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1章
2021年-1
しおりを挟む小さなアパートの一室に、必要最低限の家財道具とベッドを置いただけ。
22歳になった明日見十羽は、一人で質素な生活を送っていた。
18歳までは両親と一緒に暮らしていたけれど、高校を卒業する頃に父が病気で他界した。
父が遺してくれた遺産でデザインの専門学校に入学。その後、地元の小規模なデザイン事務所に就職。同時期に母方の祖母が体を壊し、介護が必要になったので、母は遠く離れた実家に戻った。だから今は一人。
仕事が終わるとスーパーで安売りの食材を買って帰り、自炊をするのが日課だ。少ない給料で贅沢はできず、節約しながら細々と暮らしている。
服はセールで買った、安くて地味な服を何年も着回していた。ベージュブラウンのサラサラした美しい髪は、激安の床屋でカットする。三ヶ月に一度しかカットしないため、大抵襟足が長く、不揃いな状態。
外出するときは帽子を目深く被り、黒縁のだて眼鏡をかけてマスクをした。きらめきを帯びた淡褐色の瞳に暗い影が差し、桃色の美しい唇が隠れるけれど、それでいい。
お世辞でもお洒落とは言えない外見になるが、それでよかった。お洒落をするための金銭的な余裕がないということもあるけれど、とにかく人より目立つ容姿を隠したいのだ。
幼少の頃から美しかった容姿は年を重ねるにつれて磨きがかかり、まばゆいばかりとなった。彫りの深い顔立ちは絵に描いたように均等が取れている。雪のように白い肌には艶があり、目許は長いまつげに縁取られてぱっちりと大きい。淡褐色の瞳には魔法のように人を魅了する輝きがある。
身長は170センチに満たず、体型はほっそりとして艶っぽい。十羽は全体的に愁いを帯びた色香のある美青年に成長した。白いバラを思わせる清純さと、紫色の蘭のような妖艶さを併せ持つ、たぐいまれなる美青年。
モデルやタレントになればいいとよく言われるが、モデルになるには身長が足りないし、何より人から注目されるのが苦手なため、人前に出る仕事に就くつもりはなかった。デザイナーとして一人前になる夢を持ち、毎日コツコツと仕事に励む日々。
地味でいい。目立たずひっそりと生きたい。この容姿を帽子、眼鏡、マスクという仮面で隠さなければ、面倒なことが起きる。職場でも極力、仮面をつけて目立たないようにしていた。そのつもりだったのだが──。
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