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第351話 何処までも

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「…ヴィシル…
…貴女は大魔王様の人となり…
…いや魔族なりを其の目に見てしまったのね…

…あの御方は魔界の歴史の中でも最も強い力を持った魔王…
…その全てを破壊し尽くす圧倒的な力のみで…
…魔界史上初の魔界統一を成し遂げた御方…
…荒ぶる力のままに行動し、他者へ掛ける心は一切持たぬ御方…

…私以外の魔界五軍将のうち…
…リリンシアを除く三人は魔界の各地を統べていた魔王だった…
…だけど大魔王様の圧倒的な力に敗れ…
…あるいは屈し、あるいは従属して配下となった…
…彼等は大魔王様の強大な力に無理やり従っているだけで…
…心から従っているわけでは無いと思うわ…

…でも私は彼等とは違い元々魔王では無い…
…並み居る中位魔族のひとりでしか無く、力も大したことは無かった…
…そんな私が偶然通りがかった魔界の奥底で…
…動けない大魔王様に精神感応力の高さを見初められて…
…大魔王様の代言、魔界五軍将・魔言将になったのよ…
…私は、大魔王様なくては高位魔族には成れなかった…
…よって私は、大魔王様の代言にして最も忠実なる僕…
…それ以上でもそれ以下でも無い存在…
…例え捨て駒にされようとも、それでも私は大魔王様に従うのみ…

…でも、私の配下である魔族はその限りで無いわ…
…私はあなた達には生きて欲しいと願っている…
…大魔王様の所業を目にして、魔族軍に居られないと思うのは…
…魔族として、そして生き物として正しい判断なのでしょう…

…ヴィシル、その願い聞き届けました…
…貴女にしばし、いとまを与えましょう…」

「ありがとうございますイルーラ様」

 ヴィシルは涙を流しながら感謝の言葉で答えた。
 彼女はイルーラに対しては心底思慕の気持ちで仕えていたのだろう。
 しかしイルーラの主である大魔王に対しては嫌悪の気持ちしかなかった。
 その反目する気持ちがあの様な悲しみの涙を流させたのだ。
 何とも…ままならないものである。
 この異世界エゾン・レイギスの人間側の書物では
 魔族のセカイは一切情のない冷酷非情なものであると見聞されていたが、
 実際のところは人間のセカイと何ら変わらないものだと俺は再度感じた。

「…それでヴィシル…
…あなたはこれからどうするのかしら…?
…魔界で貴女が元住んでいた村に帰るのなら…
…途中まで一緒に行きましょう…」

「えっと、それが…イルーラ様…
ちょっとお耳を」

 ヴィシルは俺の方をちらりと見ると、
 イルーラに耳打ちした。

「…え…
…ケイガに負けたから一族の掟に従って…
…彼の妹になって何処までも一緒に付いていくの…?」

 俺は驚きのあまりその場にひっくり返った。
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