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第275話 気の数値化

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 三週間ほど前…ホウリシア王城内で行われた
 姫騎士団プリンセスナイツの団長シノブさんとポーラ姫の組手試合。
 俺は最初、魔力数値70のシノブさんと魔力数値190のポーラ姫では
 数値に差が有り過ぎて勝負にならないのでは…と思ってしまった。
 だが俺の隣で対決するふたりの様相を見ていたミリィ曰く、
 シノブさんは「身体能力」がポーラ姫より高いから
 ポーラ姫よりも有利との事前評であった。
 ミリィはエクスラント聖王国の長である王族に連なる公爵であり、
 魔法の知識の専門家である魔法学者。
 彼女の評はこの世界エゾン・レイギスの常識なのである。
 魔力数値が最も重要で全ての判断基準となっているエゾン・レイギスでも、
 「身体能力」は数値化こそ無くても
 明らかに人間の個別の強さを表す判断基準となっている。
 そして俺はその「身体能力」こそが、
 異世界エゾン・レイギスでは珍しいとされる「気」そのもの、
 あるいは「気」が介在している要素では無いかと考えたのである。
 シノブさんは腕利きの騎士であり、
 俺とも良い勝負が出来る程の格闘術の使い手でもある。
 例え、「気」という概念が解らなくとも…
 知らず知らずのうちに身に着けて使いこなしていたのではないかと、
  俺は考えたのである。

 シノブさんの魔力数値は70、
 これは『見通しの眼鏡スカウターレンズ』で計測された確固たる数値。
 この数値をポーラ姫の魔力数値190から差し引いた数値が120。
 シノブさんがこの状態でもポーラ姫よりも有利であるというミリィの評からして、
 120より上の数値がシノブさんの「気」の数値で無いかと俺は考えた。
 そして、ポーラ姫は身体強化魔法を使い魔力数値209を上昇させている。
 つまりシノブさんの「気」の数値は、
 この魔力数値209よりシノブさんの魔力数値70を引いた139よりも
 上の数値がで無ければならないということになる。
 そうで無ければ…ポーラ姫をシノブさんが
 戦闘で上回った事実に符合しないからである。

 シノブさんがポーラ姫を上回ったその体感をそのまま数値化した結果、
 気の数値を145とし、魔力数値70を総合した数値、
 仮称・戦闘力数値215。
 この戦闘力数値で持って、
 シノブさんはポーラ姫を上回ったと言う説を俺は打ち立てた訳である。
 だがこれは所詮、ミリィ、ポーラ姫、姫騎士団プリンセスナイツといった俺の妹たち…
 いわば身内同士での狭い論議の中で打ち立てた持論である。
 実証性を持たせるには、もっと広い論議が必要であろう。

 …だから、俺は目の前の魔族の問いかけに合えて乗ったのだ。
 自分の持論を公開して、具体的な数値まで答えたのである。
 人間とは別の種族であり、
 更には敵対する魔族から見て俺の説はどう判断されるのか?
 これ程に第三者的で客観的な見られ方はなかなか無いだろう。
 さあ…ただの戯れ言として一笑に付されるか?
 それとも…?

「くくく…ふはははは!
…このエゾン・レイギスでは半ば夢物語でしか聞いたことが無い『気』の力だと?
そしてその気を数値化などと戯れ言を抜かしおるか?
キサマの論理は突拍子過ぎて根拠も無い。
本来ならば聞く価値も無いのであろうが…
我は魔力数値140しかないキサマとこうして実際にり合って
この様な無様振りよ…。
キサマの言う魔力数値と気の数値を合わせた、
戦闘力数値1200というのが、
我がこの身で受けたキサマの圧倒的な強さの数値化というのなら…
割と腑に落ちるというのが正直な感想ではあるな…」

 魔族エクゼヴはこの世界では異論でしかないであろう俺の持論を、
 意外にも肯定する言葉で答えた。
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