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第352話 猫の様な

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「ちょ、ちょっとイルーラ様!?
アタシはこっそり耳打ちしたのに、
何でそのまま口にするんだよォ!」

 ヴィシルは顔を真っ赤にしてイルーラに抗議している。

「…え…?
…あ、うん…
…ヴィシルがいきなり凄い事言うから…
…ちょっと驚いてしまって…
…ごめんなさい…」

「…もう、もう!
イルーラ様はァ!
…あっ?
何でケイガ兄者サマ、ひっくり返っているんだよ!」

 いやだって…
 確かにヴィシルは一族の掟で
 自分を負かした俺の妹にななければならないとは言っていたけど、
 これから魔界に戻らず俺と一緒に行くとか聞いていないよ!
 大体、”何処までも一緒に付いていく”とか…
 妹の言葉じゃ無いですよ!
 それはまるで…
 嫁入りの告白の言葉みたいじゃあないですか!

 俺は生まれて25年の生粋の童貞なんですからね!
 そんな告白まがいの言葉に慣れている訳ないじゃないですか!
 いやこれは単なる勘違いですかね?
 俺はこういうことは全くわかりませんからね!
 でも急にそんなこと言われたら
 俺もイルーラと同様に驚いて、
 こんな風にひっくり返るしかない訳なんですよ!

「…何だよ。
アタシが兄者サマにずっと付いてくのは
そんな倒れるぐらいイヤなのかよぉ…」

 ヴィシルは唇を尖らせると目を伏せてうつむいた。
 彼女のいかにも女戦士といった感じの強気の表情かおから、
 みるみると元気が無くなっていく。
 そして彼女の頭も上に生えた可愛い猫耳も垂れ下がった。
 その姿はまるで捨てられた猫を思わせた。

「ち、違うんだヴィシル!
俺は別にイヤな訳じゃない、
ちょっと驚いてしまっただけなんだ!
だってそうだろう君は魔界で生まれた魔族。
なのに魔界に帰らず人間である俺に付いていくなんて、
ヴィシルにしては大事だろう!
そ、それに…
”何処までも一緒に付いていく”なんて、
妹というよりまるで嫁入りの言葉みたいじゃあないか!
そんなこと聞いて男なら驚かない訳無いだろ!」

 俺は彼女の意気消沈した姿に居たたまれなくなってしまい、
 思わず自分の今の思いの丈をそのまま言ってしまった。

「なんだ…そういうことか兄者サマ。
そりゃあアタシは最初は妹で慣れて、
ゆくゆくは嫁になりたいと思っているからねェ。
アハハッ、願望が言葉にでちまっった。
驚かしてごめんなケイガ兄者サマ!」

 沈んでいたヴィシルの表情かおがぱっと明るくなる。
 そして彼女は軽快に笑った。

 獣人型じゅうじんがた魔族ヴィシル。
 ころころと表情かおを変えるその様はまさに猫を思わせた。
 俺はこの猫の様な妹に驚かされっぱなしである。
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