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421話 聖王国の英雄

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 ポーラ姫の強い否定の言葉を浴びながら、
 俺は気付いてしまった。
 俺はポーラ姫が本当に思いを寄せていた相手である
 ファイズ殿下に嫉妬していたのだろう。
 だから格の差だとか、
 あんな半ばいじけた発言を…
 何という、情けない男であり兄なのだろうか。
 俺はまたしても自身の弱さ、
 未熟さを思い知ってしまった。

「ポーラ、良ければ聞かせて貰えないだろうか?
ファイズ殿下についての事を。
どういった御方で、君とはどういう関係だったのか?
そしてその最後を…」

 俺に瓜二つの顔をした
 エクスラント聖王国・元第一皇子ファイズ殿下。
 ポーラ姫の血の繋がった兄。
 聖王国を襲った魔族を相打ちで倒し、
 今でも国中に像や肖像画が飾られて崇められている英雄である。

 彼の妹であったポーラ姫を始めとして、
 ミリィや姫騎士団プリンセスナイツの皆も殿下を兄のように慕っていたという。
 彼はこの国に住まう少女たちに取って兄のような存在であったらしい。

 実際のところ俺はファイズ殿下の人となりも知らなければ、
 ポーラ姫と実際どのような関係だったかも知らない。

 俺はポーラ姫たちの先代の兄であった殿下の事を
 よく知らなければならないだろう。
 だって俺は…
 ポーラ姫たちの、今現在の兄なのだから。
 まだまだ未熟な兄である俺が
 一人前の立派な兄となる為には、
 偉大な先達せんだつの兄である
 ファイズ殿下の事を知ることがまず必要であると、
 俺は此処に思い至ったのだ。

「わかりましたケイガお兄様、
お話しいたします。
わたくしの兄、ファイズお兄様の事を…。

ファイズお兄様は
わたくしポーラの年の離れた異母兄です。
父王と既に亡くなられている先代の王妃との間に生まれた
3人の兄の長兄になります。
500年前に大魔王を倒した光の勇者の血を
色濃く発現していたファイズお兄様は
高い光属性魔力を持っておられました。

わたくしが6歳の頃になります。
ファイズお兄様は聖王国を守るべく、
国境に進撃してきた魔族の大軍と日々戦っていました」






********






「ファイズおにいさまー、
おかえりなさいませー!」

 エクスラント聖王国の第二皇女ポーラ姫は、
 魔族の軍を退けて無事に王城に帰還した
 聖王国第一皇子ファイズに駆け寄ると、
 その逞しく鍛え抜かれた足に抱き付いた。

「お迎えありがとうポーラ。
でも私は戦場から帰ったばかり。
それでは綺麗なポーラが汚れてしまうよ」

「おにいさまはきれいで、
ぜんぜんよごれてなんかいませんー、
だからだいじょうぶです!」

ポーラ姫はそう答えるとファイズ皇子の足にぎゅっと強くしがみ付いた。

「ファイズよ、よくぞ無事戻った!」

「カイザ国王陛下、お出迎え有難うございます。
このファイズ、魔族軍を撃退し王城に帰還しました」

「仰々しい挨拶など良い!
今はただ…愛しい我が息子の無事を確かめさせて欲しい」

「父上…」

 聖王国を治める聖王カイザは
 愛しい息子の無事の帰還を心から喜んでその身体を抱き締めた。

「聖王国の第一皇子であり聖王を継ぐ身であるお前を
日々戦場に送らなければならない
わしのふがいさなをどうか許してほしい…
対魔族の軍の編成をもっと整えていれば
お前ひとりにこんなに負担を掛けずに済んだ筈なのに…」

「いいえ父上は何も悪くはありませぬ。
魔族には光の魔力でしか有効な打撃を与えることはできません。
これは光の勇者の血を強く受け継いだ私に課せられた使命なのですから。
私のふたりの弟たちは強大な魔族軍相手に勇敢に戦い、
その命を散らしました。
彼等に報いる為にも、この身を賭して戦い抜く所存です」





