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第167話 しかし回り込まれて

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「お待ちくださいシノブ団長。
貴女は姫様を護る姫騎士団プリンセスナイツの長、
この聖王国の護りの要なのです。
団長もこの聖王国で立場ある身であることに変わり在りません。
此処はお退きになって頂くことをクレハは具申いたします。
…ですがケイガ兄様、只の団員である私ならば問題はありません。
どうぞ、その”男性としての猛り”をおぶつけになって下さいね」

 クレハはそう言葉を述べると自身の指を唇に添えて、
 妖艶な女性の表情かおで微笑んだ。
 ええっ、クレハもっ!?
 俺は二人の美女騎士が立て続けに唇を差し出すその姿に、
 完全に釘付けとなってしまい身体の硬直が止まらない。

「あー団長、また抜け駆けずるいですよー」

「まったくクレハもいつもは堅苦しそうに見えて、いざという時大胆ですわね…油断も隙も無い」

 カエデとイチョウが二人を制する言葉を掛ける。
 俺はシノブさん達の動きが停まった隙に何とか硬直から脱した。

「立場ある身がいけないと言うのなら、
貴族令嬢であるあたくしもケイガ兄様とは口づけ出来ませんわね…。
ですが兄様…ここは黙っていれば宜しいのですわ!
ですからこっそりとあたくしに口づけをなさって下さいませ!
兄様の望みは妹であるあたくしがぜひとも叶えて差し上げますわ!」

「…兄様…
ツツジで宜しければ…
頑張ります…」

 続いてイロハとツツジが俺に迫って来た。
 いやちょっと待って!
 そんなに立て続けに来られてもですね、
 思考が追い付かないのですががが。
 一体どうすれば…?
 俺は思わず後ずさりを始めた。

「兄様どこ行くの!
知らなかったの?
姫騎士団プリンセスナイツからは逃げられないよ!」

 しかし俊足のシダレに回り込まれてしまった。
 俺は完全に退路を断たれた。

「兄様、ここはモミジの握ったおにぎりをどうぞ。
お腹がいっぱいになって落ち着いたら、
誰とキスするか決めると良いです」

 モミジがお手製のおにぎりを差し出しながら言葉を述べる。
 …えっ、俺はもう誰かとキスすることが確定なんですモミジさん!?
 仰天する俺。
 しかし彼女の言う通り、俺は一度落ち着きを取り戻す必要があろう。
 確かにお腹が満たされれば乱れた心を落ち着かせることは出来る筈である。

「それじゃあモミジ。そのおにぎりは有難く頂こうかな」

 俺は彼女からおにぎりを受け取ろうと手を伸ばそうとしたその時、
 ポーラ姫をお姫様抱っこしたままで両手が塞がっている事に気が付いた。
 それ程迄に俺は動揺していたというのか…。

「…それじゃあポーラ姫、下ろすよ」

「はい、お兄様」

 俺はポーラ姫に声を掛けて地面に下ろすと、
 空いた両手でモミジからおにぎりを受け取って、
 おもむろに被り付いた。

「うん、やはりモミジの握るおにぎりは美味しいなあ」

「よかったです兄様。
ちなみにキスの相手はモミジでも構わないです」

「…えっ、ごほっごほっ!」

 いつもクールで簡潔な言い回しのモミジ。
 こういう色事からは無縁だと思っていただけに、
 俺は動揺して口にしたおにぎりを喉に詰まらせてしまった。
 まさに油断大敵と言う奴である…。
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