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485話 外堀

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「…急にどうしましたかケイガお兄様!?
とりあえず、お手をどうぞ」

 思わずひっくり返ってしまった俺に向かって
 イクシア王子は心配気に声を掛けると、
 優雅な動作でその手を差し出した。

「あ、ああ…
ありがとう王子」

「いいえ、これぐらい弟として当然のことです」

 俺は王子の手を握って立ち上がった。
 いやあ…本当に非の打ち所がない好青年ですね!
 いや若いから好少年ともいうべきか?

 …いやいやいや!
 今はそういうことを言っている時ではない。
 俺とポーラ姫は確かに兄と妹の契りを結んだけれど、
 イクシア王子の言う弟の意味のそれは全く違う意味での弟だろう!
 結婚すると義理の兄弟になるそれですよね?
 俺は一刻も早くイクシア王子の誤解を解くべく急ぎ口を開いた。

「ちょ、ちょっと待ってくれないかイクシア王子…
大体俺がポーラ姫と結婚する何てこと、
俺自身が初耳なんだが?
それは一体、誰から聞いたんだ…?」

「えっ…?
魔法通信にてポーラお姉様ご本人からですが」

「ああ…やっぱり…そうなるよなあ…」

「やはりそうでしたわね…」

「…やっぱり…です…」

 俺とイロハとツツジの同感の言葉が見事にハモった。

 ポーラ姫と俺は兄と妹の関係である。
 だが彼女はその関係を越えて男女の関係になりたいと…
 俺や優羽花ゆうか、ミリィ、姫騎士団プリンセスナイツ
 皆の前で堂々と公言している。

 俺はポーラ姫とは清らかな兄と妹の関係で居たいのに、
 彼女はそれを許してくれないのである。
 様々な手法で俺の心を揺さぶって、
 隙あらば俺にダイレクトアタックを仕掛けて来るのである。

 今回のポーラ姫の手法は、
 『将を射んとする者はまず馬を射よ』、
 いや…『外堀を埋める』という言葉の方が妥当だろうか?

 この異世界でポーラ姫と出会って一月と三週間以上…
 生粋の25歳童貞の俺でも、
 いい加減に慣れて来たという事である。
 彼女の思考・行動パターンもある程度予測出来るのである。

「と、とにかく…
ポーラ姫の言っている事は全く誤解だ…
大体、異世界の庶民である俺が
お姫様である貴女の姉上と結婚など、
どう考えてもおかしいだろう?」

「ですが僕のご先祖様である光の勇者様も
庶子の出身と聞いてますし…
身分など本人同士の気持ちさえ通じ合っていれば
何の問題も無いのは?」

 ああっ、この王子様…
 王族とか庶民とか、
 身分に対する偏見が何もない…
 非の打ち所が無さ過ぎる王子過ぎる。

 とにかく俺は…
 ポーラ姫とはあくまで兄妹の関係であることを、
 一から王子に説明することにした。
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