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第84話 暗器騎士

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「…兄様? もしかしたらツツジとお風呂に入るのはご迷惑でしたか…?」

 ツツジは今にも消え入りそうな声で俺に問いかけて来た。
 長い前髪の間から綺麗な瞳が潤んでいるのが見えた。

「…そんなことは無い、愛しい妹と一緒にお風呂に入ることが出来るなんて、兄としては幸せ者だよ」

 俺はツツジの細い肩に手を乗せて優しく言い聞かせるように言葉を返した。
 ツツジは姫騎士団プリンセスナイツの中でも心身共々か細い感じがする。
 おそらく最年少では無いだろうかと俺は思う。
 …だからなのだろうか?
 俺は今、他の団員よりもちょっと過保護な感じに対応している様である。
 子供の頃の優羽花ゆうか静里菜せりなに対しての対応に近いのかも知れない。

「…良かった…です…」

 ツツジはにっこりと笑った。
 俺もつられて笑顔になった。

「でもそういうことなら俺と一緒に浴室に入れば良かったんじゃないか?
ツツジが後からいつの間にか入って来たから、正直俺はびっくりしたぞ?」

「…ごめんなさい…。驚かせてしまいましたか…?」

「まあ正直な。気配も感じなかった。もしかするとツツジは気配を隠すのが得意なのか?」

「…ツツジは、姫騎士団の中でも気配を隠す事には最も優れているとシノブ団長には言われています…。
ですから、ツツジは姫騎士団での集団戦闘では敵方に死角から必殺の一撃を入れる『暗器騎士あんききし』を務めています…」

「へえ…ツツジは凄いんだなあ」

 俺はツツジの能力に素直に関心した。
 半年間の引き籠りでかなり衰えているとは言え、俺は地ノ宮流気士術ちのみやりゅうきしじゅつ気士きし
 並の相手であれば背後から迫る気配なども普通に感じ取れる筈なのである。
 つまりツツジの気配を隠す能力は、今の俺では感じ取ることが出来ない相当なレベルの能力ということになる。
 俺は感覚の面でも、もっと腕を磨く必要があるなあと思い知らされた。

「…そんなことは無いです…。
…ツツジは姫騎士団としてはまだまだ未熟です…。
…本当は、ツツジは兄様を警護をする身としては…一緒に入るのがしては正しかったんです…。
でも…その…それだと…兄様に…服を脱いでるところを見られてしまうから…恥ずかしくて…。
…あとから入ることになってしまったんです…」

 ツツジは恥ずかしそうに真っ赤になった顔を両手で覆った。

 うあああああああ!
 乙女の恥じらいいいいいいい!
 可愛すぎるううう!!

 俺は心の中で悶え叫んた。
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