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447話 魔導将の答え

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「まあ待てリュシウム。
ここはひとつ、その怒りの矛を収めてはみんか?」

「アポクリファル様?」

 リュシウムは周囲を見渡すが、魔導将の姿は確認出来ない。
 まさか直接脳内に…!

「フォフォフォ…これは魔法による思念会話じゃよ。
なあに、お前さんの怒りの波動が研究室内の儂にまで届いてのう。
確かに魔竜の戦士としてのお前さんの怒りはわからんでも無いが、
目の前の人間共を此処で殺してしまうのは
”ちょいと惜しい”と思ってのう。

まあ人間の領主が即降伏して
人間の敵である魔族の儂らに擦り寄って来るとは、
流石に儂にも予想は出来なんだがのう。
なかなか稀有けうな光景が見れたものじゃな。
長くは生きて見るものじゃのう。

なあリュシウムよ、
その珍しいケースに乗じて見んか?」

「どういうことなのですか
アポクリファル様?」

「今の儂らの目的は地上へ侵攻する事でも無ければ、
人間共を殺すことでも無い。
この地上という環境でしか成し得ない、
魔力を抑制する魔導研究を推し進めて完成させる事じゃ。

だが此処は地上、人間共の領域じゃ。
魔界とは違って儂ら魔族は自由自在に動ける訳では無い。
一応それなりには隠れて行動しなければならんしのう。
魔導研究に必要な資材等を補給するのも少々骨が折れる。

だが向こうからわざわざ、
この地を治める領主が儂らの下僕になりたいとやって来たんじゃ。
ならば奴さんたちの手を借りて、
研究に必要なモノを寄こして貰おうと思うんじゃよ」

「しかしアポクリファル様…
あのゴルザベスという輩は、
自分の命惜しさに戦う事もせずに敵に尻尾を振ったのです。
この聖王国の地方を治める領主としては売国奴、
いや人間でありながら我等魔族に寝返った以上、
売種族奴とでもいえましょうッ!
所詮裏切り者は何処まで行っても裏切り者、
ワレは奴を信用に足る者とはとても思えませぬ。
いずれ我等をも裏切り…
仇名す存在となると具申しますッ!」

「たしかにそう言う事はあるじゃろうな。
だがそうなったらそうなったらで、
先を見越して対応する迄じゃ。

のうリュシウムよ。
儂はのう…
魔導学者として直に視て見たいんじゃよ。
現在の人間共の生態を。
儂は500年前の大戦以来、
人間共とはまともには会っておらん。
500年たった今、
人間がどの様に至ったのかを
奴さんたちを通して観察し研究したいんじゃ。

まあ此れは魔導学者としての探求心と言うか…
所詮は年寄りの我儘じゃのう。

お前さんの言う危惧はもっともじゃし、
どうしてもと言うなら
これ以上の無理強いはせぬがのう。
そういう事なら、
さっきお前さんがやろうとした通りに、
目の前の人間共を吹き飛ばして此の話は終わりじゃ」
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