上 下
450 / 556

450話 商人の求めるモノ

しおりを挟む
「この地を治める貴族ゴルザベス様は
既にリュシウム様の配下になられたと聞いております。
私もリュシウム様とお近づきになればと思い、
少々なれど手土産を持参いたしました。
どうぞお納めくださいませ」

バイアンの後ろで台車を引いていた男達が
魔竜の前に二台の台車を差し出した。
一つ目の台車には金と銀、
二つ目の台車には屠殺とさつされた食肉用家畜が積まれていた。

やはりこの者もワレを金銀財宝と肉に飢えた獣風情と侮るか…。
いやこれが並のドラゴンに対する人間共の常識ということか…?
リュシウムは沸き立つ怒りの感情を抑えながら、
目の前に捧げられたモノに目を通す。
彼の鋭い竜の感覚がその”質”を見通した。

「ム…これは…
金銀の純度が随分と高いな…
そして家畜の肉は厚い…」

「流石は偉大なる魔のドラゴン様…
見事な慧眼けいがんでございます。
そうです我が商会が用意したモノは全て最高の質!

先にゴルザベス様が貴方様に寄こされたモノは所詮、
領内に住まう民たちから無理強いに徴収したモノ。
民たちも進んで良質なモノを渡すワケも無く…
質が悪くて当然なのです」

「なるほど…
以前に領主が捧げたモノはその様な経緯であったか。
商人バイアンとやら、
オマエが領主ゴルザベスとは違い、
良質なモノをワレに提供出来るということは良く分かった。
その御業みわざをワレに知らしめて何を望む?
ゴルザベスを差し置いて、
ワレの最も近しい下僕になりたいといでもいうのか?」


「いえいえ…そんな滅相もありません。
私如き商人風情が、
偉大なる魔のドラゴンであらせられるリュシウム様の配下など…
私どもが望むのはあくまで商売のみでございます。
私は魔族であるリュシウム様と商売における取引関係を結びたいのです」


「ほう…このバイアンという男はなかなか面白い考えを持っているのう。
これが人間の商人のみが持つという…
商人魂あきんどだましいという奴なのかのもしれんな」

 魔導将アポクリファルが魔法でリュシウムの脳内に直接会話をして来た。

「リュシウムよ、
儂はこの男の話に俄然興味が出て来たぞい。
上手くすればこの地上に於いて、
質の良い実験資材が手に入りそうじゃしのう。
このまま話を進めて見るのじゃ」

「アポクリファル様、心得た!」


魔竜リュシウムは脳内でアポクリファルにそう答えると、
目の前のバイアンを見下ろしながら言葉を紡ぐ。

「良いだろう、商人バイアンよ。
オマエの望む商売の取引関係というモノを
ワレに話して見せるが良い」

「おお、流石は偉大なる力を持つ魔のドラゴン様であらせられる!
私の様な取るに足らない、
商人風情の言葉を耳を貸していただけるとは!
それではさっそく」

 商人バイアンは喜々すると、
 目の前にそびえたつ巨大な魔竜に対して
 論説ろんせつを聞かせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

追放から始まる新婚生活 【追放された2人が出会って結婚したら大陸有数の有名人夫婦になっていきました】

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
 役に立たないと言われて、血盟を追放された男性アベル。 同じく役に立たないと言われて、血盟を解雇された女性ルナ。  そんな2人が出会って結婚をする。 【2024年9月9日~9月15日】まで、ホットランキング1位に居座ってしまった作者もビックリの作品。  結婚した事で、役に立たないスキルだと思っていた、家事手伝いと、錬金術師。 実は、トンデモなく便利なスキルでした。  最底辺、大陸商業組合ライセンス所持者から。 一転して、大陸有数の有名人に。 これは、不幸な2人が出会って幸せになっていく物語。 極度の、ざまぁ展開はありません。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

F級テイマーは数の暴力で世界を裏から支配する

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ある日、信号待ちをしていた俺は車にひかれて死んでしまった。 そして、気が付けば異世界で、貴族家の長男に転生していたのだ! 夢にまで見た異世界に胸が躍る――が、5歳の時に受けた”テイム”の祝福が、最低位のF級!? 一縷の望みで測った魔力容量と魔力回路強度も平凡だって!? 勘当されたら、その先どうやって生きてけばいいんだー! と、思っていたのだが…… 「あれ? 俺の”テイム”何かおかしくね?」 ちょくちょくチートな部分があったことで、俺は”強く”なっていくのであった

カフェ・ユグドラシル

白雪の雫
ファンタジー
辺境のキルシュブリューテ王国に、美味い料理とデザートを出すカフェ・ユグドラシルという店があった。 この店を経営しているのは、とある準男爵夫妻である。 準男爵の妻である女性は紗雪といい、数年前にウィスティリア王国の王太子であるエドワード、彼女と共に異世界召喚された近藤 茉莉花、王国騎士であるギルバードとラルク、精霊使いのカーラと共に邪神を倒したのだ。 表向きはそう伝わっているが、事実は大いに異なる。 エドワードとギルバード、そして茉莉花は戦いと邪神の恐ろしさにgkbrしながら粗相をしていただけで、紗雪一人で倒したのだ。 邪神を倒しウィスティリア王国に凱旋したその日、紗雪はエドワードから「未来の王太子妃にして聖女である純粋無垢で可憐なマリカに嫉妬して虐めた」という事実無根な言いがかりをつけられた挙句、国外追放を言い渡されてしまう。 (純粋無垢?可憐?プフー。近藤さんってすぐにやらせてくれるから、大学では『ヤリマン』とか『サセコ』って呼ばれていたのですけどね。それが原因で、現在は性病に罹っているのよ?しかも、高校時代に堕胎をしている女を聖女って・・・。性女の間違いではないの?それなのに、お二人はそれを知らずにヤリマン・・・ではなく、近藤さんに手を出しちゃったのね・・・。王太子殿下と騎士さんの婚約者には、国を出る前に真実を伝えた上で婚約を解消する事を勧めておくとしましょうか) 「王太子殿下のお言葉に従います」 羽衣と霊剣・蜉蝣を使って九尾の一族を殲滅させた直後の自分を聖女召喚に巻き込んだウィスティリア王国に恨みを抱えていた紗雪は、その時に付与されたスキル【ネットショップ】を使って異世界で生き抜いていく決意をする。 紗雪は天女の血を引くとも言われている千年以上続く陰陽師の家に生まれた巫女にして最強の退魔師です。 篁家についてや羽衣の力を借りて九尾を倒した辺りは、後に語って行こうかと思っています。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

処理中です...