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526話 時が惜しい

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「それはそうとして…シノブ、
ケイガお兄様のお姿が見えないのですけれど…?
てっきり貴女と一緒にグリンジスでの出来事を
わたくしに報告に来て頂けるとばかり…
一体どうなされたのです?」

「ケイガ兄様は帰国して直ぐに、
ディラム殿と組手鍛錬に入りました。

何でも…
今よりも倍は強くなる必要があるらしく、
少しでも時間は惜しいので
グリンジスの報告は私に一任されました。

姫様にはそう宜しくとの兄様の言付けです」

「え…えっ…えええっーー!?」





********





「はああっー!!」

 俺は右手に収束した気を解き放った。
 気功波がディラムに向かって突き進む。
 本来なら気功波は気士術を繰り出して放つ大技である。
 だが今の俺は日本に居た頃とは比較にならない程に
 気が大きく向上して強くなっている。
 気士としての段階ステージが、
 数段上になったと言っても良いだろう。

 つまり、
 気を溜めて放つということが…
 力を込めて拳や蹴りを見舞うことと同様に、
 難なく出来る様になったということなのである。


「はっ!」

 魔騎士ディラムはその手に握った剣を横一線、
 俺の気功波を切り裂いて霧散させた。

 俺は構わずそのままディラムに肉迫、
 両拳に気を纏わせて
 電光石火の如く拳の連撃ラッシュを見舞った。

「はあああああ!」

 だが俺の拳の悉くは
 ディラムの音速の剣撃に阻まれた。

 俺とディラムは一進一退の攻防を続ける。
 互いの実力はほぼ互角である。
 つまり体力が続く限り、
 何時までも戦い合うことが出来るという訳だ。

 組手稽古は大きく力を伸ばすことができる鍛錬方法である。
 だがこの方法は実力が伯仲した相手が必須である。
 相手が強すぎても弱すぎてもいけないのである。

 俺は元居た世界、
 地球の日本では組手の相手は師匠しかいなかった。
 だが師匠とは大きく実力差があったため、
 組手稽古自体が有用な鍛錬方法では無かったのである。

 だがこの異世界エゾン・レイギスで俺は…
 魔騎士ディラムという名の、
 組手稽古の理想というべき実力が拮抗した相手と巡り合った。
 これなら俺は更に強くなることが出来る!

「だが悪いなディラム!
帰って来て早々に、
俺との修行に突き合わせてしまってな!」

「構わぬ、貴様が強くなることは
我が主ガルヴァーヴ様が望みしこと。
その為には我は喜んで協力しよう…それに」

「…それに?」

「我も貴様との修業を望んでいる、
我自身もより強くなるために!」

「…よおし良く言ったディラム!
今日は互いに力尽きるまでとことん戦り合おうぜ!」

「了解した…
それではゆくぞケイガ!」
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