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第104話 置かれた剣

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「ん…?」

 俺は部屋の隅にある棚の上に飾られた剣にふと目がいった。
 横型の剣掛つるぎかけに鞘に納められて置かれた一振りの剣。
 その刀身はそう長くはなく、長剣ロングソードでは無く中剣ミドルソードと言った所であろうか。

 俺はその剣を手に取った。
 ズシリと金属の塊の重量が俺の手にのしかかった。
 男の子というものはこういうモノが大好きなのである。
 逆らうことが出来ない男のさがと言うべきものであろうか。
 そしてそのまま鞘から剣を引き抜いた。
 その刀身は片刃で幅広であり頑強な形状をしている。
 バスタードでは無くファルシオンといった所である。
 この剣は只の宝飾品では無い。
 幾度となく実戦で使われた形跡がある。
 鞘、柄、鍔、刃、大きな損傷は無いものの、
 各所に無数の細かな傷が見えるのである。
 この剣はファイズ殿下が戦いで使っていた剣なのだろうか…?
 その刃の輝きが俺を照らした。

 本来ならば、
 客室に置いてある剣を手に取って抜くなど非礼極まりない行為であろう。
 だが俺はその剣を見やってからというもの…
 何の遠慮も無くその行為に及んでしまったのである。
 まるで剣に導かれるように。

 そして剣を見つめながら俺は過去の戦いを思い出していた。


 俺はこの異世界に飛ばされる前から戦いに身を投じていた。
 地ノ宮流気士術ちのみやりゅうきしじゅつ気士きしとして、
 地ノ宮神社ちのみやじんじゃの巫女さんである地ノ宮 静里菜ちのみや せりな
 そして地ノ宮流気士術ちのみやりゅうきしじゅつの師匠である静里菜せりなの親父さん、
 地ノ宮 俄威ちのみや がいと共に数多あまたの『あやかし』と戦っていたのである。

 地ノ宮流気士術ちのみやりゅうきしじゅつ気士きしは武器は選ばない。
 状況に応じて臨機応変に武器を使い分けることが求められる。
 俺の戦い方は格闘術が主体ではあるが、
 刀、槍、といった武器を使った戦い方も一通り会得している。

 俺は格闘戦を主とする今の戦法にこだわりがある。
 武器を所持しないことで常に身軽であり、
 武器の喪失を気にすることも無い。
 状況に応じて臨機応変に戦えるからである。
 相手が武器を使っていようとも、並の腕前ならば渡り合える自信はある。
 だが武器持ちの相手が俺と同格以上の腕前であった場合は
 どうしても不利になってしまう。
 同じ条件であった場合、
 威力と耐久面ではどうしても生身である拳の方が
 武器に対して劣ってしまうからである。

 あやかしの中でも上位存在である『鬼』は武器を所持している者が多く、
 その腕前も並の人間とは比べ物にならない。
 実際、俺の格闘術主体の戦法ではされることも多々あった。
 そんな場合は、相手の武器を拾って一時的に使用する。
 または師匠から一時的に刀や槍と言った武器を借りて対応したものである。

 しかしこの異世界エゾン・レイギスでの、
 『鬼』に匹敵する力を持った『魔族』との戦いでは、
 俺は今までの様に武器の調達ができず後れを取ってしまった…。
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