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第186話 妹としての距離

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 俺が恐る恐る突き出した鉛筆の柄の部分は、
 ミリィの頬に触れた。
 ぷに…と、
 ほんのちょっぴりミリィのほっぺがへこむ。

「…ちょっと兄君様あにぎみさま
何だか”ぷにぷに”が弱くないかい?」

「いやだってさあ…」
 
 俺はこれ以上鉛筆をミリィの頬に突き入れるのをためらってしまい、
 手の動きを停めてしまった。

「ケイガ兄君様あにぎみさまは、
ユウカにはもっと強く”ぷにぷに”をしていたじゃないか!?
ボクも兄君様あにぎみさまの妹なのに、
ユウカだけズルイよ!
ボクもユウカみたいにもっと強く”ぷにぷに”してよ!
兄君様あにぎみさまの力強い”ぷにぷに”が欲しいよ!」

 えっ…ええっ…!!??
 凄い剣幕で俺に催促して来るミリィに俺は正直とまどってしまった。
 ミリィは学者肌と自分でも言っている通り
 インドア的で、か細い印象の少女である。
 アウドドア的で健康的で活発な印象の優羽花ゆうかとは正反対な感じである。
 だから俺としてはミリィに優羽花ゆうかと全く同じ対応をするのは気が引けるのだ。
 これは特別扱いとか妹格差とかそういう事ではない。
 妹は全員同じでは無い。
 妹それぞれ、心も身体も違うのだ。
 だから兄としては、妹別に対応を臨機応変に変える必要があるのである。


「…兄さん、わたしにも優羽花ゆうかと一緒でお願いします」

 不意に、
 俺の妹歴16年のもう一人の妹、
 地ノ宮 静里菜ちのみや せりなの言葉が俺の脳裏に再現された。

優羽花ゆうかばかりずるいです、わたしも兄さんに強くスキンシップされたいです」

 そういえば静里菜せりなもミリィと同じような事を言ってたっけなあ…。
 別に俺は優羽花ゆうかを特別扱いをしている訳じゃない。
 彼女は16年間同じ屋根の下で一緒に暮らして来た気兼ねの無い妹、
 だから他の妹と違って特に遠慮なく出来るだけなのだ。


「うー、兄君様あにぎみさまあ!」

 ミリィは頬をぷくっと膨らませてとても不満げだ。
 これはいけない、
 兄は妹の望みを叶えなくてはならない。
 妹が望むなら俺はその様に振る舞わなければならない。
 俺の考える妹への振る舞いとはズレが生じるが、
 ミリィが望むならそれもやむ無しであろう。

「…わかったよミリィ、
…少し強くするからな…
痛かったらすぐに言うんだぞ?
…それじゃあ、いくぞ!」

 俺は鉛筆の柄をさっきよりも数段強くミリィの頬に突き立てた。

「ふぁあっ!
兄君様あにぎみさま!?」

「あ、ごめんミリィ…強くし過ぎたか?」

「そんなことは全然無いよ、
ちょっとびっくりしただけだから…。
でも…これでボクは前よりも…
ケイガ兄君様あにぎみさまの妹としての距離が近付けた気がするよ…。
だから…すごく嬉しかった」

 ミリィはとても満足げに笑みを浮かべた。
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