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第88話 白々しい返事

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「…どうだいツツジ?
俺の背中磨きテクニックもなかなかのものだったろ?」

「…は…い…。
兄様…すごかったです…」

 ツツジは恍惚こうこつした表情かおで俺を見つめながら返事をした。
 愛しい妹が満足してくれたらなら、兄としては感無量である。

「でもツツジの背中磨きテクニックも凄かったぞ?
もし良かったら…また俺の背中を流してくれるかい?
その時はもちろん俺もツツジの背中を流すからさ?」

「…はい。ツツジも、兄様の背中磨き…大好きです…。よろこんで…」

 俺とツツジは此処にふたりだけの秘密の約束をした。
 お互いの背中磨きテクニックに惚れこんでしまったのである。

「お兄! そこに誰かいるの?」

 そんな俺たちの頭上から突然、優羽花ゆうかの声が突き刺さった。

 …えっ!? 
 どういうことだ?
 ここは男湯だろう??
 俺は天井を見渡した。
 壁の一番上に空間が空いている箇所があって隣の部屋と繋がっている様だ。
 そこから優羽花の声が聞こえた様である。
 なるほど男湯と女湯は壁でへだたれているが天井部分は繋がっているという、これも日本の銭湯の仕様そのままということか。

「お兄ー!? お兄ー!?」

 優羽花の問いかけが続く。
 俺は正直な所、返事すべきか迷った。
 ここにツツジが居る事を優羽花にどう説明すべきか?
 …いや別に俺は何もやましいことはしてない。
 ただ背中を洗っていただけなのである。
 しかし俺は、姫騎士団プリンセスナイツの中で最も幼く心身共々か細い印象のツツジに対して少々過保護気味という自覚がある。
 彼女がいらぬ誤解を受けて優羽花に問い詰められるのは避けるべきだと思ってしまったのである。
 その考えが優羽花への返事を遅らせた。
 これは致命的なミスだったのだ。

「…何で返事しないのお兄?
居るのは解っているんだからねッ!」

 優羽花の声が明らかに怒気どきを含んだものに替わった。
 まずい…俺は急ぎ口を開いた。

「…ど、どうしたんだ優羽花? ここには俺のほかに誰も居ないぞー?」

 俺は白々しい返事をした。

「嘘付くなあっ!
さっき女の子の声がしたのはちゃんと聞こえたんだからねッ!!」

 ああっー!?
 さっきのツツジの声がしっかり女湯まで聞こえてましたあっー!

「…もういい。
そっちに行くから!」

 …えっ!?
 このままではまずい。
 俺はツツジの手を取った。

「ツツジ、このまま此処に居ると俺はまずいと思う。
とにかく急いで出よう」

「は、はい。兄様!」

 俺はツツジの手を引いて浴場の出入り口へと向かった。
 だが脱衣所からガタガタと音がする。

 …えっ?
 もう入って来たのか?
 早すぎるっ!?
 もしかして全速力で走って来たのか優羽花あっ!?

 そして浴場の出入り口の扉がガラッと音を立てて開いた。
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