改訂版 勇者と聖女の育成請け負います_みんなで育てれば怖くないね

にしのみつてる

文字の大きさ
上 下
57 / 68
第5章

5-13 本部から通達が来ていたのをお忘れですか?

しおりを挟む
 ここで、時間を1週間前に戻そう……

 キビピーチ市のギルドマスターのダニエルはキビピーチ市の領主の三男だった。長男は父親を補佐し、この街を収めていた。次男は新しい領地を経営しそれなりの成績を上げていた。三男のダニエルは家督権が全く無いので、領主のダミアンはダニエルが成人した翌月にギルド本部と王家に小額の献金をして半ばゴリ押しで、ここキビピーチ市の冒険者ギルドのギルドマスターの職に就いたのだった。

 ギルドマスターになるには冒険者ギルド職員としての経験が必要なのだが、領主命令には誰も逆らえないのだった。ダニエルがナニサカ市の商人学校で経営学をしっかりと学んでいればギルド職員のモチベーションは下がらなかったが、お花畑のお坊ちゃまでは売上は目に見えて下がっていく一方だった。


 4人が帰った後、領主の館に帰ったギルドマスターのダニエルはキビピーチ市の領主であるダミアンに褒められていた。

「ダニエル、此度の働き大義であった」
「ダニエル、よく聞くのじゃ」

「はい、お父様」

「勇者、聖女たち4人をギルドマスターの権限で足止めしておくのじゃ」
「オーガ討伐の報奨金は本来は金貨1000枚を予算にしておるが、金貨500枚にするのじゃ」
「オーガーの買取代金は1体が20枚じゃが、1体10枚で2000枚じゃ」
「盗まれた金のお礼も本来は金貨1000枚じゃが、500枚じゃ」

「色を付けたことにして勇者聖女に金貨3000枚も渡せばウヒョヒョで踊り出すじゃろう」

「ハイ、そうですね、庶民は金貨をちらつかせたらウヒョヒョで踊り出しますから」
「と……いうことは、僕のお小遣いが金貨3000枚ももらえるのですか?」
「そういうことじゃ」
「勇者聖女の報奨金を半額にして掠め取ったのじゃ」

「ヒャッホ~イ、お父様に褒められた、褒められた」
「お小遣いも金貨3000枚だって、ラッキイチャチャチャ、ラッキイチャチャチャ」

 お花畑満開のダニエルの頭の中はお金のことしか頭になかった。


 崩壊までのカウントダウンが始まったのを親子は知らなかった。

 ◇ ◇ ◇ ◇


 約束の1週間後、4人はキビピーチ市の冒険者ギルドに来ていた。

「まずは、オーガの買い取りだが、200体で金貨2000枚だ、それと討伐報酬の金貨500枚と盗まれた金のお礼金貨500枚で合計で金貨3000枚だ」

 金貨30袋が積まれたのでシローとサキヒコで15袋に分け、直ぐに収納にしまった。

「お前たち、これは領主の命令で今後は4人でキビピーチ市を守るのだ」

「絶対にお断りします。俺たちは誰かに縛られる義務は嫌なのでこれよりロキシア国に移住することにします」
「ギルドマスター、あんた、俺たちを馬鹿にするのも程々にして下さい」
「何様のつもりで命令しているのですか」
「僕はそんなつもりでは……」

「ギルドマスター、買い取り金の中抜き行為はあまりにも冒険者を舐めていますよ」
「俺たちが相場を知らないと思っていたでしょう」

 ピキキ、ピキキ、ピキキ、シローは冷凍魔法と覇気をギルドマスターにー飛ばしたので、応接室全体が白く氷に包まれ、ギルドマスターは怖さのあまりに失禁をしてしまった。

 4人は応接室で堂々と転移門を出して、ナトホカに転移していった。

「あっ、ちょっと待ってください」
「ひえぇ~、ごめんなさい」

 4人が去った後の応接室で……

「ギルドマスター、勇者、聖女には一切関わらないと本部から通達が来ていたのをお忘れですか?」
「ウゴール君、そんな通達があったのか?」

「はい、1年前から通達はでていますし、受付でもそうですが、ギルドマスターの部屋にもちゃんと通達を張り出していますよ」
「そんな書類、僕は知らないよ」

「それは貴方が普段から通達を全く見ていないからです。少なくとも|領主(お父様)にも王家から勇者、聖女に関わらない通達が来ていたはずです」

「それでは、お父様もそのことを知らなかったのか?」
「はい、そうだと思います。勇者聖女を領地で無理やり囲おうとする馬鹿げた事を言い出すのは通達を読んでいない証拠です。王命で領主を失脚する罰則を知らないからだと思います」


「そんな~、お家取り潰しなんて」
 ギルドマスターのダニエルは泣き顔になっていた。本当にわんわん泣き出したのだった。

 副ギルドマスターのウゴールは思い出したように、チアフィーロ市の赤の魔女と青の魔導師の話をしだした。それとナニサカ市の勇者と聖女がタートル市で偽勇者と偽聖女に認定されれロキシアに移住した話とキント市に近いオカロダ町で偽勇者と偽聖女騒ぎを起こしたマリティレスがサウパウロ国へ国外追放になった話をギルドマスターに聞かせた。

「|領主(お父様)に命令されたと思いますが、ギルドマスターの行いは規約に違反していますので本部に報告して貴方も明日にはギルドマスターを解雇対象になります」

「それと、報奨金と買取金の中抜き行為は立派な犯罪行為ですのでギルド本部に一緒に告発させていただきます」

「そんな~、ウゴール君、待ってくれ」

(駄目だこりゃ)

 ウゴールと女性職員はさっさと応接室を出ていった。これ以上、何を言っても頭の中がお花畑満開の馬鹿マスターに無駄だと分かったからだ。

 副ギルドマスターのウゴールは全職員に命令し、ギルドの売上低下の問題点を洗い出し、告発書と一緒に、通信魔道具でケトマスのギルド本部に書類を全て転送した。

 ケトマスのギルド本部ではギルドマスター・ダニエルの横領と、領主が勇者と聖女が囲い込もうとして失敗し、勇者と聖女がロキシア国に移住したことで王家に連絡が行き、キビピーチ市領主のダミアンとその一族は勇者と聖女を囲い込もうとして国家反逆罪として財産没収と国外追放になったのだった。ギルドマスターのダニエル自身も横領罪で起訴されることなった。


 この衝撃は各地の領主たちを震え上がらせ、特に子息を冒険者ギルドマスターにゴリ押しで就職させていた領主たちは子息を直ぐに呼び戻し、その後ギルドでの中抜き横領などの不正経理は一切なくなりイポニアの冒険者ギルド全体が健全経営になっていった。


(話終わり)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され……

処理中です...