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479話 スキヤキ!

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 昼食を終えた俺たちは、
 グリンジスの街の魔力調査を再開した。

 しかし見通しの眼鏡スカウターレンズには高い魔力の反応は感じられない。

 そして何の成果も無いまま日は傾いて、夕刻の時間になった。

 拠点ホームの宿に戻って来た俺たち。
 現地協力員の男性が馬車を運転して帰っていくのを見送ると、
 自分達が泊っている部屋へと戻った。

「今日一日、街のめぼしい所は調べたつもりだが…
高い魔力数値の反応は見つけられられなかったな。

イロハ、ツツジ、例えばなんだが…
ホウリシア城の隠し部屋みたいに、
ゴルザベスの城の中に魔力の感知をわかりにくくする部屋があって、
その中に魔族を隠して
見通しの眼鏡スカウターレンズによる調査の網をごまかしている…
何てことは考えられ無いか?」

「ケイガ兄様、
現状では魔力を完全に遮断する物質が存在しませんわ。
ですから、見通しの眼鏡スカウターレンズの反応位置はごまかせても…
高い魔力自体を隠すことはできませんわ。

それに例え、
魔力を完全に遮断する物質その様な部屋があったとしても
魔族が果たして其処に籠ってくれますかしら?
人間より遙かに力の強い種である魔族が、
自分達より遙かに格下で力の劣る
ゴルザベス程度の言う事を聞くともは思えませんわ。

…それに何より、
貴族ゴルザベスは自己保身に長けた性格。
寝首を掻かれることを恐れて、
自分より遙かに強い存在である魔族を
城の中に住まわせること自体考えられませんわ」

「なるほど、そういうことか。
つまりイロハとしては、
このグリンジスの街には魔族は居ないと考えているんだな?」

「ですわ!」

「ツツジはどう思う?」

「…わたしもイロハの意見に同意します」

「そっか。
だったら調査範囲を変えて見るか。
それに街中に魔族が居ないというのなら
この宿も安全だということだ。

とりあえず今日は調査拠点ホームの安全が
確認出来たと言うだけで良しとしようじゃないか」

「ですわね兄様!
それでは明日からは何処から調査を始めましょうか?」

「やはり商隊が魔族の竜を見たという、
街の郊外に広がる大森林を調査すべきだろうなあ。
本当に魔族が居るのなら、
目下は第一発見場所の近くに潜んでいる可能性が一番高いだろうし」

 本来なら大森林は一番最初に調査すべき場所ではあったが、
 俺達は聖王都の貴族令嬢一行の
 旅行という名目で此処グリンジスに来ているのだ。

 街に着いて早々に、
 街の外の大森林に観光に行くなんてちょっとおかしいだろう?
 それに拠点ホームの宿の安全を確保するという意味でも、
 まずは一番先に街の中を調査する必要があったのである。

「了解しましたわ兄様!」

「…了解です、兄様」

「それじゃあ調査の話は一段落したし…
そろそろ夕食に行くとするか?
この宿では一体どういった料理が出て来るのか楽しみだなあ」

「確かここの宿屋で有名な料理は、
オウミギューのスキヤキというものと聞いておりますわよ」

「…スキヤキ!?」

 どうやら日本屈指の肉料理である”すき焼き”も
 他の日本料理同様に異世界転移していた様である。

 しかもオウミギューというなら高級お肉!
 俺は元の世界でも久しく食べていなかった、
 高いお肉のすき焼きに心を馳せた。
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