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十三・五話 【フェル】

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 学園に向かう為、フェルがウルエと別れてから数時間後、
 フェルは学園の入り口に来ていた。
 周りには途中までいたハズの護衛悪魔達の姿が見えない。
 余りにも遅い為、おいて来てしまったのだ。

 護衛悪魔が決して遅い訳ではないのだ。
 魔王と大魔王が娘の事を守るために護衛を任せられた悪魔達。
 その悪魔たちが弱いハズが無い。
 実際、フェルの護衛をしていた悪魔達は全員上級悪魔達だった。

 それでも遅いと言いフェルは置いて先に行ってしまった。
 つまり、フェルの強さは上級悪魔を優に超えているのである。
 流石は魔王と大魔王の娘だ。

 フェルの場合ウルエとは違い翼が生えている為、
 入学当日に出発しても問題ないのだ。
 リーゼイ王国に入る前に翼などを隠し、
 確りと手続きをして入国し学園に向かった。

 試験を軽々と通過してフェルは会場へと向かった。
 何の問題も無く終わり自分のクラスへと向かった。
 教室に入ると皆の目がフェルに集まった。
 男からは下心丸出しの目線が注がれ、
 女からは嫉妬などの目線が注がれる。

 それも無理はない。
 真っ白で綺麗な髪に真っ赤な目、
 只でさえ目立つ色なのにそれに加えて
 スタイルも顔立ちも抜群のなのだから。

 フェルに取ってウルエ以外の生き物は全てゴミ以下。
 少しのチリが飛んでいて、それに構う人なんていない。
 それと同じくフェルはチリ同様のクラスメイト達には構わない。
 例えゴミ以下の存在が幾ら積み重なってもゴミになるのが精いっぱいだ。
 ゴミになった所で何が出来る、精々ポイ捨てされるかゴミ箱行きだ。

 故にフェルはそんな目線を気にせずに
 唯一空いている席に向かった。
 フェルのクラスは全員で二十六名の為、
 三人席が八、二人席が一となっていて、
 フェルは唯一空いている二人席に座った。

「貴女綺麗ですね、私《わたくし》とお友達になってくれませんか?」

 隣に座っている金髪縦ロールで目がクリっと
 非常にお嬢様って感じの女がそうフェルに言った。
 無論、フェルにはチリ同様の言葉など届いているはずも無く、

「ち、ちょっと無視ですか?
 も、もう一度言いますよ、私とお友達になってくれませんか?」

「……」

 勿論、言葉が返って来る訳も無く、
 縦ロールの目には段々涙が浮かんできた。

「も、もう一度言いますよ……」

「……」

「私と……うあぁああぁああん」

 遂に泣き出してしまった。
 そこでやっとフェルはチリの存在に気が付き、
 縦ロールの顔を見て慰めでもするかと思いきや、
 思いっきり睨み付けた、うるさいと。

「ひっ……そ、そんな、わ、私貴女と……
 貴女と、お友達に……」

 睨み付けられ、一瞬怯んだが、
 それでも縦ロールはフェルと友達になる事を
 諦めずにいた。

「私と貴女が友達?笑わせないで。
 私にはウルエが居る、それ以外なんて必要ない。
 分かったら二度と話しかけないで」

 フェルにきつい事を言われ、
 縦ロールは悲しむどころか非常に嬉しそうな顔をした。

「や、やっと会話してくれましたね!
 私の名前はアンア=ウレフア!
 さぁ、お友達になってくれませんか?」

「……」

 勝手に事項紹介を始め、
 握手を求め手を飛ばしているアンアの事など
 一切気にせずにフェルは前を見た。
 すると、タイミング良く、

「はーい、皆さん~」

 このクラスと担任が教室に入ってきた。
 眼鏡をかけて穏やかな顔をして非常におっとりとしている。
 
「このクラスの担任になった~
 コウアです~コウ先生と呼んでください~
 早速で悪いのですけど~皆さんの力を見させてもらいますね~」

 強大な室内グラウンドに連れていかれ、
 フェル達は一列に並ばされ一人一人の前に呼び出され、
 先生の目の前で魔法を見せたりするのだ。

「次の人~」

「はい!」

 始めは男子から。
 男子は魔法を発動すると必ずと言っていいほど、
 どや顔をして女子の方を見てきた。
 気持ち悪い、皆がそう思った。

 男子が終わり、女子の終盤になり
 やっとフェルの番がやってきた。
 フェルは皆の魔法を見て思った事がある。
 それは、弱すぎるということだ。
 良くもそれで魔法と呼べるな、と。

