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418話 否定

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 ポーラ姫はミリィや姫騎士団プリンセスナイツよりも
 ファイズ殿下への思いが特に強かった。
 肌身離さず身に着けていた殿下の写真入りのロケット、
 生前のままの状態で大切に保存されていた殿下の部屋、
 部屋に安置されていた殿下の愛剣、
 その大切な部屋と剣を俺に託したこと、
 それら全ての要素が顕著に表している。

 ポーラ姫は身に着けていたロケットを殿下の王墓に供えることで
 その思いを吹っ切ったと言っていた。

 だが実際は…そうでは無いのである。

 俺はその事実を彼女にはっきりと伝えなければならない。
 本人は吹っ切ったと言っているのに、
 それを否定する言葉を言うだなんて…
 何て無粋な男だろうと思われても仕方が無い。
 俺は今度こそ、ポーラ姫に嫌われるかも知れないなあ。
 ははっ…想像しただけで気が重い。
 好みの女性に嫌われそうな行動をあえてしようだなんて、
 俺はドMか何かかな?

 だが!
 これはどうしても言わなければならない事なのである。
 妹の幸せを願う兄として必ずやらなければならないこと。
 彼女が不幸にならない為に。

 俺は意を決すると、
 ポーラ姫の瞳をまっすぐ見据えて口を開いた。

「ポーラ、どうか気を悪くしないで聞いて欲しい。
俺は…ファイズ殿下の替わりは出来ない」

「…!?」

「君はファイズ殿下に対して並々ならぬ思いを抱いていた…
殿下が亡くなったあともずっとその思いを秘めたまま…。

そんな時にファイズ殿下と瓜二つの俺が現れた。
君は最初俺が殿下の異世界転生だと言った。
でも聖王国屈指の魔法学者であるミリィは
魂の波動が殿下と違っていて完全に他人の空似と断言した。
実際に俺も君と初対面だし、
ファイズ殿下の転生体でも無ければ生まれ変わりでも無い。
君も俺がファイズ殿下本人じゃあないと納得はしてくれたね?

でも君は…それでも、あえて、
俺をファイズ殿下の替わりにして
ファイズ殿下として俺を愛そうとしている…違うかい?」

「ち、違います!
ケイガお兄様…
わたくしは…ポーラは…」

「そりゃあ、亡くなってしまった愛しい男に
瓜二つの男が目の前に現れたら…
そういう気持ちを抱くのも無理ないかも知れない。
俺だってそうなってしまうかも知れない。

でもポーラ、
殿下の替わりに俺を愛して、
最初はそれで良くても…
後になったら嫌でも気付いてしまうだろう。
俺と殿下は違う人間だということに。
だって俺はどうやっても殿下本人では無いのだから。
そして君は後悔の念にさいやまれてしまうだろう。

俺はポーラにそんな思いはさせたくない。
兄として愛しい妹に不幸になっては欲しくないんだ。

…だから俺は、君の思いに答えることは出来ない」
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