********






「ファイズおにいさまー、
ポーラ、おにいさまといっしょにねむりたいですー
ベッドにはいってもよいですか?」

「ははは、もちろんだよポーラ。
それじゃあ…こちらにおいで」

「はーいおにいさま!」

ポーラ姫はファイズ皇子のベッドに潜りこむと、
その大きな胸に抱き付いた。

「おにいさまのたくましいおむねだいすきですー。
ポーラ、おおきくなったら、
おにいさまとけっこんしたいですー」

「ははは、ポーラはとても可愛いから
私も歓迎したい所だけど兄妹だからなあ。
結婚は無理なんじゃ無いかな?」

「でもおうぞくなら、
きょうだいしまいでもけっこんはあたりまえって。
ごほんにかいてありましたー」

「うーん、まあ確かにその様な事実もあるね」

「ポーラ、はやくおおきくなって、
おにいさまのおよめさんになりますー!」

「ははは、それは楽しみだね。
それじゃあポーラが早く大きくなる為には夜更かしはいけないな。
良く眠れるように私が本を読んであげよう」

「はーいおにいさまー!」






********






「すやすや…ファイズおにいさま…だいすき…」

姫付きの騎士プリンセスナイト、シノブよ。
ポーラを自室に連れて寝かせてあげて欲しい」

「はっ、ファイズ殿下」

「シノブ、いつもポーラの面倒を見てくれてありがとう。
そしてポーラに仕えてくれる従女のカエデ、クレハ、イチョウ、
君たちもありがとう。
もし私が魔族に負けることになっても…
どうか、ポーラのことを護ってあげて欲しい」

「…突然何を言われるのですかファイズ兄様?
兄様が負けることなど有り得ません!」

「ファイズ兄様は光の勇者の再来、魔族などに後れを取ることなどありませんわ」

「ファイズ兄様の強さは敵無しですよー」

「皆、ファイズ兄様の勝利を信じております!」

シノブ達は口々にファイズ兄様を称える言葉を掛けた。

「ははは、そうだね、
私は負けるわけにはいかないね。
ポーラの為にも、君たちの為にも、
そして…この聖王国の全ての民の為にも。
敵軍の大将の魔族はかなりの強敵の様でね、
ちょっと弱気になってしまったみたいだ。
だが君たちのおかげで元気が出た、ありがとう」

ファイズ皇子はそう答えると、
シノブたちひとりひとりの頭を撫でた。






********






翌日、魔族軍は王都ホウリイに侵攻を開始した。
ファイズ皇子と王国軍は決死の反撃で喰いとめるが、
魔族軍を率いるひとりの強力な魔族の力に圧倒され、
絶体絶命の危機に陥ってしまう。

「…魔力数値600!?
これ程の魔力を持った魔族が攻めて来るなんて…?」

「くくく…そろそろ諦めるが良い人間。
この魔族侵攻軍を統べるグシュヌの手に掛かかって死ぬが良い」

「うおおおお!
ならば、光の魔力を収束し全開放!
この国も、この国の民も、父も、妹たちも、
お前たちにはやらせない!
光大爆滅ライトグランドボム!!」

「こ、これは!?
うぐおおおぉオオッーーー!!」

 ファイズ皇子は自分の全ての光の魔力を収束圧縮して全解放、
 自分自身を光の魔力に変えて、
 その命と引き換えに魔族を倒した。
 魔族と共に光になって消えたファイズ皇子。

 その終の場に残されたのは…
 彼が戦いの中その手に携えていた愛剣だけだった。
 
「おにいさまー!
おにいさまあああーー!!」

「うう…兄様…」

「おお…ファイズよ…」


「王城に帰って来たのはファイズお兄様の愛剣一本のみでした。
ポーラはその剣を抱き締めて泣きました。
わたくしの騎士であるシノブも、
従女のカエデ、クレハ、イチョウも、
父の聖王カイザも泣きました。
この国に住まう誰もが…ファイズ皇子の死に泣き崩れました。
そしてファイズお兄様は、
その命を賭してこの国を救った英雄となりました。

以上が、ファイズお兄様についての事になりますわ。
ああ…いけませんね、
久しぶりにファイズお兄様のことを話したら思わず…
こんなことでは…
この国を治める国王代理としては失格ですわ…」

 ポーラ姫はその頬に伝った涙を、
 そのか細い指でぬぐった。
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