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第131話 目覚め

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「ごめんミリィ、ちょっと痛いぞ」

 俺はミリィの左右のほっぺを両手で摘まみ上げると、
 おもむろに引っ張った。
 ぎゅうううう、と。
 まるで突きたてのお餅のように伸びるミリィのほっぺ。

「ふがが! ふがががが!! ふがぁがあがぁがが!!!」

 ミリィが何かを言っている。
 だが俺に頬を引っ張られたこの状態では、
 人の言葉を話すのは難しいだろう。

「ふががががー! ふごぉががががー!! ふがうがごふごがぁがぁーー!!!」

 ミリィは顔を真っ赤にしながら俺に何かまくし立てている。
 その勢いはヒートアップし、
 言っている言葉が何たるかは分からないが
 彼女が俺に対して凄く怒っているという事は伝わって来た。
 俺は彼女の頬からから両手を離した。
 お餅のように伸びていたミリィのほっぺがばちんと音を立てて元に戻った。

「痛い痛い痛いっー!?
…ひ、非道いじゃないかっ?
兄君様あにぎみさまあっ!
な何でボクのほっぺをこんなにも強く引っ張ったんだい!?」

 ミリィは真っ赤に腫れた自分のほっぺをさすりながら
俺に対して抗議の声を上げた。

「ごめんなミリィ。
ほっぺを引っ張ったのは、
此処が夢じゃなくて現実だってことをわからせる為だよ。
おはよう、目覚めの気分はどうかな?」

「えっ? 夢じゃない? 現実?
何言っているんだい兄君様あにぎみさま
此処は夢の中に決まっているじゃないか?」

「それじゃあ、そのほっぺの痛みはどう説明するんだ?
今でもじんじんと痛むだろう?
夢の中で痛みを感じるなんてこと…有り得るかな?」

「えっ…?
確かに今でも痛いけれど…?
ええっ…!?
つまりそれって…つまり…??
ええええっーーーー!!??」

 ミリィは俺の眼の間で驚きの余り絶叫した。
 でも流石はミリィ。
 頭の回転が速い彼女だから理解も速かった。
 俺は彼女の驚き叫ぶその姿に既視感きしかんを覚えた。
 ほんの少し前に俺が精神世界で静里菜せりなに見せた姿と
 ほとんど同じだったからである。

「そ、そんなあー!?
目覚めてすぐに兄君様あにぎみさまの顔があったら…
これは夢に決まってると思うじゃないかあーー!!」

 ミリィは頭を抱えながら叫び続ける。
 そう…ミリィは精神世界を夢の中と思い込んだ俺と同じ様に、
 現実世界を夢の中と思い込んでいたのである。
 簡潔に述べるなら…
 彼女は俺に起こされてから今までずっと寝ぼけていたのだ。

 俺は精神世界での自分の失敗の経験が生きた。
 ミリィが見せた、
 異様なテンションの高さと感情に任せた行動。
 その姿が先程の精神世界での俺自身の姿と重なったのである。
 そんなミリィの様子からかんがみて…
 彼女は俺と同じ様に、此処を夢の世界と思い込んでいるのでは?
 と予想することが出来たという訳である。
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