改訂版 勇者と聖女の育成請け負います_みんなで育てれば怖くないね

にしのみつてる

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第7章

7-1 トビーとセルマ

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 その頃神界では上級神に昇格したアトラスとニュンペーの二神はテイーチ市をどうやって発展させていくかで悩んでいた。前任者のコイオスとポイベは最終的にはゼウスの期待に添えなかったので責任を取って快楽の星の守護神に降格人事となったそうだが……神々の人事は上級神だけが知っていることだったので、後釜で昇格してきたアトラスとニュンペーは知らないことだった。

「アトラス様、まずはハデス様にお願いして新しいジェネオスとアギオスの魂を直ぐに呼んでもらいましょう」
「ニュンペー、その案でよいのだが、たまにはこの宮殿にある泉で将来ある若者の様子を見てみないか?」
「アトラス様、そうですね」

 上級神はジェネオスとアギオスが使っているタブレットで外界の様子を見れるが、一般人の行動は宮殿の庭にある泉に映し出される様子を見るしかなかった。アトラスとニュンペーの二神は外界を映す泉でテイーチ市の様子を静かに見守っていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 テイーチ市から30キロほど離れたダブソナ村の農家三男のトビーと同じ農家の次女のセルマは秋の収穫祭と一緒に行われる15歳の合同成人式の翌日にテイーチ市で冒険者登録をするためにダブソナ村からテイーチ市に向かって歩いていた。幼馴染の二人は将来は冒険者になって結婚すると約束をしていた仲だった。

 朝早くテイーチ市に向かう商人の荷馬車に二人は護衛の練習を兼ねて乗せてもらえた。

 ダブソナ村を朝の鐘と同時に出発して2時間後、馬車はテイーチ市の3キロ手前のソンダ村の森の中を進んでいた。もう少しでソンダ村というところで運が悪い事に二人の盗賊が馬車を停めたのだった。

「この街道は俺たちが取り仕切っている。女と積荷は置いていってもらおうか」
 二人の盗賊は長剣を構えて馬車に近寄ってきた。

「お前たちに渡すものなど何もない」
「お前たち、そんな短剣で俺たちに勝てると本当に思っているのか?」

 トビーとセルマは狩猟用の短剣を構え全身に力を込めて突進しようとしたが、傭兵を経験してきた盗賊の方が戦闘技術では一枚も二枚も上手だった。トビーとセルマの二人は何も作戦を考えずに盗賊に突っ込んでいったので盗賊の長剣にあっけなく胴を切られて二人共命を失った。荷馬車の商人は護衛二人が死んだので直ぐに馬車を捨てて森の奥に逃げ込んだので命だけはどうにか助かったのだった。

 商人はソンダ村に慌てて駆け込み、馬車の積み荷の食料品は大半は盗賊たちに奪われてしまったが、馬車と荷の半分は無事だった。商人はソンダ村の村人と一緒に二人の遺体を探したが、遺体は狼かゴブリンに喰われたてしまったのか見つからなかったのだった。

「アトラス様、勇気ある者の命とは、あのようにあまりにもあっけないのですね」
「そうであるな、ハデス様から託されていた飛雄と瀬里奈の魂を転生させ新しく二人を生き返らせよう」
「はい、早く生き返らせましょう」

 アトラスとニュンペーの二神は勇敢に戦って命を落としたトビーとセルマの遺体を神界へと転移させ、冥界の神ハデスから預かった白石飛雄と河瀬瀬里奈の魂を転生させ年齢を17歳の男女に作り変えた。

「信心深き者たちよ」
 『神の間』と呼ばれる特殊な空間に男神と女神がトビーとセルマの前に姿を表した。

「我らはこの地域を統べるアトラスとニュンペーである」
「汝らは一度は死んでしまったが、新しく体を作り変えトビーとセルマとして生き返るのじゃ」


「神様、私たちは日本人の記憶が残ったまま異世界転移したのですか?……」
「正確には転生じゃ。村人のトビーとセルマの体を作り変えるときに村人の記憶は全て消したが、日本人として生きていた頃の白石飛雄と河瀬瀬里奈の記憶を残しておるのじゃ」

「そうなんですか、じゃあ、TUEEEって、この世界で俺たちは無双できるのですか?」

「残念ながら、汝らが思っているようなチートな能力は最初の内はわざと封印しておるのじゃ」
「但し、二人で力を合わせて世のため人のためになるようにこの世界で働けば二人のチート能力は直ぐに開花されるであろう」