「さぁ、あなたが一番使える魔法を発動させてください~」

「……」

 チリ同様でも先生は先生だ。
 一応話を聞いておかないと困るのは自分自身だと
 理解しているフェルは先生の話は確りと聞いている。

 フェルは自分の得意な魔法をイメージして、
 遠慮なく放った。
 真っ赤で禍々しい光線が一直線に飛んでいく。

 魔王と大魔王の娘。
 そんな娘が遠慮なく魔法を放つとどうなる?
 答えは簡単だ、室内グラウンドにある観客席に貼ってある
 防御結界は一瞬で砕け散った。

「……」

 誰もが言葉を発することもできなかった。
 それは先生も例外なく。
 だが、一人だけ言葉を発する馬鹿がいた。

「凄いですわ!流石私のお友達!」
 
「……」



 それからは実技の授業は受けなくても良い事になった。
 フェルの実力に見合う授業が出来ないからである。
 座学の方が確りと受けるのだが。
 
 そんな感じで三年が経ち、フェルは四年生になった。
 そして、今日この日をフェルはずっと待ち望んでいた。
 
「フェル?何か良い事でもあるんですか?」

「弟がくるのよ……って貴女には関係ないでしょう」

 数年間もずっと纏わり続けられ、
 フェルも徐々にウザくなっていき、
 殺すわけにもいかなく、
 仕方なくアンアだけと言葉を交わすようになっていた。 

「弟ですか!フェルの弟……あってみたいです!」

「……手出したら殺す」

 そして、実技の授業をしている時に
 待ちに待った瞬間が訪れた。

「えぇ!?」

 大きな声が聞こえ思わず四年生は
 声の発生源を見てしまう。
 何時もなら気にしないフェルも例外なく。
 何故なら、その声に聞き覚えがあったからだ。

 声の主の方を見てフェルは目を見開いた。
 真っ白で綺麗な髪、可愛らしい顔つき、黒い瞳。
 
「ウルエ……」

「え、何ですか?」

 ウルエだ、ウルエ、ウルエ!
 あんなに大きくなって……あぁ、ウルエ!ウルエ!
 ウルエ、ウルエ、ウルエ、ウルエ、ウルエ、ウルエ、
 今すぐ抱き着きたい、触りまわりたい。
 あぁ、ウルエ、ウルエ、ウルエ、ウルエ、ウルエ

 四年生達が興味を無くしていくなか、
 フェルは自我を失いつつウルエの下に行こうと
 足を進めていた。

「ちょ、ちょっとフェル?」

 私のウルエ、私だけのウルエ。
 可愛いウルエ、あぁあ、ウルエだ。
 ウルエ、ウルエ!大好きウルエ!
 今行くからね、お姉ちゃんもう耐えらない!

「貴様!歯を食いしばれ――っ!!」

「っ!」

 ウルエの事を殴ろうとしている教師が視界に映った。
 助けないと、そう思い前に体は動き出していた、
 一瞬で距離をつめウルエのまえに立ち、
 教師の拳を掴み殺さない程度の殺気を直接あてた。

「先生、次ウルエに手出そうとしたら
 絶対に許しませんから」

 これは警告だ。
 次は無い、確実に殺すと。

「な、何故貴女がこの者を庇うのですか?」

「先生には関係ないでしょ、
 さっさとこの手を下ろして私の目の前から消えなさい」

「――っ!」

 教師が消えるのを確認して

「ふぅ、汚らわしい物を掴んでしまった」

 ポケットからハンカチを取り出し、
 手を綺麗に拭いた。
 これからウルエと触れ合うのだから
 チリを触った手を拭くのは当たり前のこと。

 そして、フェルは振り返り三年振りのウルエに抱き着いた。

「ウルエ!!」
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