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第369話 改ざん

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「ディラム殿、貴方ご自身の身を持っての証明に恐れ入りました。
どうか、今迄のわたくしたちの無礼をお許し下さい」

 ポーラ姫はディラムに謝罪の言葉を述べる。
 そしてミリィと共に頭を下げた。

「いいえ殿下、人間にとって500年前の事となれば、それも無理なき事かと」

 魔騎士ディラムは二人の謝罪を首を横に振って諫めた。

「うーん…
でも人間側の書物等といった紀伝に
人間と魔族が仲が良かった時代の記録が
全く無いのはどうしてなんだろう?」

 腕を組んで考え込むミリィ。
 疑問が生まれれば…それを問わずには居られない
 彼女の学者としての性分が、
 そのまま言葉となって口から出ている。

「ミリフィア殿、それはおそらくですが
500年前の魔族と人間の大戦が理由と我は思います。
有史初の魔界統一を果たした大魔王様は、
従えた全魔族を引き連れて地上へとなだれ込みました。
その侵攻は苛烈を極め、人間の国々はそのほとんどが滅びました。
人間からすれば、かつて魔族と協調していた時代が
全て消し飛んでしまう程の大惨事であったことでしょう。
その様な時代が合った事自体を
記録から削除したとしても無理からぬことかと」

 魔騎士ディラムはそんなミリィに対して
 魔族側からの見解を述べる。

「なるほどディラム殿。
そして大魔王の侵攻から生き残った人間が
結束して魔族と戦っていく為には、
その結束を揺るがせる過去の時代の事は全て削除したとも言えるね。

でもそれでも…
人間と魔族が昔は仲が良かったことの記録が
何らかの形で僅かでも、
残っていても良さそうでは有るんだけどね。

いや、もしかして…
当時の人間の支配者達としては
その様な記録自体を残すことが邪魔だったのかも知れないね。
自分達が地上を支配していくためには。

何しろ人間と魔族の大戦終結時には、
それまでに在った人間の国々のほとんどは大魔王達に滅ぼされている。
人間の支配者層もほとんどが入れ替わっただろう。
そのどさくさに紛れて、
新たな支配者達に都合がいいように
歴史の改ざんが行われても何ら不思議ではないよね。

そうなると…大戦前より存続している
数少ない人間の国のひとつである
我がエクスラント聖王国も
その改ざんに巻き込まれているということになるのかな?」

 ミリィの歯に衣着せぬ発言が、
 決壊したダムから流れ出る水の如く
 ワッと溢れ出て謁見の間に響き渡った。
 人間に対しても自国である聖王国に対しても
 全く加減が無い一切容赦の無い辛辣な意見。
 まさに学者肌であるミリィの真骨頂といったところであろうか。
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