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第146話 続投

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「ちょっと待ってくださいまし!
ケイガ兄様!
今のはちょっとえこひいきが過ぎませんこと!?」

 イロハが強い口調で俺に問いかける。

「…な、何のことだ?」

「目線を逸らしてあからさまにしらばっくれるのは辞めてくださいまし!
あたくしには容赦なく拳を撃ち込みましたのに、
何でツツジは頭をぽん!
で済ませましたの!?
露骨なひいきですわ!」

「…そ、そんなことは…無いぞ?」

「僭越ながら、兄様…。
私の眼から見ても、依怙贔屓えこひいきにしか見えませんでした。
何か理由があるのでしたら…いま此処で弁明を頂きたいのですが?」

 クレハも静かな口調ながら、
 強い意を含んだ言葉で俺に問いかけて来た。
 うっ、静かな問い詰めはかなり怖いですねクレハさん…。

「えっとなあ…それは…
ツツジは俺に剣を飛ばされた時に呆然として完全に無防備になっていた。
もう実質戦闘不能だろう。
そんな状態の彼女に追い打ちの一撃を喰らわす必要なんて無いだろうと
俺は思ったんだよ」

「ですがケイガ兄様。
そうやって油断させておいて…
隠しておいた武器でグサリ、
と言う事もありますわよ!」

「イロハの言う通りですね。
やはり完全にとどめを刺さなくては
兄様の勝利とは言えないのでは無いでしょうか?」

 うっ、二人とも容赦ない物言いだが
 確かに理にはかなっている…。
 そう…戦闘に於いて、
 止めを刺さずに勝利宣言など絵空事でしかない。
 俺はちらりとツツジに目線を移した。

 彼女は姫騎士団プリンセスナイツの中でも最年少の、か細い印象の娘である。
 そして俺の妹の一人でもある。
 …何と言うか、兄としては、
 その…例え戦闘訓練であっても…
 彼女に手を上げるという事には抵抗感というか…
 罪悪感があるのである…。
 しかも彼女は俺に剣を飛ばされた時に呆然として完全に無防備になっていたのだ。
 そんな彼女に手を上げるなんて俺には…出来なかった。

「…ああ、そうだな。
俺は…まだまだ甘いという事だな。
訂正する、今回の戦いは続投だ。
ツツジ、行くぞ!」

「…はい、兄様…」

 戦いとは容赦ないものである。
 これから戦う魔族の中にはツツジの様な印象の娘が現れないとも限らない。
 だからこの組手稽古で俺は…ツツジに止めを刺さなければならないのだ。

 俺は拳を握り締める。
 ツツジは鎧の腰だれの箇所から小剣を二本取り出して二刀流の構えを取った。

 そして次の瞬間、俺とツツジは交錯した。
 刹那の瞬間、俺の正拳突きに跳ね飛ばされたツツジのか細い身体が宙に舞った。
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