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第152話 殿下と姫への誓い

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「ファイズお兄様がこのエクスラント聖王国を襲った魔族と相打ちになり、
お亡くなりになったあの日から、
お兄様のお部屋はそのままの状態で残されました。
お兄様がその最後まで使っていた愛用の剣も部屋に安置されました。
そして幼いわたくしは…
ファイズお兄様のお部屋をずっとこのままの状態に留めておけば
何時の日か、お兄様が帰って来てくれる…
わたくしはそう思ってしまったのです。

わたくしのファイズお兄様への気持ちは、
お兄様のお部屋の時間と共に止まってしまいました。

そして昨日、
ファイズお兄様に瓜二つのケイガお兄様と出逢って…
わたくしはファイズお兄様が異世界転生で帰って来たと、
心からそう思ってしまったのです。

ですが、ミリィお姉様は魂の波動が違うときっぱりおっしゃいました。
エルフの血を引くミリィお姉様の感覚に間違いは無いでしょう。
一度死んでしまった者は二度と戻らない…父王カイザも常々言っていた通りでした。
わたくしはその事をいい加減に認めて、
先を進まなければいけないと…その時に実感したのです。
そしてわたくしはケイガお兄様と新たな兄妹としての契りを交わしました。
きっとこれがファイズお兄様の導きなのだろうと思ったのです。
わたくしはずっと止まっていた兄妹の時間の針を進めて、
ケイガお兄様と新たな兄妹の未来へと進みます。
きっとファイズ兄様もそう願っていた事でしょう。

ですから…ファイズお兄様が残された部屋も剣も、
ケイガ兄様にぜひ使っていただきたいのです。
ファイズお兄様の残されたものをケイガ兄様が役立てて下されば、
最後までこの聖王国を護ろうとしたファイズお兄様も浮かばれる事でしょう。
そしてわたくしのファイズお兄様への思いも…」

「ポーラ姫…」

 ポーラ姫のファイズ殿下に対する長年の思いは俺には想像も付かない。
 彼女の殿下への思いはそう簡単に言葉で言い表せるものでは無いだろう。
 つまり…俺にファイズ殿下の部屋と剣を使わせるという事は、
 とてつもなく重い行為、そして強い決意の筈だ…。

 だが俺はポーラ姫が望んで兄妹の契りを交わした新たな兄なのだ。
 今この時間を生き、
 そして更なる未来へと生きていく兄なのだ。
 死別した愛しい兄と決別し未来へと進もうとする妹の強い決意に…俺は答えよう。

「わかったよポーラ姫、了解した。
ファイズ殿下の部屋と剣、俺が謹んで使わせてもらうよ。
そしてファイズ殿下の此の聖王国を護ろうとした意思も、
ポーラ姫の殿下への妹としての思いも…俺が引き継がせてもらう!」

 俺はポーラ姫とファイズ殿下に誓いの言葉を立てた。
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