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第145話 武器を使う

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 俺は地上へと舞い戻ると、
 クレハとイロハの攻撃を捌きながら常に自分の死角へと気を配る。
 ツツジの暗器騎士の技は本物だ。
 俺の見通しの眼鏡スカウターレンズはツツジの魔力数値を察知出来なかった。
 つまり彼女は視覚、音、気配だけではなく魔力をも消していることになる。

 多人数に対し個人の俺は不利。
 そして武器持ちの相手に対し素手の俺は不利。
 俺に取っては不利尽くしである。
 …だが、それがいい!
 組手稽古の相手に取っては、まさに不足無し。
 相手が武器持ちならば、
 こちらも武器を調達し手に取って臨機応変に対応するのが
 そもそもの『地ノ宮流気士術ちのみやりゅうきしじゅつ』の真骨頂。
 此処はポーラ姫に願い出て、貸して貰った”武器”を使う事にする。
 俺は腰に差していた中剣ミドルソードを右手で引き抜いた。
 そして右手のひらに集中していた気を剣の刀身に一気に纏わせる。

「ゆくぞみんな!
地ノ宮流気士術ちのみやりゅうきしじゅつ・十一の型、気円斬撃きえんざんげき!」

 俺は右手に握った剣を自分の周囲に円状に振りかぶった。
 どおおん! という轟音と共に円状の気の斬撃波が360度周囲に解き放たれて
 クレハ、イロハ、ツツジに迫り来る。

「はっ!?」

「な!?」

「…!?」

 三人はそれぞれの武器を盾代わりに俺の斬撃波を受け止める。
 超高速の必殺攻撃の筈だが流石である。
 だが動きを止めることが出来れば、それで充分。
 俺は両足に気を集中させると大地を蹴り上げて弾丸の様に跳んだ。
 そしてクレハの間合いの中に一気に踏み入れる。
 驚きの表情を浮かべる彼女。

「はあッ!」

 俺はクレハの腹部を覆う鎧に目掛けて、正拳突きを放つ。

「はうっ!?」

 大きく後ろに吹き飛んで地面にふれ伏すクレハ。
 ひとりが戦闘不能になり、彼女たちの三位一体の攻撃は崩れた。
 俺は再度両足に気を集中させると大地を蹴り上げて弾丸の様に跳ぶ。
 そしてイロハの間合いの内へと着地した。

「くっ、兄様!」

 イロハは細身剣レイピアを高速で突き出して来るが、
 俺は左手に握った剣でその一撃を受け止める。
 そして続けざまにイロハの腹部を覆う鎧に正拳突きを撃ち込んだ。
 その場に倒れ伏す彼女。
 残るはツツジのみ、俺は彼女の気配を探る。
 相手が三人の時は気配察知も分散する必要があったが今は一人のみ。
 精神を極限にまで集中させれば、今のなまっている俺の感覚でも捉えられる筈。
 …ほんの僅かに気が動いた気がした。
 俺は背面斜め左方向から来るその”気”に向かって剣を振りかぶった。

「…あう!?」

 がきん!
 という金属音と共に一本の剣が空中に飛んで地面に落ちた。
 そして剣を失って丸腰になって立ち尽くすツツジの姿。
 よし、これで最後だ。
 俺は右手拳を握りしめると
 先の二人同様に腹部を覆う鎧に正拳突きを…と思ったが、
 ぽかんとしたまま無防備状態で居るツツジの顔を見て拳筋を変更。
 彼女の頭にぽんと手を乗せた。

「…よし、これで俺の勝ちだな」
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