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第92話 優羽花(ゆうか)、暴走

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 俺の目の前でひっくり返った優羽花ゆうか
 そのあられもない姿が俺の瞳にいやおうなく飛び込んで来た。

「きゃあああああーーーー!!??」

 優羽花は絶叫を上げながら床に落ちていたタオルをたぐりよせると、胸から下腹部までを覆い隠す。
 そして俺を凄い形相で睨みつけた。

「み、み、み…見たわよねええーー!!」

「…大丈夫だ、俺はすぐに視線を逸らしたから。ほとんど見ていないぞ」

「う、嘘付けえ! あたしの右の太ももの付け根のほくろまでばっちり見たくせにい!」

「…えっ右? 左のふとももじゃないのか?」

「…間抜けは見つかった様ねえ…」

 …何い!?
 優羽花は直情的な性格で、頭を使う絡め手といった事は得意では無い筈だ。
 そんな彼女がミスリードを誘ってくるとは?
 俺はまんまと乗せられてしまったというのか!?

「優羽花あ! よくもだましたなアアア! だましてくれたなアアア!!」

「うっさいこの馬鹿スケベ嘘付きお兄いー!」

「…俺が見なかったほうが優羽花には良かれと思って、気を利かせたつもりだった。
でも確かに嘘はいけなかった、それに付いては謝ろうじゃないか。
だが俺は優羽花が子供の頃は良く一緒にお風呂に入っていた、お前の身体は頭のてっぺんから足の指先まで全て把握していると言って良いだろう。
そんな妹歴16年の優羽花の裸を今さら見たところで…さっきも言った通り、俺は何の劣情も感じないのだよ!
だからスケベ兄と言う箇所については全力で否定させて貰おうか!」

「な、な、な…何ですってえええーー!!」

 顔を真っ赤にして激昂する優羽花はタオルを自身の身体に巻きなおすと、俺の腰に巻かれているタオルに手を掛けた。
 えっ…な、何を!?

「それだったらこうよッー! あたしの裸を見たんだから! お兄の裸も見せなさいよおーー!」

「…こ、こらっ優羽花! 何を馬鹿な事を!?」

「馬鹿じゃないんだから! これでおあいこだもん! 引き分けなんだからね!」

 優羽花は怒りに満ちた形相に涙まで浮かべながら支離滅裂な言動で俺を責め立てる。
 これはいけない、我が妹は完全に冷静さを欠いている。
 そもそも俺を裸にすることで引き分けという前提が間違っている。
 乙女の裸と野郎の裸が釣り合いが取れる筈が無いのである。
 優羽花の一時の感情に任せた暴走行為を止めるのも兄としての役目であろう。
 だが正直こんなことになると思っていなかった。
 俺が腰に巻いていたタオルは他人に引っ張られることを想定しておらず非常に防御力が低いのである。
 このままではまずい…外されるっ!?

「シダレ! ツツジ! 優羽花を止めてくれ!」

 俺は優羽花の暴走行為を前に、呆然と立ち尽くしていた姫騎士団プリンセスナイツのふたりに助けを求めた。
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