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第296話 心が折れる時
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「この身体はふがいない下僕共を取り込んで造り上げた、
所詮は”寄せ集めの木偶”に過ぎぬ。
だが余の真の身体は魔界の奥底で復活の為に長き眠りについておるからな。
この程度の木偶でも余の仮初めの手足としては充分という訳だ。
それに”ある程度”地上を切り崩すには充分すぎる威力であろう。
がははははは!
”温い下僕共”に取り変わって、余が自ずから人間共を殺し回ってやろう。
竜がアリを踏み潰すが如くな」
「そ…そんな…
アタイ達魔族の長である筈の大魔王様が…
イルーラ様を…エクゼヴ殿、ガグーン、ライゼガたちを殺して…
自分の身体を作ったっていうのかよォ…?」
俺の腕の中で息も絶え絶えの魔族ヴィシルが、
”大魔王”に手を伸ばしながら問いかけた。
「聞くがいいイルーラの下僕よ。
余に取っては全てが下らぬ些事ということだ。
魔界五軍将も魔族も何もかもがな。
そもそも地上の侵攻自体、
完全復活した余がひとり居れば全て事足りるのだからな。
そう…全ては余が復活する迄の余興ということだ。
この仮初めの身体もその余興のひとつでしかない。
だがイルーラも、その下僕共も、
その余興という形で余の役に立ったのだ。
これは生き物としては至福であろう?
何しろ、このエゾン・レイギスの絶対なる支配者である
大魔王の余興の一部になれたのだからな。
がはははははははは!」
「…ア、アタイたちは皆…
知らず知らずに…
あんな奴に従っていたのかよォ…
…イルーラ様…みんな…あ…」
ヴィシルは涙を流しながらこと切れた。
急速にその生命力が消えていくのを俺は感じた。
既に致命傷であった状態で、
自分が仕えていた者の醜悪振りを垣間見て
心がぽっきり折れて、
完全に生きる力を失ったということか!?
「さて人間よ?
うぬは余の正体を言い当てた褒美として生かしておいてやるぞ。
そこで余が人間共を踏み殺すのを見てるが良い」
大魔王はその巨大な足を進めてクラシアの町へと向かう。
このままでは町も人も容赦なく奴に踏み潰されてしまう。
何とか止めなくては…だがその前に。
俺は腕の中でぐったりとしているヴィシルを地面に降ろした。
彼女はこの世界の人間に取って、
不具戴天の敵である魔族の戦士のひとりである。
人間の立場としてならば、このまま捨て置いても問題は無いのだろう。
そして俺も慈愛に満ちた崇高な人間では無い。
自身や妹たちを殺しに来た敵であれば、
容赦なく返り討ちにして、その命を奪う心構えである。
目には目をという奴である。
だが俺はイルーラやエクゼヴと短い時間ではあるが交流し、
魔族が一概に人間の絶対敵種とは思え無くなった。
彼等はむやみに人間を殺さなかったし、
人間に対して一種の礼節を持っていたのである。
だから俺も彼女たち魔族にに対して礼節を持って対応しなければならない。
受けた礼に関しては礼を持って返すのが道理なのである。
そしてヴィシルは自分達が仕えていた者のトップの醜悪振りに、
ある趣の裏切りとも言える行為に心が折れてしまっている。
これはかつて上司に裏切られて絶望し引籠りになった俺にとっては…
決して見過ごすことは出来なかった。
所詮は”寄せ集めの木偶”に過ぎぬ。
だが余の真の身体は魔界の奥底で復活の為に長き眠りについておるからな。
この程度の木偶でも余の仮初めの手足としては充分という訳だ。
それに”ある程度”地上を切り崩すには充分すぎる威力であろう。
がははははは!
”温い下僕共”に取り変わって、余が自ずから人間共を殺し回ってやろう。
竜がアリを踏み潰すが如くな」
「そ…そんな…
アタイ達魔族の長である筈の大魔王様が…
イルーラ様を…エクゼヴ殿、ガグーン、ライゼガたちを殺して…
自分の身体を作ったっていうのかよォ…?」
俺の腕の中で息も絶え絶えの魔族ヴィシルが、
”大魔王”に手を伸ばしながら問いかけた。
「聞くがいいイルーラの下僕よ。
余に取っては全てが下らぬ些事ということだ。
魔界五軍将も魔族も何もかもがな。
そもそも地上の侵攻自体、
完全復活した余がひとり居れば全て事足りるのだからな。
そう…全ては余が復活する迄の余興ということだ。
この仮初めの身体もその余興のひとつでしかない。
だがイルーラも、その下僕共も、
その余興という形で余の役に立ったのだ。
これは生き物としては至福であろう?
何しろ、このエゾン・レイギスの絶対なる支配者である
大魔王の余興の一部になれたのだからな。
がはははははははは!」
「…ア、アタイたちは皆…
知らず知らずに…
あんな奴に従っていたのかよォ…
…イルーラ様…みんな…あ…」
ヴィシルは涙を流しながらこと切れた。
急速にその生命力が消えていくのを俺は感じた。
既に致命傷であった状態で、
自分が仕えていた者の醜悪振りを垣間見て
心がぽっきり折れて、
完全に生きる力を失ったということか!?
「さて人間よ?
うぬは余の正体を言い当てた褒美として生かしておいてやるぞ。
そこで余が人間共を踏み殺すのを見てるが良い」
大魔王はその巨大な足を進めてクラシアの町へと向かう。
このままでは町も人も容赦なく奴に踏み潰されてしまう。
何とか止めなくては…だがその前に。
俺は腕の中でぐったりとしているヴィシルを地面に降ろした。
彼女はこの世界の人間に取って、
不具戴天の敵である魔族の戦士のひとりである。
人間の立場としてならば、このまま捨て置いても問題は無いのだろう。
そして俺も慈愛に満ちた崇高な人間では無い。
自身や妹たちを殺しに来た敵であれば、
容赦なく返り討ちにして、その命を奪う心構えである。
目には目をという奴である。
だが俺はイルーラやエクゼヴと短い時間ではあるが交流し、
魔族が一概に人間の絶対敵種とは思え無くなった。
彼等はむやみに人間を殺さなかったし、
人間に対して一種の礼節を持っていたのである。
だから俺も彼女たち魔族にに対して礼節を持って対応しなければならない。
受けた礼に関しては礼を持って返すのが道理なのである。
そしてヴィシルは自分達が仕えていた者のトップの醜悪振りに、
ある趣の裏切りとも言える行為に心が折れてしまっている。
これはかつて上司に裏切られて絶望し引籠りになった俺にとっては…
決して見過ごすことは出来なかった。
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