコーダー忘れた!」と言って二階に駆け上がっていったので、十羽は靴を履き「先に出るよー!」と声をかけた。
「待って待って!」
二階から声が聞こえ、蓮也がバタバタと階段を降りてきた。今日もTシャツとハーフパンツという元気な格好で、ランドセルを背負っている。やんちゃな小学生という感じが微笑ましい。
十羽も子どもの頃は登校前に忘れ物をして慌てたものだ。懐かしいな、と思いながらドアノブを握り、ドアを押した瞬間──。
カッと、朝日にしては眩しすぎる光りが十羽を直撃した。思わず目を伏せると、身に覚えのある強風が一気に吹き込んできた。強風が背後に回って十羽の背中を強く押す。
「わっ!」
踏ん張りきれない。体がドアの向こう側へと落っこちそうだ。
「十羽さん!?」
「蓮也君!」
振り返ろうとしたが、十羽の体は何もない真っ白な空間にダイブした。
「十羽さーん!」
蓮也の声が遠くなる。
「蓮也君! 蓮也くーん!」
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