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第354話 代言の本分と意図

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「ふっ…流石は魔界五軍将・魔言将イルーラ様…。
あいかわらず腰の低い御方であるが
その様に見せかけて全ては計算尽くし。
その言葉の全て、行動の全てが大魔王様の為。
流石は大魔王様の代言ということか」

 イルーラ達が空の彼方に飛び去って
 その姿が完全に消えたのを見届けたディラムが口を開いた。
 えっ?
 見せかけ?
 計算??

「勇者の兄にして強き人間の戦士ケイガよ。
貴様のことだ、既に大体は解っているのであろう。
だが幾ら賢き貴様でも初見のイルーラ様については
知識が不足しているであろうから我が補足しよう」

 ん?
 大体は解っているって…何のことだ?
 あと賢きって…
 ディラムは俺の事をずいぶんと買いかぶっていないか?

「あの方は一切容赦の無い大魔王様の代言でありながら、
とても慈悲深きお心を持ったお方。
それは貴様も直接垣間見て知っているであろう。

だが幾らそう見えようとも…
イルーラ様はあくまでも大魔王様の代言なのだ。
あの方の行動の全ては、
大魔王様が最も優先される。

イルーラ様は先程、
自分の配下である獣人型じゅうじんがた魔族ヴィシルの、
貴様と一緒に居たいという望みを汲んで貴様にその身を預けた。
これは普段からのイルーラ様の深い慈悲の様相からすれば、
何の違和感も無く、ごく自然な流れに見えよう。
だがこれには大魔王様の代言としてのイルーラ様の本分、意図がある。
勇者の兄にして強き人間の戦士ケイガの側に
自身の息のかかった者を置くことによって、
大魔王様の脅威となる勇者と貴様の動向を常に知ることが出来るからだ。

そしてイルーラ様は
我が大魔王様の置き土産の魔力攻撃を弾いて地上の破壊を防いだ事も、
我が貴様に話を持ち掛けた事も、
当然知っておられる。
大魔王様の意思は仮初めの巨人に残された最後の力で持って
可能な限り地上を焼き払う事だった。
そんな大魔王様の意に背いた我と、
あるじである魔竜将ガルヴァーヴ様の意を
イルーラ様は計ろうとしておられるのだ…
大魔王様の代言、魔言将として。
先程イルーラ様が魔界へ帰られる間際、
最後に我の名を呼んだのは…あからさまな牽制であったな。
我が貴様に一体何を話しに来たのか知りたいと言わんばかりであった。
あの様な物静かな口調と振る舞いの中に隠された”凄み”、
流石は魔界に名を馳せる魔界五軍将・魔言将と言うべきであろう。
我とて魔竜将ガルヴァーヴ様の副官を務める高位魔族の末席ではあるが、
格の違いを感じて心の底から震えを感じたぞ…」

 魔騎士ディラムはその氷の様な表情かおを崩すことは一切無かったが、
 彼の内心の動揺を現すかの様にその頬から一筋の汗が流れた。
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