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509話 擁護者

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「くくく…随分とつれないな、
ナルガネ・ケイガ。
まあ不要な戦いを避けたいという
貴様の慎重で用心深いその性格は、
魔族よりも脆く短命である
人間の戦士の心得としては悪くは無いだろう。

だが今のオレは”召喚存在”に格落ちして
大きく弱体化している。
つまりは常に手加減にしている状態と言う事だ。

つまりオレと戦って何らかの事故が起きて
貴様が死ぬ可能性は限りなく
ゼロに近いとは思うのだがな。

貴様としても高位魔族と戦うことは
今後の戦いにおいて
随分参考になると思うのだがな…
どうだ、今一度考えて見るがいい」

 魔界五軍将のひとり
 魔竜将ガルヴァーヴ。
 歴戦の武人を思わせる身体つきの其の漢は
 逞しい腕を組みながら
 覇気みなぎる顔つきで
 俺を見据えて問い掛けた。

 只の問いかけにも関わらず、
 何という威圧感…。
 これが魔力数値15000という
 桁違いの力が為せる業なのか!?

 いやいやいや!
 只の手合わせなのに
 事故が起きて死ぬ可能性とか、
 何でそれが全く
 起きないと言い切らないんだ!

 あれ?
 何だかこの感じ…
 俺はこの魔竜将とどうしても
 戦わなければならない空気なんです??

 いやいや!
 場の空気とか
 他者に意思とかに流されて
 自分の意思を捻じ曲げるなんて
 それはあってはならないことなんだ!

 人の意思とは…
 人間とは…
 自由であるべきなんだ!

 …そう、これは決して!
 俺が魔竜将に怖気付おじげづいてると
 言う訳では無くてですね!

「ガルヴァーヴ様…
それ以上ケイガに無理強いをさせませぬな」

 漆黒の鎧に身を包んだ魔騎士ディラムが
 上空より舞い降りてきて、
 魔竜将の前に膝まづいて言葉を掛けた。

「くくく…
オレが最も信頼する副官にして、
今のオレの召喚術師サモナ・マスターでもあるディラムよ。

お前としても、オレが
ナルガネ・ケイガと戦うことに反対するか?」

「偉大なる我が主ガルヴァーヴ様。
我とケイガと組手鍛錬をし合う事で
互いに力を上昇させました。
これからも鍛錬を続けることで
更なる上昇も見込めましょう。

しかしここでガルヴァーヴ様が
万が一にも事故でケイガを
死なせてしまうことになってしまえば…
我とケイガが強くなる機会が
永遠に失われてしまうのです。

それは我が魔竜軍と、
同盟を結んでいるエクスラント聖王国の
戦力の喪失につながり、
ガルヴァーヴ様の何よりの望みである
大魔王様を討つという成就も
一気に遠のいてしまう事でしょう。

それは如何なものかと
我は具申するものであります」

 魔騎士ディラムは
 俺と下手に戦う事で
 大きな損失を起きかねないことを
 事細かくガルヴァーヴに説明して聞かせた。

 これは紛れもなく、
 ディラムの俺に対する擁護フォローである。
 俺は彼の行為に素直に感謝した。
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