上 下
96 / 556

第96話 過小評価

しおりを挟む
 俺は温かいお湯の中に全身を浸からせて心を落ち着かせた。
 何だか久しぶりに穏やかな時を過ごせている気がする。

 それにしても少し前の浴場での出来事は俺には余りに刺激が強すぎた。
 いやあ…どうしてこうなった?

 原因は解っている。
 俺が姫騎士団プリンセスナイツの団員の一人であるツツジと一緒にお風呂に入ることになったことが起因している。
 つまり姫騎士団の団長であるシノブさんの判断ミスなのである。

 彼女は俺の妹たちで唯一、俺が”男性”であることを察した筈なのだ。
 そうだったにも関わらず、この事態を引き起こしたのである。
 さっき俺が彼女に話したいことがあると言ったのは、この事についてなのである。

 俺が男性であることを察したのなら、
 何故俺に何の相談も無く、ツツジを一緒に風呂に入らせたんですかあ!
 あなたは俺が男性であると本当に察したのか問いたい!
 問い詰めたい!
 小一時間程問い詰めたい!
 …あなた、本当は何もわかっていないでしょおっ!?

 俺は心の中でシノブさんに思いっきり糾弾した。
 流石にこの激しい物言いのままで彼女に問うつもりは無い。
 しかし言葉を選んで彼女に是正を促すことは必須である。
 そうしなければ…俺は今後も同じような事で苦労することになるであろうから。

 しかし…それにしても…静かである。
 俺は両手を、両足を、背中を伸ばして、大きく息を吸い、吐いて、心の底からリラックスをした。

「はあ…やはりひとりで入る風呂は最高だあ…」

「なるほど、ケイガ兄様はおひとりでお風呂に入られるのが好みなのですね」

「そりゃあそうでしょう?
何の気兼ねも無く、一人で自由に身体を洗い、自由にお湯に浸かる…
それが俺としてのお風呂の至高ですよ。
…って! シノブさんいつの間にいいいっーー!!」

 いつの間にか隣で全身をお湯に浸からせていた姫騎士団プリンセスナイツの団長シノブさんの姿に俺は仰天した。

「はい、今さっき此処に。
ケイガ兄様は私に話があるとおっしゃいましたので、
ユウカ様を寝室を送り届けました折、急ぎ戻って来ました」

 …そ、そんな、全く気配を感じなかった。
 俺は半年間の引き籠りでかなり衰えているとは言え、地ノ宮流気士術ちのみやりゅうきしじゅつ気士きし
 並の相手であれば、背後から忍び寄ってくる気配でも感じ取れるのである。
 俺は先程、姫騎士団の中でも気配を隠す事に最も優れているという『暗器騎士あんききし』を務めるツツジの気配を感じ取れず後れを取った。
 そしてたった今、シノブさんの気配も全く感じ取ることは出来なかった。
 姫騎士団プリンセスナイツを統べる団長ともなればこれぐらいは当然ということなのか…?
 自分は姫騎士団の、そして団長シノブさんの力を過小評価していたのかも知れない。
 ここに来て俺は、自分の考えの甘さ、そして自分の未熟さを痛感した。
 セカイは広い。
 俺よりも高い能力を持つ者は幾らでもいるという事なのだ。

 …いや、今はそれよりもですね!
 俺は自分の隣で悠々とお風呂に浸かっている全裸の美人女騎士さんに向かって口を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?! はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?! 火・金・日、投稿予定 投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』

稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜

撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。 そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!? どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか? それは生後半年の頃に遡る。 『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。 おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。 なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。 しかも若い。え? どうなってんだ? 体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!? 神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。 何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。 何故ならそこで、俺は殺されたからだ。 ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。 でも、それなら魔族の問題はどうするんだ? それも解決してやろうではないか! 小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。 今回は初めての0歳児スタートです。 小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。 今度こそ、殺されずに生き残れるのか!? とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。 今回も癒しをお届けできればと思います。

ロウの人 〜 What you see 〜

ムラサキ
ファンタジー
主人公 ベリア・ハイヒブルックは祖父と2人だけでゴーストタウンと成り果てたハイヒブルック市に住む。 大地震や巨大生物の出現により変わり果てた世界。 水面下で蠢く事実。 悲観的な少女、ベリアはあらゆる人々と出会いながら、どう生きていくのか。 幸せとは何か。不幸とは何か。 立ち向かうとは何か。現実逃避とは何か。 荒廃した世界を舞台に少女の成長を描く物語。 『西暦5028年。絶滅しかけた人類は生き残り、文明を再び築き上げることができていた。そして、再び己らの罪を認識する時がくる。』 毎夜20時に更新。(その都度変更があります。) ※この作品は序盤の話となっています。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

しゃむしぇる
ファンタジー
 こちらの作品はカクヨム様にて先行公開中です。外部URLを連携しておきましたので、気になる方はそちらから……。  職場の上司に毎日暴力を振るわれていた主人公が、ある日危険なパワハラでお失くなりに!?  そして気付いたら異世界に!?転生した主人公は異世界のまだ見ぬ食材を求め世界中を旅します。  異世界を巡りながらそのついでに世界の危機も救う。  そんなお話です。  普段の料理に使えるような小技やもっと美味しくなる方法等も紹介できたらなと思ってます。  この作品は「小説家になろう」様及び「カクヨム」様、「pixiv」様でも掲載しています。  ご感想はこちらでは受け付けません。他サイトにてお願いいたします。

異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

処理中です...