「やったー」
「私たち、トビーとセルマは神様の願いを受けますので、どうかチート能力をお授けください」

「あいわかった」
「では、今からティーチ市の冒険者ギルド前へと転送をするが、その場所でシロー、スミレと名乗る夫婦から指導を受けるのじゃ」


 ◇ ◇ ◇ ◇

 テイーチ市の冒険者ギルドは朝早くから大勢の冒険者で賑わっていた。転生したてのトビーとセルマの二人は冒険者の姿に恐れてすっかり萎縮していたのだった。

 シローとスミレさんは朝の鐘が鳴る頃から冒険者ギルド併設の食堂で新人冒険者が来るのを待っていたのだった。

「シローさん、どうやらあの子たちみたいよ」
 スミレさんは神様から指導するように言われた17歳のカップルを見つけたのだった。

「そのようだね、スミレさん、二人に声をかけてみようよ」

「トビーさんとセルマさんですか?」
「俺たちは冒険者のシローとスミレです。神様から神託を受けて冒険者ギルドで待っていたのです」

「トビーです」
「セルマです」

「「よろしくお願いします」」

「シローさん、冒険者ギルドでお決まりの冒険者登録はしないのですか?」
「トビー、冒険者登録は何時でもできるから先に二人にあったレベルアップを考えよう」

「シローさん、俺は神様にもお願いしましたが、直ぐに俺TUEEEになりたいのです」

「トビー、チートは二人が協力してレベルを上げることが先だね」
「そうなんすか」

 トビーとセルマはシローたちと一緒に冒険者ギルドの外に出た。シローは転移魔法を発動して、冒険者ギルド近くの草原に移動していた。

 シローはキャンピングカーとアウトドアテーブルを収納から出し、スミレさんは朝食の用意を始めたのだった。

「シローさん、何なんスカ?そのキャンピングカーは」
「ああ、レベルが25になると神様から許されて作れる魔道具だよ」


「トビー、この世界だと勇者と聖女になっても移動手段は馬車しかないからね」
「だから、移動手段は寝泊まりが出来るキャンピングカーなのさ」

 シローはトビーとセルマ簡単にこの世界の知識を教えたのだった。

「セルマ、異世界アニメでも勇者と聖女は馬車で移動だったよな~」
「そうよ」

「トビー、レベルが上がるとキャンピングカーは空を飛べるようになるよ」
「シローさん、その反則技は何なんスカ?」

「馬車でまともに移動していたら何ヶ月もかかるからね、時間短縮だよ」
「ありえね~です」

 トビーとセルマはスミレさんが作ってくれたサンドイッチを食べながらシローとスミレさんの話を聞いていた。

 シローとスミレさんが元の世界ではおじいさんとおばあさんだったが、修学旅行中の中学生の悪ふざけで崖から落とされてこの世界に異世界転移し、これまでに5組の勇者と聖女を育ててきたことを教えられた。

「へえ~、そうだったんですか」
「じゃあ、シローさんとスミレさんはベテランの冒険者さんなんですね」
「ところでお二人ののレベルっていくつなんですか」

「スミレさんいくつだったけ?」
「え~と、多分、LV1400はだいぶ前に前に超えていたから、今はLV1500を超えているかもね」
「そうだったかな」

 ブフォ~、トビーはサンドイッチを吹き出しそうになった。

「トビー、慌てて食べないで」
「セルマ、もう大丈夫だ」

「シローさん、『亜神』って何すか?」

「ミカエル、代わりに二人に説明してくれ」

 シローは収納からからタブレットを出した。

「トビーさん、セルマさん、私はミカエルと申します。お二人は勇者・聖女としてこの世界に転生したのですが、現在、このイポニアには勇者・聖女が10000組もいるのです」

「えっ、そんなに転生者が来ているの?」

「トビーさん、違います。このイポニアだけで名乗っている自称・勇者・聖女のことで、つまり勇者・聖女とは名乗った者勝ちなのです」

「神様が正式に認められた勇者・聖女はジェネオス・アギオスと呼んでいます」

「お二人の目標はシローさん、スミレさんと同じように亜神になることです」
「まずはLV99でジェネオス・アギオス、LV300で神の使徒、LV900で亜神です」


(話終わり)
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