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第220話 いつも見ていますから

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「ねえポーラ…
そんなにボクの杖がそんなにも気に入ったらのなら…
もっと味わうと良いよ!」

 ミリィはその手に持った杖をポーラ姫の唇に押し付けた。
 そして、そのままぐいぐいと力強く押し込んでいく。

「…んんー?
んんーーっ!?
ミ、ミリィお姉様あ!
く苦しいですわあー!」

 杖を力いっぱい押し込んで来るミリィに対して
 たまらず声を上げるポーラ姫。

 …えっ?
 ちょっと待て!
 完全に呼吸が止まっていた筈の彼女が普通に喋っている??

「ポーラ…
ミリィ…
これは一体どういうことなんだ?」

 俺は予想だにしない事態に驚きながら、ふたりに問いかけた。

「簡単な事だよ、兄君様あにぎみさま
ポーラは自分の意思で呼吸を止めて仮死状態を演じていたのさ。
エクスラント聖王国の第一王位継承者である君なら
これぐらいの芸当は出来て当然だよね?
ねえ…ポーラ!?」

 ミリィは彼女の口に杖を押し付けながら言葉を述べた。

「…お姉様っ!?
これ以上、杖を押し付けるのはお止めくださいませ!

ケイガお兄様、
ポーラはエクスラント聖王国では最も王に近い第一王位継承者であり、
この国の顔でもある聖王女を務める身の上。
常に暗殺の危険もありますの…。
ですから、自分の命を護る護身術のひとつとして
この様に呼吸を止めて仮死状態に見せかけることが出来ますわ。
この技は、暗殺が成功したと見せかけて、
相手の隙を突いて脱出もしくは反撃の機会を伺うというものなのですわ」

 俺の目からは彼女は完全に呼吸が止まっている様にしか見えなかった。
 俺は地ノ宮流気士術ちのみやりゅうきしじゅつ気士きし
 人を凌駕する人外の存在、あやかしとの
 生死を賭けた戦いを幾つも乗り越えて来た。
 だから、相手の生き死については良く解るつもりだ。
 そうでなければ俺は判断を見誤って死に直結するからである。
 だが、ポーラ姫の仮死偽装の技はそんな俺の目を完全に欺いた。
 半年間引籠って俺の目はだいぶ衰えていたとはいえ、
 彼女の仮死の技は相当高度なものだと言わざるを得ない。

 ポーラ姫は生まれながらの王族であり、聖王女を務める此の国の要人。
 生まれながらの庶民である俺には想像出来ない、
 無数の殺意に常に晒されているのであろう。
 そして、それらの殺意から身を護るすべを身に着けているということか。

「それにしても、
何で今ここで仮死状態の真似事なんてするんだいポーラ。
…まあボクからすれば、その目的は一目瞭然だけどね…。
君はそこまでして、
兄君様あにぎみさまと口づけをしたいのかい!」

「それはもちろんそうですの!
愛するお兄様とキスをしたいと常日頃思うのは
妹として当然ですわ。
…それに、お兄様だって
わたくしとキスしたいと思っていますもの。
ポーラは愛しいケイガお兄様をいつも見ていますから。
そして時々…お兄様がわたくしを見ながら、
その唇を物欲しそうにしているのを
ポーラは決して見逃したりはしませんわ」
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