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五十八話 【久しぶりの夢】

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「おい、フェ……」

「フェルどうして……」

 急いでフェルの気配をたどってウルエの部屋へとやってきたのだが、
 二人が気持ちよさそうに寝ているのを見て、魔王と大魔王は向き合い、
 自然な笑みを零し合った。

「相変わらず仲が良いですね」

「ああ、そうだな。まさか学園でもこんなにベッタリなのか?」

「まさか、流石のフェルでも場所はわきまえるでしょう」

「そうだな」

 二人はフェルの事を時と場所を弁える事の出来る優秀な子だと思っているようだが、
 現実はとても残酷でそのまさかなのだ。
 そんな事は知らない親二人は気持ちよさそうに寝ている二人を見て
 顔をおっとりとさせて思う存分眺めている。
 
「それにしても、何で帰って来たんだろうな」

「ええ、気になりますね」

 魔王であるディアインズはこの前フェルを魔王城まで呼び、
 これから戦争をするからウルエの事を護ってくれとお願いし、
 確かにフェルはそれを承認したのだが、
 目の前には何故か護るはずだったウルエを連れたフェルがいる。

「魔王城に立て込んでいれば安全だと思ったのか?」

「まさか、フェルは優秀な事ですわ。
 魔王城が危険だってことぐらいは分かっているでしょう」

 戦争となれば魔王軍総出で敵地に赴く為、その間の魔王城は完全に無人になるのだ。
 結界は何百と貼り巡らされているが、それでも完璧とは言えない。
 勿論フェルはそんな事は重々承知の上だ。
 では、何故魔王城にやってきたのかと言うと、そんなのは簡単な事だ。
 
 ――ウルエの望がままに。

 フェルはウルエの願い事は基本的にはきいてくれる。
 女関係だと非常に危険な存在へと変化してしまうが。

「あー、ウルエが帰りたいって泣きついたのかもな!」

「うふふふ、それもまた可愛らしくて良いですわね。
 確かにウルエはまだ子供ですから、あり得なくはないですね」

 二人を起こさないようにと小声でそう言い合う。
 魔王の言い方だと若干違うが大体は合っている。
 流石は親と言うべきか。本当の親ではないのだが、ウルエの事をよくわかっている。
 不意に大魔王エルリナがウルエの頬を指先でぷにぷにと突っ突き始めた。

 やはりフェルの親だ、考えている事は同じなのだ。
 
「そうだ、事情は何にしろ、折角帰って来たんだから
 盛大に祝いましょうよ!まだ私たちにも時間はありますしね!」

「おお、それは良いな!なら早速準備に取り掛かるぞ!」

 二人の事を本当に愛してやまない魔王と大魔王は
 帰ってきた事とこれから戦争に行き勝利することへの祝杯をあげるべく
 悪魔たちを集め準備に取り掛かる。
 いきなりの事だが悪魔たちは文句ひとつすら言わずに、
 寧ろ皆二人が帰ってきたという事に喜びを感じていた。

・・・・

 一方その頃、気持ちよく寝ているウルエは――久しぶりに夢を見ていた。
 
「久しぶりだな」

「う、うん。久しぶり過ぎてびっくりしたよ」

 久しぶりに霧がかった部屋に来た。
 何時もと違うところは最初から影、命の恩人が近くにいる事だ。
 
「本当はこの姿でもう会わないつもりだったんだがな、
 すこし報告をしておこうと思ってな」

「報告?」

「ああ、そろそろ私の身体が完全とまではいかないが復活するんだ」

「え、本当!?良かった!」

 彼女の身体が復活するとなればウルエが交わした約束、
 自己紹介を果たせるということだ。
 ウルエは約束を果たせる事にも喜んだが、
 それ以上に彼女が復活するということの方が喜ばしい。

「何時会えるかは分からないが、会った時は、その……」

「うん、自己紹介しようね!」

 今まで他人と触れ合ったことの無い彼女は
 初めての感情に思わず口ごもってしまうが、
 ウルエが言葉を遮るようにして元気よく発言した。
 勿論、ウルエは彼女を助けた訳では無く、言いたい事を言っただけなのだ。

「あ、ああ!そうだ。しっかりと自己紹介をしてもらうぞ」

「うん、楽しみにしてる」

 影の為彼女が一体どんな表情を浮かべているのかは分からないが、
 ウルエは微笑んでいると感じ、微笑み返した。

「それと警告もしておくぞ」

「ん?」

「あの迷宮の創造主とは仲良くして置くんだな、あいつは必ず力になってくれる。
 そして、あの学園には魔の手が迫っている」

「魔の手?」

 ウルエはそういえば彼女にも監視されていたという事を思い出した。

「詳しくは分からないが、気を付けろ――警告はしたぞ」

「う、うん。ありが――行っちゃった……」

 良くわからなかったが警告してくれたことに感謝を言おうとしたが、
 気が付いた時には既に彼女の姿が消えたいた。

「魔の手か……それに創造主と仲良くか」

 ウルエはしっかりと彼女に言われたことを胸に刻んで、
 目を瞑り夢から覚めた。
 
「ん……」

 目を覚ますと目の前にはフェルの顔が鼻先が当たる程近くにあった。
 思わず驚き顔を後ろに下げようとしたが、
 フェルが寝る前に抱き着き、その手が背中と頭裏にあり下がる事が出来なかった。

「……」

 こうなっている以上は何をしても抜け出すことは出来ないため、
 ウルエは大人しく目を瞑り再び眠る事にした。
 丸一日休まずに歩いていた為、寝ようと思えば幾らでも眠る事が出来る。
 早くお義父さんやベアデ達と会いたい気持ちを抑え、再び意識を闇に落とした。


数日間は一日二回更新で様子を見てみることにします。
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