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第55話 聖王女

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「ポーラニア殿下の御成りである、一同、頭(こうべ)を垂れよ」

 姫騎士団(プリンセスナイツ)の団長シノブの言葉が謁見の間に響く。

 この国の大臣、ゴルザベス。
 「商会」のトップ、商会長バイアン。
 「教会」のトップである教会長クリスト。
 彼等は一斉に頭を下げた。
 姫騎士団長シノブ、そして姫騎士団の全員、謁見の間にいる全ての者が頭を下げているその場に、いつも身に纏っているシスターの装束の上に王族の豪華絢爛(ごうかけんらん)なマントを羽織り、煌びやかな王族のティアラを頭に乗せ、王笏(おうしゃく)を手にしたポーラ姫が姿を現した。

 謁見の間の上座には3つの椅子がある。
 真ん中にこの国の長たる王の椅子。
 右にこの国の第二位の者が座る椅子。
 左に第三位の者が座る椅子。

 順序としては真ん中の椅子には王。
 右の椅子には王妃。
 左の椅子には第一王位後継者が座る。

 この聖王国の王は病で静養中、王妃は既に亡くなっている為、第一王位継承者であるポーラ姫は右の椅子に座るのが常時であろう。
 だが彼女は真ん中の椅子の前に歩み出ると、マントをばさっと翻してその椅子に座った。

「ポーラニア殿下! その椅子に座るということがどういうことかわかっておいでか!」

 この国の貴族派の筆頭でもあるゴルザベスは思わず大声を上げた。

「わたくしは父上であるカイザ国王陛下から国王代理として全権を任せられております。
人間の存亡を賭けた魔族との戦いに身を呈しているエクスラント聖王国の長が不在では国民にも各国にも示しがつかないでしょう」

「…しかし国王陛下本人はこの場にはご不在な時に、その様なことをなれるのは不要な混乱を招くのでは無いのですかのう?」

 聖王国はおろか、各国にも絶大な影響を持つ宗教団体「教会」のトップである教会長クリストが意見を述べた。

「クリスト教会長、わたくしは『教会】の一機関、『修道会』の長、『聖女』を務めています。
『聖女』は光の力を宿す乙女のみが就くことが出来る神聖なる役職、そして同じ光の力を持つ勇者様を助けるのがその役目、いわば魔族から人間を護る最前線の防波堤とも言えましょう。
国王陛下から代理をたまわり、聖女でもあるわたくしは、文字通りこの国を体現する『聖王女』なのです。
その様なわたくしでも、この椅子に座るのは不徳と申すのですか?」

「で、ですが、第二王位継承者であるイクシア王子殿下も対魔族軍の遠征でご不在の今、他の王位継承者の方々も異議を申し上げるのでは?」

 王国御用商人で各王族と繋がって優位に手広く商売をしている商会長バイアンは意見を述べる。

「だったら、ボクが認めようじゃないか!」

「ミリフィア公爵殿下の御成りである、一同、頭(こうべ)を垂れよ」

 ミリフィア公爵が何の前触れもなく謁見の間に姿を現した。続いてシノブ団長の言葉が謁見の間に響き、姫騎士団は全員頭を下げる。
 ミリィの急な登場に驚き、急ぎ頭を下げるゴルザベス、バイアン、クリストの三人。

 ミリィはいつも身に纏っている魔術師のローブの上に王族の豪華絢爛(ごうかけんらん)なマントを羽織り、煌びやかな王族のティアラを頭に乗せている。
 そして彼女は上座の左席の椅子の前にまで歩み出ると、マントをふわりと翻してその椅子に座った。

「我が従妹(いとこ)ポーラニアが代理とは言え、王の椅子に座るのなら第三王位継承権を持つこのボクがここに座るのが当然だろう。
そして当然ボクは我が従妹(いとこ)ポーラニアを支持するよ。これならばたとえ、第二王位継承者であるイクシア王子殿下が異議を申し立てたとしても問題はないという訳だね」

「ぐ…おっしゃる通りでございます」

 ゴルザベス、バイアン、クリストの三人は歯がゆい声をあげつつも頭を下げてミリィの言葉に頷くしかなかった。
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