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第282話 気持ち悪い
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「…貴方とエクゼヴが戦いを収めたところは私も見ていたわ…
…もちろんエクゼヴの主である私もそれに倣うまで…」
魔言将イルーラは右手に携えた巨大な杖を左手に持ち変えると、
空いた右手を慧河に向けて差し出した。
利き腕を差し出すという事は、
友好の握手を彼女は求めているということである。
ここはもちろん利き腕を出すのが礼儀。
俺は右手を差し出してイルーラの手を握ろうとするが、
彼女の服の袖が長すぎて手が隠れて見えない。
「…これは失礼をしたわ…
…私は大魔王様の代言である魔言将…
…故に大魔王様が生前に着けられていた装備品を身に着けている…
…大魔王様は立派な体躯だったから私では装束の丈が合わない…
…ケイガ、気になるかも知れないが…どうか見過ごして欲しい」
イルーラは自身の袖をめくると手を差し出した。
俺は彼女の手を握った。
まるで白菊の様な白い肌に細くて柔らかい手。
とても絶大な力を持つ高位魔族とは思えなかった。
「大魔王の代言と言う儀式的な意味での装束という訳ですか。
大丈夫、俺は何も気にしませんから。
…あれ?
俺は貴女に名乗りましたっけ?」
俺はイルーラが俺の名前を知っていた事に
違和感を覚えてオウム返しに問いかけた。
「…魔竜将の副官ディラムを倒した、
エゾン・レイギスでは希少な『気』を使う異世界の戦士ケイガ…
…高位魔族の中では結構有名人…
…もっとも顔自体は私も知らなかったのだけれど…
…でも、『気』を使い私の配下に打ち勝つ程の強さを持つ人間の戦士が、
二人と存在するわけは無い…
…だから私のほうから名を呼ばせて貰ったわ…」
「なるほど…そういうことですか」
俺はイルーラに対してそう言葉を返した。
敵である筈の魔族に、
しかも魔族のボス格である彼女に対して
何故か丁寧な言葉遣いなんておかしくないだろうか?
此処は強い言葉遣いで返すべきではないのか?
だが彼女は俺に対し全く敵意は無い。
そして丁寧な言葉遣い、
そして白い肌に、か細い印象の女の子…
それで何かこういう言葉遣いになってしまったのである。
何しろ俺は25歳童貞…
初対面の可愛い女の子に対しては大体こんな感じですよ!
童貞をみくびるなよ!
ふふっ、笑えよ…優羽花。
そう、俺が何の遠慮も無く言える女の子はやっぱりお前だけだよ優羽花!
愛してるぞ…優羽花あ!!
俺は此処で25歳童貞であることを改めて強く認識し、
心の中で自嘲気味に笑いながら
16年の最も長い付き合いの妹に向かって思いの丈を叫んだ。
まあ実際に優羽花に言おうものなら、
『気持ち悪い…』とか言われて一蹴されるだろうけどな!
脳裏にそんな考えを巡らせていた俺の顔に、
ふいにイルーラの腕が伸びてきて…
その細い手のひらが俺の両頬を包み込んだ。
…もちろんエクゼヴの主である私もそれに倣うまで…」
魔言将イルーラは右手に携えた巨大な杖を左手に持ち変えると、
空いた右手を慧河に向けて差し出した。
利き腕を差し出すという事は、
友好の握手を彼女は求めているということである。
ここはもちろん利き腕を出すのが礼儀。
俺は右手を差し出してイルーラの手を握ろうとするが、
彼女の服の袖が長すぎて手が隠れて見えない。
「…これは失礼をしたわ…
…私は大魔王様の代言である魔言将…
…故に大魔王様が生前に着けられていた装備品を身に着けている…
…大魔王様は立派な体躯だったから私では装束の丈が合わない…
…ケイガ、気になるかも知れないが…どうか見過ごして欲しい」
イルーラは自身の袖をめくると手を差し出した。
俺は彼女の手を握った。
まるで白菊の様な白い肌に細くて柔らかい手。
とても絶大な力を持つ高位魔族とは思えなかった。
「大魔王の代言と言う儀式的な意味での装束という訳ですか。
大丈夫、俺は何も気にしませんから。
…あれ?
俺は貴女に名乗りましたっけ?」
俺はイルーラが俺の名前を知っていた事に
違和感を覚えてオウム返しに問いかけた。
「…魔竜将の副官ディラムを倒した、
エゾン・レイギスでは希少な『気』を使う異世界の戦士ケイガ…
…高位魔族の中では結構有名人…
…もっとも顔自体は私も知らなかったのだけれど…
…でも、『気』を使い私の配下に打ち勝つ程の強さを持つ人間の戦士が、
二人と存在するわけは無い…
…だから私のほうから名を呼ばせて貰ったわ…」
「なるほど…そういうことですか」
俺はイルーラに対してそう言葉を返した。
敵である筈の魔族に、
しかも魔族のボス格である彼女に対して
何故か丁寧な言葉遣いなんておかしくないだろうか?
此処は強い言葉遣いで返すべきではないのか?
だが彼女は俺に対し全く敵意は無い。
そして丁寧な言葉遣い、
そして白い肌に、か細い印象の女の子…
それで何かこういう言葉遣いになってしまったのである。
何しろ俺は25歳童貞…
初対面の可愛い女の子に対しては大体こんな感じですよ!
童貞をみくびるなよ!
ふふっ、笑えよ…優羽花。
そう、俺が何の遠慮も無く言える女の子はやっぱりお前だけだよ優羽花!
愛してるぞ…優羽花あ!!
俺は此処で25歳童貞であることを改めて強く認識し、
心の中で自嘲気味に笑いながら
16年の最も長い付き合いの妹に向かって思いの丈を叫んだ。
まあ実際に優羽花に言おうものなら、
『気持ち悪い…』とか言われて一蹴されるだろうけどな!
脳裏にそんな考えを巡らせていた俺の顔に、
ふいにイルーラの腕が伸びてきて…
その細い手のひらが俺の両頬を包み込んだ。
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